ベルリオーズ(1803〜1869)
                                                          

晩年のベルリオーズ

 ベルリオーズといえば、誰しもが「幻想交響曲」を連想する。そして誰しもが「幻想交響曲」をロマン派の最高傑作の一つに数えることをためらわないであろう。1930年奇しくもフランスでは七月革命が起こった年、ベートヴェンが逝去して3年後に、ロマン派のすべてを語り尽くしたような、このような素晴らしい交響曲を作曲したベルイオーズの天才を讃えずにはいられない。

しかし、偶然にこのような交響曲が生まれたわけではない。ここで、ベルリオーズの作曲家としての特徴を、時代背景を交えながら考えてみたい。

彼の人生観を決定したのはシェイクスピアであった。ロマン主義にシェイクスピアが与えた影響がいかに大きかったかは、すでにメンデルスゾーンの欄で述べたが、ベルリオーズの場合は、単に芸術観のみならず、人生観すべてに影響を与えたということである。1827年にパリのオデオン劇場で英国劇団によるシェークスピアの上演が開催された。ハリエット・スミッソン嬢が主演女優として加わったこの劇団は、パリで熱狂的な歓迎を受けることになる。「ハムレット」と「ロミオとジュリエット」を続けて観たベルリオーズは圧倒的な興奮に包まれる。一つは美貌のハリエット・スミッソン嬢に熱狂的な恋心を抱いたことと、もう一つはこの演劇の感動が彼の生き方の在り方を決めてしまったことであった。彼の「回顧録」から引用すれば、「こうした詩的な生命に生き、そして同様の死を死することだ」「そうでなければ全く無に帰してしまう!」という人生観に到達したしたことであった。彼はこれらのドラマの中に崇高な生き方を見いだしたのであった。

そして、この感動は生涯を決定し、晩年になりすべての音楽活動を停止しても、ベルリオーズはシェイクスピアの朗読を欠かすことはなかった。彼の辞世の句もまたマクベスからの引用であった。「人生は動き回る影、哀れな俳優にしかすぎない。彼は舞台の上で動き回ったり、いらだったりするが、やがては噂すらされなくなる存在なのだ・・・」

かくのごとき人生観をもったベルリオーズにっとては、音楽と文学とは一体でなければならなかった。「幻想交響曲」から始まった彼の作品のすべては標題性をもったものである。彼の音楽には文学的イメージがあり、それが魅力ともなるし、また難しさともなる。これだけの天才にもかかわらず、今現在においても、ベルリオーズの作品は「幻想交響曲」以外に演奏される曲目は少ない。文学という言葉の壁が人々を敬遠させるのである。


事実、彼の人生そのものがドラマであるといっても過言ではない。彼が書いた「回顧録」は小説より面白いというのも彼の人生観をよく表している。奇想天外な彼の言動は「幻想交響曲」の由来を見ても充分うなずける。

さらに、ベルリオーズが築いたオーケストレーションは19世紀のオーケストラの見本となった。管楽器や打楽器の多彩な使用、さらには合唱を伴った大規模な管弦楽、これらロマン派の規模の大きな、しかも多彩な音楽の在り方は、ベルリオーズに由来する。若いベルリオーズが求めてやまなかった音楽の質量の増大性は、18世紀の宮廷音楽とは全く異質のものである。音楽の質量の増大は、フランス革命に由来する。革命期のフランスでは、音楽は革命の最もよき手段と考えられていた。想像を絶するような多数のグループからなる合唱とオーケストラの奏でる「最高存在への賛歌」は革命の精神を最もよく象徴したのである。革命の洗礼を受けたフランスで、ベルリオーズが最も先端的に音楽の質量の増大性を求めたのも不思議ではない。オペラも絢爛豪華なグランドオペラでないと人々は満足しなかった。ベルリオーズはそのような精神を最も早く追求した作曲家であった。そのような英雄主義ともいえる雄大さは、19世紀ロマン派の基調になることは云うまでもない。

ロマン主義の旗手であったベルリオーズは、音楽家だけではなく、多くの作家とも懇意であった。19世紀の前半のパリはヨーロッパの文芸の中心都市で、多くの音楽家や作家の集まる都市であった。ベルリオーズのコンサートには、リストやパガニーニという音楽家だけではなく、ユゴー、アレクサンドロ・ヂュマ、ハイネといったロマン主義の作家も常連であった。彼らは、ベルリオーズが経済的に行き詰まると惜しみない応援の手をさしのべた。パリでは文学も音楽もさらには美術も常に一体となって展開していたのである。



幻想交響曲

 ベルリオーズは、シェイクスピアの花形女優ハリエット・スミッソンに一目惚れしてしまい、劇団に巧みに近寄り、恋いこがれる想いを手紙に託して彼女に送り続けたが、彼女はその激しい調子に返って恐れをなし、無名のベルリオーズを顧みようとしなかった。「回顧録」によると、そこでベルリオーズはその虚しさを明かすために、想いを込めた一大交響曲を書き、ロンドンでしかも彼女の前で演奏し、報われることの無かった恋の傷手の復讐をしようと思い立ったのであった。

そしてこの交響曲に次のような標題がつけられた。
「ある若い芸術家が恋に破れ、この世に疲れ果てて、アヘンを飲んで死のうとする。しかし、毒物の量は彼を死なせるに足りなかったために、彼は深い眠りに落ち、一連の夢を見る。その夢の中で、芸術家の恋の物語が繰り返され、幻想的で奇怪な解決へと導かれていく。」

ベルリオーズはこの交響曲をゲーテの「ファウスト」の影響で書き始めたと述べている。人生に絶望して毒杯をあおごうとしたが死をまぬがれて、メヒィストフェレスとともに夢のような中を行動するファウストの筋書きに、標題の言葉は似ている。また、終楽章のワルブルギスの夜も「ファウスト」の同名のシーンにヒントを得ている。ベルリオーズの「ファウスト」好みはリストをして「交響詩ファウスト」を書かせたほどであった。「初めに行動ありき」というファウストの言葉とベルリオーズのドラマチックな精神とが共感したものと思われる。

第1楽章 恋愛の憧憬と情熱をこれほど美しく表した音楽があるだろうか。全楽章に「ロマン派の風」が吹いている。

第2楽章 美しく華やかな舞踏会のワルツ。映画音楽になってもよさそうな写実性がある。ハープを管弦楽に初めて採用した。中間部での恋人の固定楽想が素晴らしい。全楽章に「ロマン派の風」が吹いている。

第3楽章 野の風景 羊飼いの角笛の聞こえる野原で、恋人へのひしひしとした想いが迫ってくるダイナミックな楽章。ベルリオーズが一番力を入れて書いた。すべてに「ロマン派の風」が吹いていて素晴らしい楽章である。

第4楽章 断頭台への行進 夢で恋人を殺してしまいギロチンにかけられる情景。破棄されたオペラ「宗教裁判官」の場面から転用されたもので、一晩で仕上げられた。最後に恋人の固定楽想が出てくる。初演でアンコールされた楽章である。


第5楽章♪♪

ワルブルギスの夜(全世界の魔女が集まる夜)の夢 断頭台の後、魔女の宴に取り囲まれる。奇怪な音楽と同時に、力強い英雄的な音楽でもある。

             サルダナパールの死      ドラクロア


 ドラクロアは、1827年サロンに畢竟の大作を出品した。それは、縦4m、横5mの巨大な絵画であった。左図はその部分である。左上方にサルダナバールが憮然と横たわっている。(この画像には頭の部分が見えない)

サルダナバールは、バビロニアの国王とも言われ、彼は反逆者に城を取り囲まれた。その時の断末魔を描いている。ロマン派の大家であったドラクロアは、そのような緊迫した場面を、ドラマチックにしかも力強く描いている。ロマン派は、日常を超えたドラマチックな場面を力強く描いたことに特徴がある。力強い情熱的な筆致は、すべてのロマン主義芸術の特徴である。ここにはセンチメンタルな要素はあまり見られない。

「幻想交響曲」の5楽章は「ワルブルギスの夜」というタイトルがつけられている。
世界中の魔女が乱舞する夜である。ベルリオーズは、奇怪でしかも力強い音楽を創造している。ドラクロアの「サルダナバールの死」でも、王の愛妾達が乱舞するように、しかも動的に力強く描かれている。

1832年イタリア遊学からパリに帰国する。ちょうどハリエット・スミッソンがマネージャーになって英国劇団がパリで公演していたが、かっての人気はなく、不入りで赤字続きであった。事情を察した人物がハリエット・スミッソンにベルリオーズを知らせるために、ベルリオーズのコンサートを企画して「幻想交響曲」を演奏させた。この時、初めて彼女はベルリオーズの存在を知ることになる。このコンサートは大成功でベルリオーズは、一躍パリの有名人になるのでる。そして、ベルリオーズは彼女と交際を始めて結婚を決意する。かっての無名の音楽家が、著名であるが落ちぶれた女優を獲得するという奇跡的な行為が実現するのである。


しかし、ブルジョワのベルリオーズの両親は、多額の借金を背負ってしまった女優との結婚を反対する。ベルリオーズは訴訟で両親の反対をおしきり、1833年念願の結婚を果たした。毎月200フランの某の給付金をもらうベルリオーズは、1万4千フランの負債を抱えた彼女と結婚して、多くの友人に祝福され新生活をスタートした。二人の負債を救ったのはパガニーニだった。パガニーニはベルリオーズの「イタリアのハロルド」「幻想交響曲」を聞いて、ベルリオーズをベートヴェンの後継者と賞賛して、彼に2万フランを贈呈することを約束したのであった。

このように、「幻想交響曲」の由来には想像を絶するドラマがあったのである。まるで、ベルリオーズは小説の主人公のような存在であった。


イタリアのハロルド

 ベルリオーズは、フランス・アカデミーのローマ大賞をとり約1年イタリアに遊学した。帰ってハリエット・スミッソンと結婚して、モンマルトルに居をかまえる。新婚間もなく、ベルリオーズはイタリア遊学の思い出を綴った交響曲を完成する。これが「イタリアのハロルド」である。

イタリア遊学中に実は大変な事件を起こしたのであった。その間の想いやイタリアの明朗な光景などをこの交響曲に込めている。1830年ベルリオーズは「幻想交響曲」を完成するが、このころになるとハリエット・スミッソンへの熱病もさめ、他の女性に関心が移っていた。相手はマリー・モークという若くて美しいピアニストであった。この年にベルリオーズはローマ大賞を獲得する。そして「幻想交響曲」をコンサートで発表して成功を収める。このような成功がモーク嬢との婚約を進めたのである。ベルリーオーズは喜びの絶頂にあった。そしてこの年の年末彼は、婚約者を置いたまま心残りであるが、ローマへの遊学に旅立った。

彼は婚約者からの手紙を心待ちにしていたが、待てど暮らせど返事はなかった。やっと4月になり待望の手紙が来た。その手紙の書き主はモーク嬢の母親で、娘のマリーはカミーユ・ブレイエルと結婚することになったという内容であった。「回顧録」によると、その時ほんの数分で「・・・罪ある二人の女と罪なき一人の男を殺さねばならない。そしてやり遂げた後私も自殺する。やむお得なかったんだろうと人は考えてくれるであろう。・・・十分慎重に変装してパリに行くのがいい。・・・」と思いついた。ピストル二挺に弾を込め、毒薬の小瓶をポッケとに収めて、すぐフィレンツェを後にした。

地中海の断崖を馬車で走っている時、自然の風景が彼を常識の世界に立ち返らせた。ローマのヴェルネ館長にやむをえない経緯を手紙で伝え、ニースにしばらく滞在して興奮を冷ますことにした。ローマにフィレンツェ経由で帰った。しばらくして、親友とナポリまで行きオペラを鑑賞し、ポンペイやヴェスヴィオ火山を見てローマに戻ってきた。イタリアの明朗な風景は、ベルリオーズの心を慰め、また感興を与えた。ベルイオーズに印象を与えたのは、イタリアの楽芸よりも明朗な自然であった。

イタリアのハロルドにはこのようなイタリアでの思い出が綴られている。イタリアの「ハロルド」は英国のロマン派の詩人バイロンの長編詩に登場する人物で、恋人に裏切られてイタリアの山々を放浪する人物である。ベルリオーズは自分を「イタリアのハロルド」になぞらえてこの交響曲を作曲した。ヴィオラ独奏付きの交響曲で、ヴィオラはベルリオーズの多感な心情を奏でている。


第1楽章 婚約者を残してイタリアへ赴いたベルリオーズの複雑な想いがオーケストラとヴィオラ独奏で綴られる。途中ハロルドのテーマがヴィオラで奏でられ、婚約者への恋愛感情が美しく語られる。しかし、その思いは千々に乱れて、多感な恋の心情が奏でられる。「幻想交響曲」では第1楽章に相当する。

第2楽章 夕べの祈りを歌う巡礼の行進 イタリアでの体験を交えて書かれている。一見長閑そうだが、ヴィオラの独奏は多感なベルリオーズの心情を奏でている。

第3楽章 山男が恋人に寄せるセレナード 一見牧歌的だが、ヴィオラの独奏は多感な青年の心情を奏でている。

第4楽章 フィレンツェで起きた狂った復讐劇のいきさつを、激しい管弦楽が表している。ハロルドのテーマが何度か現れるが、狂気のような音楽に消されてしまう。「幻想交響曲」では第5楽章に相当する。



ロメオとジュリエット

ロメオとジュリエット C・ミュラー(1842年)

 ようやく生計に安定を取り戻したベルリオーズは、パガニーニの好意に報いるために、交響曲の作曲に取りかかった。題材は青年時代からの懸案であった「ロメオとジュリエット」であった。1827年英国劇団による「ハムレット」と「ロメオとジュリエット」の上演から決定的な影響を受けたベルリオーズにとって、シェイクスピアにふさわしい音楽を創ることは念願であったに違いない。イタリアでフィレンツェに立ち寄ったのも、ベルニーニのオペラ「モンタギュー家とキャピュレット家」を見るためでもあった。だが、ベルリオーズはベルニーニの音楽に失望している。

ベルリオーズは、この作品の序文に次のようなことを述べている。愛の気高さは、オペラのような歌詞で表現するよりも、器楽的に表現した方がもっと豊かで、もっと変化に富み、制約される度合いが少なくなる。この作品はカンタータやオラトリオではなく、声楽を伴った劇的交響曲である。しかし、実際には器楽的なのは第2部だけで、第1部と第3部は歌詞を伴った声楽になっているのだが。

第1部は、モンタギュー家とキャピュレット家が争いとそれを仲裁する
領主の写実的音楽で始まる。プロローグになり、コントラルト(メゾソプラノ)と合唱で両家が仇同士であることと、ロメオとジュリエットが結ばれない不運を語る。


そして詩節に入る。コントラルトがアリアを歌うようにロメオとジュリエットの愛を次のように讃える。♪♪


                            忘ることなき 初めての熱狂よ
                            初めて告げ 初めて誓ふ
                            二人の 恋人よ
                            イタリアの 星の下(モト)にて
                            そよ風なき 大気にありて
                            遠くに オレンジ香り
                            夜うぐいすの
                            長き吐息に さらされん夜に
                            如何なる文芸が 選ばれし言の葉で
                            汝の天国的魅力を 伝へ得んや
                            初めての恋よ 汝は
                            如何なる詩より 高みにやあらぬや
                            死すべき吾らの この世にありて
                            汝こそ 詩そのものにやあらずや
                            シェイクスピアひとり 至高の秘密知り
                            天に持ち去り給ひし 詩そのものにやあらぬや

メルキューシオがマブ女王を歌う。原作にあるように。これで第1部は終わる。


第2部は器楽中心の演奏になっている。まずロメオがひとりの場面♪♪になり、管弦楽でひしひしと恋の想いが迫ってくるような音楽が奏でられる。「幻想交響曲」の第3楽章にあたる。「ロマン派の風」が吹く、この作品の中で最も美しい音楽である。そのあとキャピュレット家の舞踏会の場面になる。「幻想交響曲」では第2楽章にあたる。そして「愛の情景」の音楽になる。最後にマブ女王のスケルツォで第2部を終わる。

第3部はジュリエットの葬送の場面で始まり、次にロミオがそれを知ってモンタギュー家の墓所にやってきて、毒を飲んで死す。すると、ジュリエットが眠りから目を覚ます。ロミオがいるので驚喜するが、死んでいることを知って、ジュリエットは短剣で自害する。この部分は器楽だけで演奏される。両者が死んでいるのを聞いて両家の者(合唱)が墓所に駆けつける。ロランス神父(バス)が二人の事情を両家の人に話して聞かせる。やっと真実が分かった両家の人々は、ロランス神父の導きで、十字架にかけて怨恨を捨てて永久に友であることを誓う。両家の和解の大合唱になり、管弦楽も最高潮になり終わる。♪♪

                            吾ら誓はん 神聖な御印(みしるし)にかけて
                            娘の身にて、息子の身にて
                            救ひもたらす この苦難の木にかけて、
                            吾ら誓はん 皆でもて
                            主の 尊き十字架像に
                            互ひを永遠(トワ)の絆で 結ばれんことを
                            主の優しき愛を、兄弟のちぎりを
                            さすれば 来るべき裁きの日に
                            主の赦しの書に この誓いを記されずや

                            吾ら誓はん 怨恨は
                            これより すべて棄てさらんことを
                            永久(トコシエ)に友であらんことを!


1839年ベルリオーズは、コンセルヴァトワールの講堂で、自らの指揮によりこの曲の初演を行った。演奏は素晴らしい効果を上げ、聴衆は不思議なロマンチックな雰囲気の中にひきこまれた。大成功であった。バルザックは「貴方の演奏の会場は頭脳だ。パリのすべての知性ある貴紳がここに集まっている」とさえ言っている。パリに来ていた26歳の青年ワーグナーが出席していた。ワーグナーにとって、このベルリオーズの示した「劇的交響曲」という新しい音楽の形態は、天からの啓示のように思えたであろう。後に、ワーグナーは「我々はベルリオーズを音楽界の真の救世主として讃えるべきである。」と語っている。


ファウストの業罰

ファウストの扉絵

 1827年英国劇団が熱狂的にパリに受け入れられているころ、ゲーテの「ファウスト」の第1部が仏訳された。ベルリオーズはこれを一読して、感銘を覚え、片時も離さなかった。ベルリオーズの霊感はいやおうにも触発されて、「ファウスト八景」(作品1)として音楽化され、自費出版された。この「ファウスト八景」は今でも単独で演奏会の曲目にのることがある。後に第2部も仏訳されて、「ファウスト」の音楽化は、青年時代からの課題目標になっていたのである。

ファウストはメフィトフェレスの魔法で、貴公子になり自由奔放に恋愛や望むような行動を体験する。このような空想性が当時のロマン主義者に好まれた理由であろう。しかしゲーテの真意は、ロマン主義やキリスト教と古典主義との統一を図るといった深い意図を含んでいたのだが。


ベルリオーズは東欧に演奏旅行をしたが、快心の大成功であった。これに気をよくした彼は、かつての「ファウスト八景」を元にして4部からなる「演奏形式のオペラ」と銘打って「ファウストの業罰」を発表した。それには、パリの音楽会に新しいオペラを意図する野心があったとみられる。パリでの公演は好評を得ることは出来なかった。この作品が認められたのは彼の死後で、コローヌの指揮で絶賛を博し、コローヌは以後30年間に150回も演奏したそうである。

ハンガリーに伝わる「ラコッチ・マーチ」をオーケストラに編曲して、そこでで大歓迎を受けた。これを機にして「ハンガリーのファウスト」を創作して第1部にし、4部からなる「ファウストの業罰」にまとめ上げた。

第1部 ハンガリーの平原

平原のファウスト ベルリオーズの好む憧憬と熱情の多感さを表す管弦楽
・農夫たちの踊り(合唱) 農民の合唱による収穫の喜びを歌う

ハンガリー行進曲♪♪妖精が踊るような出だしで始まるロマンチックな行進曲

第2部 ドイツの北部

・書斎のファウストと復活祭の歌
 人生の虚しさに絶望して毒杯を仰ごうとするが、復活祭の歌を聞いて思い直す。ゲーテの「ファウスト」に忠実な音楽になっている。
ライプチッヒの酒場 有名な、ネズミの歌とアーメンフーガ、それに蚤の歌がある。

エルベの岸辺と木立 有名な空気の精の合唱♪♪がある。
・兵士・学生の歌

第3部 マルガレーテ(グレートヒェン)の部屋

ファウストのアリア♪♪
ファウスト」の中で最も美しいアリア

聖チェチーリア          ウォーターハウス

ウォーターハウスは、英国の19世紀ヴィクトリア朝時代の画家である。両親とも画家で、ローマで生まれたが五歳のころにロンドンに引っ越した。影響を受けた画家は古典的な作家が多かった。父もその一人である。二十五歳の時、王立美術館に展示した作品が話題となり、英国を代表する画家に成長した。

作風はヴィクトリア朝時代の趣味を反映して古代ローマに背景を撮る作品が非常に多い。古典的で写実的に描かれている。「聖チェチーリア」も、そのような影響をみて取ることが出来る。天使の美しさは宮廷美術に近いものがある。しかし、19世紀の浪漫主義の影響もあり、人魚や中世の甲冑を着た人物も描いている。女性の顔はイタリア的と言うよりも、英国的でありゲルマン系の素地を受け継いでいる。聖チェチーリアの顔はゲルマン風の顔立ちである。

ファウストのこの場面は、ファウストがメフィストフェレスに呼ばれて、愛するマルガレーテの部屋をみながら、彼女が眠るのを待ちつづけている。マルガレーテもファウストに惹かれており、二人はマルガレーテの部屋で出逢うことになる。

                             マルガレーテの部屋(歌詞)

                            夕暮れの日の 甘美さよ
                            待ちつづけたり 夜(ヨ)のしじま
                            黄昏(タソガレ)の日よ 人知れぬ
                            清き宿り(マルガレーテの部屋)を 崇めたり

                            朝(アシタ)の甘き 口づけの
                            美はしき夢 間近にて
                            揺らぎみえたり 朧気(オボロゲ)に
                            愛する人は 眠りたり

                            これこそ愛の 予感なり
                            おゝこなたでは 困惑の
                            凡て消え去る 如くなり
                            夜のしじまを 愛さんや

                            呼吸する気の 清きなり
                            おゝ若き女(ヒト) その予感
                            魅惑的なる 恋人よ
                            夢見る如き 恋人よ

                            間近な時の 感動よ
                            無垢な乙女の 顔(カンバセ)を
                            想ひ眺める 感動よ
                            清き空気を 吸ひたりや

                            守り導く 天津(アマツ)神
                            永き犠牲の 苦しみの
                            後に来たれる 歓びは
                            如何に幸ひ なりけりや


テューレの王の歌 ♪♪ マルガレーテ自身の子守歌

トリスタンとイソルデ  ウォーターハウス


                             トゥーレの王「中世の歌」(歌詞)

                            昔トゥーレに 王ありて
                            永遠(トコシエ)の愛 誓ひたり
                            王妃はすでに みまかりて
                            形見に残す 杯(サカズキ)よ

                            王杯を 離さずや
                            宴の度に 取り出(イダ)し
                            かの杯を 眺めつつ
                            頬を涙に ぬらしけり

                            往く日も近く なりしとき
                            街と遺産は 譲りしが
                            かの杯は 留め置きて
                            常にみ手に 抱(イダ)きたり

                            王座に座る 王めぐり
                            古き広間の 中央に
                            騎士や諸侯は 居並びぬ
                            海に臨める 城の中

                            王杯を 持ち立ちて
                            古風な露台に 歩み出で
                            清き杯 飲みほすと
                            やおらに捨てて 汐(シオ)の中

                            水はたちまち 泡だちて
                            杯すぐに 沈みけり
                            老いたる王は 身をふるひ
                            杯なきを 認めたり

                            昔トゥーレに 王ありて
                            永遠(トコシエ)の愛を 誓ひたり
                            二人杯 持ちたりて
                            愛の証(アカシ)と なしにけり



鬼火のメヌエット♪♪
・マルガリーテ、ファウスト、メヒストフェレスの三重唱

第4部

マルガレーテ(グレートヒェン)の恋歌♪♪
糸車をひきながら歌うグレートヒェンの恋歌 ゲーテの「ファウスト」にある有名な歌

              胸 焦がれ
              想ひは 積りにけりや
              かの少女の 無邪気
              已(スデ)に 戻らず

              彼の人の 無き処
              墓の ごとくして
              世 ひとへに
              いと 淋し

              夢見ん
              心
              尽きぬ
              憧れ

              胸 焦がれ
              想ひは 積りにけりや
              かの少女の 無邪気
              已に 戻らず

              彼の人のみ 想ひ
              窓 見つめ
              彼の人のみ 願ひ
              街路 歩まん

              彼の人の 勇ましき振る舞ひ
              尊き 姿
              優しき 笑み
              強き まなざし

              美はしき
              言の葉
              力込めし 御手
              ああ 彼のくちづけ

              胸 焦がれ
              想ひは 積りにけりや
              かの少女の 無邪気
              已に 戻らず

              唯だ 望みて
              彼の人 追ひ
              吾が腕に
              彼の人 つゆも離さず

              想ひに まかせて
              ああ くちづけを
              彼の人の 甘きくちづけに
              この身は 消へんとせども


水の精霊      ウォーターハウス

ウォーターハウスの比較的初期の作品で、水の精霊の面影にはイタリア的なふくよかさが漂っている。水にあたって何かを祈願している乙女にみえる。多分のアモールに恋の成就を願っているのだろう。ウォーターハウスの描く乙女の中では、最も甘美な容貌をしている。

・自然への祈り・狩り ファウストはマルガレーテが母殺しで捕らえられたことを知る。
・地獄への寄行 
ファウストは、マルガレーテを救う代償に、メフィストに魂を売る。
天国にて マルガレーテの昇天




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