ショパン(1810〜1849)

 ショパンは、フランス人の父親とポーランド人の母親のもとに、ポーランドのワルシャワで生まれた。父親が教師をしていることもあり、音楽の英才教育を小さい頃から受け、申し分のない思春期を送ることが出来た。国内では、ショパンが天才ピアニストであることはよく知られており、国の期待を一身に受けて育った。奇しくも19世紀初頭は、ナポレオンの解放戦争がヨーロッパを席巻し、ポーランドも大国の支配から解放され、ポーランド公国が生まれ、民族の自治が認められた。しかし、ナポレオンが失脚するに及んで、再びポーランドはロシアの支配に服することになる。

ショパンが育ったのは、将にそのような政治的な動乱の時であった。ポーランド民衆のロシアへの反感が高まりその極点に達しようとした時、彼は20才になり多感な時期を迎えていた。いずれ革命が起こることが予見されていた。ショッパンは、青春時代の総決算として、ピアノ協奏曲第1番、第2番を発表した。1930年にワルシャワで発表された二つのピアノ協奏曲は、ロマン主義の結晶ともいえる作品であり、シューマンの傑作のピアノ協奏曲(1845)より先立つこと15年も早く、ショパンの天才性を如実に物語っている。

ウィーンに演奏旅行で滞在している時に、ついに革命が勃発した。しかし、両親や多くの親友からワルシャワに戻ることを止められ、泣く泣く傍観せざる得なかった。彼は故国へ帰ることを断念し、芸術の都パリを目指した。革命は失敗して、ロシアの支配は強化され、ポーランド民衆の苦難の時は消え去ることはなかった。パリには、多くの革命の闘志が亡命し、ショパンの故国への想いは強まるばかりであった。


ピアノ協奏曲

 ショパンの二つのピアノ協奏曲は、革命前夜の緊迫した時に作曲されており、ロマンチックな感情とドラマチックな緊迫感が一体となり、理想的なロマン主義のピアノ協奏曲として永遠の生命を得ている。全体に「ロマン派の風」が吹いている。ショパンは、管弦楽をこれ以降作曲することはなかった。ピアニストのショパンは、この二つの協奏曲で管弦楽を書き尽くしたと言ってよいと思う。後はピアノを極め尽くした作品を作ること意外にはなかったのである。

ピアノ協奏曲第2番♪♪

美しき手         ロセッティ


ロセッティ18才の自画像

ロセッティは、イタリアのダンテ研究者で英国亡命者の父と、英国人とイタリア人の混血の母のもとで、英国の19世紀前半に生を受けた。小さいころからシェイクスピアや英国の詩に傾倒し、美術学校に転学して画家の道を志した。中世のロマンスに夢中になり、濃厚なロマン主義的な絵画を生んだ。

この「美しき手」では左の若い女性が、貝の皿で手を洗っているが、貝の皿はヴィーナスを象徴している。その下のレモンの木は聖母マリアを象徴している。つまり、左の女性は、ヴィーナスと聖母マリアの両者を象徴しており、手を洗うのは、浄罪と情事を意味しているものと思われる。二人の天使は、主人公の女性を複雑な想いで見ている。主人公の女性は、運命の渦中にあり、二人の天使がその女性を助けようとしている。


赤を基調にした情熱的な色彩で、ロマンチックな感情とドラマチックな雰囲気が濃厚に描かれた絵画である。



ピアノソナタ第2番

 このソナタは、第3楽章が葬送行進曲になっている。葬送行進曲はすでに1837年に書かれていた。祖国ポーランドに深い哀悼の意を呈したものだろう。その2年後に、ソナタの中に編入された。つまり、他楽章は葬送行進曲に合わせて書かれたものである。したがって、よく指摘されるように、ピアノソナタの形式はほとんど関心が払われていない。

第1楽章♪♪
不吉な予感を想わせるような出だしがあり、ロマンチックな第2主題が現れる。祖国への敬愛の念であろうか。再び不吉なフレーズに戻り、第2主題が繰り返される。激しい展開部に進む。またあのロマンチックな主題が現れる。そしてフィナーレになり終了する。

第2楽章スケルツォ
胸騒ぎのようなスケルツォの第1主題が冒頭現れる。次にロマンチックな第2主題が現れる。再び第一主題が繰り返される。

第3楽章葬送行進曲
♪♪
静かに葬儀の列が歩んでいくような行進曲である。犠牲者を顕彰するような高まりがある。中間部に、あたかも勝利の女神が革命の犠牲者に永遠の生命を与えているような美しい音楽がある。再び葬送の行進に戻る。

第4楽章
フィナーレの短い楽章である。

79年8月23日ヘルクラネウム         ルルー



西暦79年8月に爆発したベスヴィオス火山でポンペイは灰の遺跡になってしまった。この絵では、爆発する一日前のヘラクレネウムでの貴人の女性たちの不安の表情を描いている。火山の災悪と貴人の女性の美しさが対照的に描かれている。

これはそのまま19世紀の人々にもいえることである。革命の世紀と言われる19世紀では、例え女性であっても、政治的な変動のから逃れることは出来なかった。そのよい例はポーランドの1930年の11月革命であり、市民全体がロシアからの解放に立ちあがざるを得なかった。しかも、結果的には失敗に終わり、受難を廃することは出来なかった。このような祖国ポーランドを憂えて、ショパンはこのソナタを作曲したのである。


ピアノソナタ第3番

 このピアノソナタは、第2番より5年後の1844年に書かれたもので格段の円熟を感じさせる。ショパン本来のロマン主義が濃厚に現れた名曲である。

第1楽章♪♪
天啓のように突然ドラマチックな第1主題が冒頭から現れる。そして引き続いてロマンチックな美しい第2主題が流れて来る。劇的な恋愛を想像してしまう。

聖告          ロセッティ


聖告とは受胎告知のことであるが、ロセッティのこの絵の場合は、相手の女性はジュリエットである。告知しているのはロミオである。ある舞踏会でロミオはジュリエットを知り、愛を告白してしまう。ジュリエットはそれがモンターギュ家のロミオと知り、一瞬戸惑うが運命を自覚する場面に相当している。ロマン主義者にとってバイブルとはシェイクスピアであった。だから、聖告とはジュリエットが愛の告白を受けることである。そして神聖な恋愛劇が始まるのである。ジュリエットとロミオに丸い後光がさしているのは、まさしくそのような意味であると受け取ることが出来る。


第2楽章
スケルツォの楽章である。短い楽章で第3楽章への架け橋である。


第3楽章
♪♪
冒頭の音が不気味だが、ラルゴで夜想曲風な静かでロマンチックな楽章である。印象派を先取りしてるような音楽である。

第4楽章♪♪
典型的なショパンのピアノ曲で、情熱的でありポローネズに似ているところがある。


ノクターン

 ショパンのノクターン(ピアノの夜想曲)は、若い頃から晩年に至るまで作曲され、ショパンのロマンチシズムの究極をなしている。エチュードなどを聞くと、ショパンは激情の人でもあったことが分かるが、ノクターンを聞くと瞑想的夢想的な性格が現れている。しかし、時に嵐が去るような部分もあるようである。全21曲ある中から幾つかを取り上げて心象風景を探ってみたい。

ディスクは、ウラディミール・アシュケナージの1970から85年までに完成された全集を抜粋したものである。アシュケナージの演奏は詩的で夢想的であり、ノクターンの演奏ほど彼に適した演奏はない。

第一番変ロ短調作品9ー1♪♪
作品9のノクターンには3曲あるが、さざ波のような左手の伴奏にロマンチックなメロディーが奏され、如何にも若々しいショパンらしい浪漫を示している。第一番は、短調ではあるが、あまり悲劇的ではなく、情景の美しさの方が遙かに勝っている。愁いを秘めた夢想的なメロディーが現れる。一度聞いたら忘れることの出来ないようなメロディーである。ごく自然に中間部の抒情的な部分に入る。限りない余韻を残して再び先のメロディーに戻る。

ギターと二人の少女  マリー・ローランサン



マリー・ローランサンが選び取ったピンクとブルーは、歓喜の背後にある苦悩、優しさの陰に悲しみが隠されていることを示している。後にローランサンと別れることになったアポリネールは次のように詠んでいる。

                   ミラボー橋の本 
                   セーヌは流れ
                   二人の愛に
                   せめて思い出したし
                   苦悩の後に
                   喜び来んと

第二番変ホ長調作品9−2♪♪
幸福感を秘めたようなロマンチックなメロディーが現れる。おっとり弾くと平凡になってしまうが、アシュケナージは幾分早めのテンポをとり、この曲本来のロマンチシズムをリアルに表現している。美しい分散和音が目立つ中間部があり、再び元のメロディーに戻り、最後に高まりをもって終了する。


テラスにて       ルノアール



セーヌ河畔が背景にありテラスを明るく照らしている。女性はルノアールのお気に入りの、女優の駆け出しであったジャンヌ・ダルローである。背景の緑や赤や白が輝くように光っている。清純な女性といい鮮やかな色彩といいルノアールの最高傑作ともいうべき作品である。

第四番へ長調作品15−1♪♪
作品15になる。時めくような魅惑的なメロディーが現れる。それを否定するかのような激しい部分になる。再び元のメロディーが奏されて終わる。


デスデモーネ       モロー



シェイクスピアの「オセロー」のヒロイン「デスデモーネ」である。デスデモーネはその魅惑で男を虜にし、いわれなき嫉妬に狂った夫の手によって命を落とすことになる。いわば悲劇のヒロインである。

第五番嬰ヘ長調作品15ー2♪♪
木漏れ日を浴びているような閑かなメロデーが現れる。中間部になり明るい光を浴びるような色彩的な音楽になる。分散和音が素晴らしい。再びテーマのメロディーが余韻を残して終わる。


日のあたる裸婦       ルノアール



「日のあたる裸婦」はルノアールの話題作であった。草むらにいる裸婦に木漏れ日が当たっている光景を描いたものである。様々な色彩が裸婦に反映している光景は印象派の天才のなせる技である。


第八番変ニ長調作品27−2♪♪
ノクターンの中でも人気のある曲の一つである。淡く朧気な印象の主題で始まる。甘美とかクリスタル風とか言われることがあるが、愁いのような感情も含まれていると思う。中間部で愛の感情が高まりショパンらしい時めきを示す。全体を繰り返して、余韻を残して曲を終わる。

ポンティヨン夫人     モリゾ


モデルの女性は、モリゾの姉のエドマである。エドマは清楚な美人でよくモリゾの絵によく登場する。なんとなく慎ましい表情をしている。エドマはパリの芸術界を賑わした女性であったが、結婚して夫人の地位を得ても、不在がちの夫のため孤独に耐えていた。そんな何気なく寂しい表情をモリゾは上手く把えている。この絵では窓辺から入る光に白いドレスが微妙に輝いて、モリゾの天才的な素養を表している。


                             窓辺にて

                         窓辺佇む 姉君よ
                         清楚なること 限りなし
                         御使いのごと 愛らしき
                         白きドレスの 似合ふかな

                         社交界の 花なりき
                         浮名を流す 美人なり
                         しるべき人と 結ばれて
                         幸ひ来ると 思ひきや

                         今はひねもす ひとりなり
                         主人と遠く 離るれば
                         話す相手も 少なしや
                         世の隔(ハテ)のごと 想はれん

                         窓眺むれど 面影なく
                         庭歩けども 人影なく
                         郵便馬車の 音もなし
                         秋の夜長を 如何せん

                         優しき言葉 願へども
                         抱(イダ)かれんこと 望めども
                         愛のひめごと 求めども
                         誰をも君を 知らざらん

                         せめても栄(ハ)えある 姉君よ
                         吾が絵のモデル なり給へ
                         汲めども尽きぬ 霊感よ
                         天のきざしを みせ給へ



第十番変イ長調作品32−2♪♪
明るい出だしの主題で始まる。幸福を感じる美しいメロディーである。若やいだロマンチックな雰囲気である。中間部で次第に愛の感情が高まり、極点を超えると収まっていく。最後に出だしの主題の余韻を残して終わる。

ピアノに寄る娘たち   ルノアール


ルノアールの前期を代表する作品である。美術館の注文に応えて集中的に描かれた。この作品は印象派の金字塔である。少女の姿は古典のラファエロやムリリョの聖母のように気品があり、印象派的な色彩と光にも溢れている。ルノアールが古典絵画を凌駕した境地を示している。少女の愛らしさはなまめかしいくらい魅力的である。


                             ピアノの少女

                         蝋燭(ロウソク)灯して ピアノひく
                         恋に夢見る 乙女児(オトメゴ)よ
                         ピアノは汝(ナレ)の 恋人か

                         指より出ずる 楽の音は
                         天使のつむぐ 白妙の
                         光輝く 衣かな

                         見目美はしき 長きみ髪(グシ)
                         真珠(シラタマ)のごと まるき頬
                         優しく白き 衣手(コロモデ)よ

                         まなこは深く 秘かにて
                         優しき人を 求むらん
                         胸をはだけて 恋想ふ 

                         リボンかはゆき 服の内
                         誰が知るらん 乙女児よ
                         木の実はすでに 熟したり

                         ピアノ教へる 良き人と
                         夕暮れどきに 逢ひにけり
                         いつしかふたり 求めんや

                         み髪(グシ)の香り かぐはしく
                         赤き唇 花のごと
                         恋の歓び 永遠(トワ)のごと

                         心の熱き 汝(ナレ)なれど
                         汝(ナレ)を愛する 良き人の
                         彼(カ)の涙には 及ばじな


第十六番変ホ長調作品55−2♪♪
作品55の晩年の作品になる。晩年になるにしたがい短調が増えるが、その中でも特に明るい曲である。憧れを秘めたようなロマンチックな雰囲気で始まる。次第に高まり中間部に頂点がある。決して暗くはならない。そのまま余韻をもって終わる。


                                          

詩情     コラン


コランの「詩情」は、パリ市庁舎のアーケードの文学の間に飾られた絵画である。文芸への憧れを描いている。コランは、古典的な造形美に印象派的な手法を取り入れて好評を博した。また日本美術の愛好家でもあり、黒田清輝や児島虎次郎らが師事し、日本洋画界に外光派を生むことになる。

第二十番嬰ハ短調遺作♪♪
これは遺作である。透明な悲しみを秘めたメロディーが奏でられる。どこかしら英雄の死を想わせる。中間部になると昔の曲の一部のような音が聞こえてくる。まるで幻影を見ているようである。そして再び、初めのメロディーが繰り返され曲を終了する。


サムソンとデリラ         モロー


サムソンはイスラエルの英雄である。サムソンを恐れたペリシテ人は美女デリラを近づけサムソンの力の源であった髪の毛を切り落としてしまった。モローは、サムソンを月の女神ルナーに愛されるエンデミオンのように描いている。エンデミオンは、ルナーにより永遠の眠りにつかされた。


「英雄」ポロネーズ♪♪

 英雄という名称で呼ばれているが、ショパンの抒情性の崇高性を示した曲で、限りない、まるで海原の波のような感動が押し寄せている。冒頭の半音階のリズムは、打ちては寄せる波のようである。

バルコニーの英国娘  クールベ

クールベは、フランスの写実主義の大家であり、現実をありのままに描く力量は、ルノアールなどの印象派にも大きな影響を与えている。この絵は、ノルマンディーで上流の英国娘の肖像を描いたもので、クールベの作品の中では最も華麗な作品である。バルコニーからみえる海が何ともいえず清々しい。

                            バルコニー

                         ノルマンディーの わだつみ(海)よ
                         打ちては寄せる 白波よ
                         果てさへ知らぬ 水平線
                         ますます高き 青空よ

                         バルコニーにて 佇みぬ
                         春に時めく 乙女子よ
                         胸の高まり 如何せん
                         夢見ん心 止まらずや

                         妙なる御髪(ミグシ) 美しき
                         ヴィーナスのごと シルエット
                         頬の優しき 御使いよ
                         気高きこと 御母(オンハハ聖母)よ

                         時の嵐を な恐れそ(恐れるな)
                         舟路の暗き 歎(ナゲ)かざれ
                         逆(サカ)吹く風に とどまらず
                         人の気まぐれ な捉はれそ

                         未知の世界に つき進み
                         気運によりて 歩めかし
                         心の清き 乙女子よ
                         天は汝の 味方なり

                         道のりすでに ひかれたり
                         御心のまま なさしめよ(天の導くままにさせなさい)
                         赤き絨毯(ジュウタン) 進みゆき
                         永遠(トワ)の愛にて 結ばれん


バラード第一番ト長調作品23♪♪

 ショパンの規模の大きな傑作の一つである。フォーレにも大曲バラードがあるが、ショパンに倣ったものであろう。夜想曲的な夢想性と男性的な力強さが融合した古今無比のピアノ曲である。仄暗い出だしから、第一主題の美しくもロマンチックなメロディーが現れてくる。あたかも流れて行くように力強い感動的な盛り上がりになるが、再び第一主題から繰り返される。最終部に入り最後に言語に絶する半音階和音で終了する。

ヒュラスとニンフ           ウォーターハウス



                              ヒュラスとニンフ達

                            アルゴー船に 乗りたりし
                            ヘラクレス達 トロイアの
                            ミュシュアに停まり 水求め
                            青年ヒュラス 出かけたり

                            明るき月の 光にて
                            蓮浮かびたる 池みつけ
                            水汲まんとす 不思議にも
                            湖の精 現れん

                            白き裸身を のぞかせて
                            花の如くに 美はしき
                            亜麻色の髪 靡きたり
                            あやしひ光 満ちたらん

                            男初めて みるがごと
                            ヒュラスの姿 惚れたりや
                            ヒュラスの誠 感じたり
                            ヒュラスをみては 振り向かん

                            心想ひし 人みつけ
                            手を取る如く 近寄りて
                            仲間にせんと 言ひ寄らん
                            多くのニンフ 集ひたり

                            皆それぞれに 誘ひたり
                            ヒュラス初ての 体験よ
                            美女の熱意に 惹かれんや
                            初めて知った 愛なりき

                            ニンフに惹かれ なすがまま
                            水の中へと 滑り込み
                            ニンフと伴に 妖精の
                            神秘の世界 ゆきにけり

                            ヘラクレス達 青年を
                            夜通し探し 回れども
                            彼の姿は みつからず
                            アルゴー船は 出港す



バラード第二番変調長作品23

バラードは現代でもよく使われる音楽用語であるが、古くはロマンチックで抒情的な文学作品を意味していた。ショパンは少年時代から愛国的なミツケェヴィッチの詩集に傾倒していた。ロマン主義的な題名のついた作品「湖の精」「百合の花」「人魚」等が多く含まれている。その抒情詩のイメージを純粋なピアノ作品で表現したのがショパンのバラードである。したがって、ショパンのピアノ曲でも最もロマン主義的な色彩の濃い作品と言えるであろう。一般的な特徴として、歌うような第一主題から劇的な第二主題に移るというパターンが多い。

バラード第二番♪♪は、ショパンとジョルジュ・サンドが地中海のマジョルカ島に行ったころに作曲されたものである。ショパンがマジョルカ島で書いた有名な「雨だれ」によく似ている。幸福で明るい第一主題から、信じられないような烈しい第二主題現れる。眠っている赤ん坊が起きてしまいそうである。そして、またあの幸福で安らぎに満ちた第一主題に戻ってくる・・・。

リッダー庭園の夜明け         ヤンソン

湖畔を映しているのは、月光ではなく曙(白夜)である。湖畔に立っている二人は距離を開けて何となく堅苦しいポーズを取っている。正面に立っているので、親しい間柄ではあるが、顔を避けた堅苦しさが仲の良い恋人ではなさそうである。かつては仲の良い間であったにも関わらず、何かの理由で隔たりをもってしまったのだろうか。


                              月に捧ぐ   ゲーテ

                            夜のしじまの 薄月よ
                            光によりて 湖の
                            水面(ミナモ)を照らす 安らぎよ
                            心をもまた ほぐさんや

                            木々と回廊 優しくも
                            慈悲の光を 照らしたり
                            人の道行 みつめたる
                            友のまなざしに 似たるかな

                            楽しき時も 悲しきも
                            名残(ナノリ)音を 思ひ出し
                            喜怒の間に 揺れつつも
                            心のままに 彷徨(サマヨ)はん

                            吹き過ぎよ! 野の風よ
                            楽しき時は 過ぎ去らん
                            言葉もキスも 消えゆかん
                            誓ひたりける 誠をも

                            かつて一度 持ちたりや
                            貴きものを 吾々は
                            忘れ得ずして 悩みたり
                            心もかくも 苦しまん

                            声高くして 風よ吹け!
                            休むことなく 憩ひなく
                            息吹強めて 流し去れ
                            甲高くして 烈しくも

                            冬の夜(ヨ)にして 猛(タケ)りつる
                            嵐の水の たぎるとき
                            河の流れも 豊かにて
                            若草萌ゆる 春の日も

                            幸ひなりや 恨みなく
                            心の友よ 胸に抱く
                            夜のしじまに 一人にて
                            眺め奉らん 月魂(ツキシロ)よ

                            恋の迷路(マヨイジ) 彷徨へど
                            心の想ひ 伴にして
                            心の友よ 慈しみ
                            分かち合ひたり 幸ひを



バラード第三番変イ長調作品47

バラード第三番♪♪は、ショパンが、ジョルジュ・サンドの館にいる時に書かれた作品で、パリの社交界でもてはやされていた。ショパンの最も幸福なころに書かれてたもので、第二番とは対照的に、落ち着いた幸福感と力強いロマンが一体となっている。落ち着いた第一部がロマンチックに歌われて一段落する。そして付点音符のワルツのようなテンポの第二部が現れて、力強いロマンチシズムに盛り上がり曲を終了する。華やかさが目立つ。

サランボー              アドリアン・タスー


                              サランボー

                            古代カルタゴの 巫女サランボーよ
                            汝(ナンジ)名将ハミルカスの 娘なりき
                            その美はしさ 花の妖精の如く
                            優雅なる舞 天女の如し

                            その顔(カンバセ) 薔薇の如く艶(アデ)やかにして
                            み腕 綿の如く柔らかにして
                            胸の谷間 深くして花の咲く如く
                            下半身 秘密の花園の如し

                            カルタゴ ローマに攻められ
                            国の危機に 直面す
                            悪臣ハバス 傭兵青年隊長マトーを招きたるが
                            マトー 何者かに襲われたりき

                            サランボーの配下 マトーを助けたり
                            マトー サランボーみて
                            その余りにも愛らしさに 心奪れたり
                            サランボーも 青年マトーの凛々しきに惹かれたり

                            悪臣ハバス カルタゴの財宝横領す
                            マトー 裏切り行為に怒りて
                            神殿の聖杯と聖衣を 取り上げたり
                            名将 ハルミカス戻りて 
                            ハバスの悪計 暴きたり

                            市民 怒りて
                            ハバスとマトーの 石打の刑を求めたり
                            ハバス 助命なく
                            石打の刑にて殺されたり

                            マトー 刑場までゆきたるが
                            サランボー マトーに悪意なく
                            マトー 殺すなば
                            己を 殺すべしと訴へたりけり
                            市民 サランボーの心察して
                            マトーの罪を 赦したりけり

                            サランボー 自らの聖衣
                            マトーの処に 取りにゆきたり
                            マトー ひざまづきて
                            サランボーに 謝罪す

                            カルタゴ 遂にローマに落ちたり
                            サランボー 巫女の座を解かれて
                            平凡なる乙女に 戻りたり
                            愛するマトーに 頼りけるかな

                            マトー 夢みる如く
                            サランボーに 接吻し
                            強く 抱きしめたりけり
                            柔らきこと 綿のごとし

                            サランボー 凡てを捧げて
                            マトーと 愛の宴を営まん
                            出逢ひしときより 惹かれたり
                            愛の歓喜 天にまで届かんや


バラード第四番ホ長調作品54

バラード第四番♪♪も、パリの社交界で華やかな活動をしているころの作品である。美しいワルツのような序奏の後、幾分メランコリックな主題が現れる。主題は華やかに変奏されて、よりロマンチックに力強く発展していく。再び元の主題が現れ、分散和音的に変奏されロマンの極みに至る。コーダ(最終部)に入り烈しさを込めて終結する

ヘレネ       ビュシェール


                              ロッテに寄す  ゲーテ

                            あまたの喜び
                            あまたの悩み
                            あまたの心痛 迫る中にて
                            ロッテ 貴女(アナタ)を想ふ
                            あの静かなる 夕映えの時
                            優しき手を 延べ給ひ
                            美しき 自然の懐(フトコロ)にて
                            数々の愛の証(アカシ)を
                            優しげに 示し給へり

                            直ちに貴女を 解したりしこと
                            幸ひなり
                            心より 感ずるままに
                            貴女を 良き人と想ひたりしこと
                            幸ひなり

                            世間を 知らずして
                            突然 世に投げ出され
                            数知れぬ浪(ナミ) 打ち寄せ
                            あるものは 好ましく
                            あるものは 嫌(イト)はしく
                            絶え間なく 動揺したりき
                            その上に さらに
                            幾重の浪 洗ひ去りたり

                            数々の希望
                            数々の悩み
                            心に 忍び入りたり
                            ロッテ 誰が吾らの想ひ知らんや
                            一人の人の中へ 融け入り
                            信頼の 想ひもて
                            新たに 生まれんや

                            世間を 見渡すれども
                            一切 心閉ざしたり
                            感激も落着も 失はんや
                            昨日の 魅力も
                            今日は 嫌悪の情になりたり
                            かくも悩み 喜べども
                            世間は 冷淡なり
                            如何にして 好意を持たんや
                            而(シカ)して 孤独へ退き
                            心も 閉ざさるを得ず

                            その時 汝をみひ出したりけり
                            心開きて 汝に向かへり
                            おゝ 貴女(アナタ)こそ愛するに値(カ)さんや
                            天より 貴女に 
                            浄福の 賜はらんことを!
                            吾らに 永遠(トワ)の幸ひの
                            与へられんことを



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