クリスチャン・バッハ(J.C.Bach) 

 クリスチャン・バッハ(1735〜1782)は、J.S.バッハの末子で、音楽の才能がありイタリアへおもむきオペラ作曲家を目指す。そして、イギリスに渡り王室の保護を受けオペラで成功を収める。モーツアルトの若いころの作品は、クリスチャン・バッハの影響が大きいのはよく知られている。

彼のオペラは、現在演奏されることはほとんどないが、シンフォニアや協奏交響曲、ピアノ協奏曲は知られている。クリスチャン・バッハに共通した特徴は、優しい愛の感情と明るくふくよかな響きである。特に傑作のシンフォニアや協奏交響曲を聞くと、歌うようなメロディーと洗練された詩情を感じさせ、決してモーツアルトに引けを取っていない。



ピアノフォルテ協奏曲作品七-六ト長調♪♪(J.C.Bach's Piano forte Concerto No.6)

 クリスチャン・バッハ(J.C.バッハ)のピアノ協奏曲の中で最も優れた曲である。イタリア古典派の様式に則った明快で雅びな協奏曲であり、18世紀のロココスタイルを連想させ、愛情豊かで初々しい抒情性に溢れている。モーツアルトのザルツブルク時代のピアノ協奏曲に大きなインスピレーションを与えている。

虹の伝説        ©原ちえこ



                        初恋

                    頬をなでたる そよ風よ
                    澄みたる日ざし 濃やかに
                    心奏でる 花の園

                    小さき別荘 出でゆけば
                    白樺の樹の 木漏れ日に
                    小川の水面(ミナモ) 輝けり

                    忘れもしなき その夏は
                    君との出逢ひに 初まりき
                    初恋の日々 夢のごと

                    笑くぼ可愛ゆき 丸き頬
                    眉から肩へ 垂れる髪
                    天使の如き シルエット

                    伏目がちにて はにかみて
                    しなしなと立つ ゆかしさは
                    天使の如き 姿かな

                    伴に手をとり 森歩み
                    伴に寄り添ひ 絵を描き
                    伴に顔寄せ 詩を詠みぬ

                    季節は秋に なりにけり
                    また逢ふ誓ひ かはせども
                    君はしくしく 泣きたりや

                    翌年夏に 訪ねども
                    君の姿は なかりけり
                    されども君の 面影は
                    まぶた閉じれば 夢にみん



また、このピアノフォルテ協奏曲には、初々しい抒情性のみならず、極めて洗礼された愛の感情が含まれており、少女のみならず、少年の美しさに通じる深い情緒が込められている。このような少年的な美しさは、宮廷文化が最高潮に達した時に生まれてくる。竹宮恵子の少年にはそのような美しさが込められている。

Passe Compose        ©竹宮恵子



                            君は知らずや 少年の
                            時めきたりし 年頃を
                            深く澄みたる まなざしと
                            典雅な姿 限りなし

                            初夏の緑の 吹きこんで
                            揺れる金髪 美(ウル)はしく
                            緑のまなこ 清(サヤ)かにて
                            そよ風と伴 溶け込みぬ

                            ピンクの薔薇の 咲き乱れ
                            頬に仄かな 薔薇の色
                            赤きくちびる 美しく
                            少女のごとき 顔(カンバセ)よ

                            かすかに潤(ウル)ふ 瞳にて
                            さびしき心 なからんや
                            優しき人を 求めしか
                            されども誰も 君知らじ

                            真摯なること 天上の
                            天使のままの 姿なり
                            一糸まとわぬ 身体(カラダ)こそ
                            何にもまして 清らなり

                            純真無垢の 少年よ
                            天に愛さる 少年よ
                            花の命は 短くて
                            永遠(トワ)の姿を みせよかし


クリスチャン・バッハのシンフォニアと日本の王朝文化(J.C.Bach and Japanese Dynasty Culture)

 ここで、クリチャン・バッハのシンフォニアと日本の王朝文化の関連性について述べてみたい。学術的な論拠は別として、私の学生時代からの音楽体験で、クリチャン・バッハのシンフォニアの雰囲気に、日本の王朝文化に通じたものがあることを感じている。クリチャン・バッハは、ロココスタイルの前古典派の大家で、ふくよかな愛の感情に満ちた音楽は、若いモーツアルトに多大な影響与えたことは有名である。それだけではなく、クリチャン・バッハの音楽には、普遍的といっていいほどの洗練された詩情があり、あらゆる雅やかな文化に共通する美しさを備えていると思う。それでは、クリチャン・バッハの傑作の
シンフォニア作品18−4♪♪(J.C.Bach's Symphony D-dur op.18 No.4)を聞いていただこう。

                                           マダム・ブーシェ       ブーシェ

                  

ブーシェは、クリスチャン・バッハと同時代の、フランスのロココスタイル代表的な宮廷画家である。マダム・ブーシェは、ふくよかで愛らしく、このシンフォニアの雅やかなイメージに好く合っている。

マダム・ブーシェをご覧になった方は気付かれるはずだが、このふっくらとした顔立ちは、欧米人によくみられるゲルマン系の顔ではなく、ラテン系の丸みのある顔である。また、日本女性にもよく見受けられる可憐な顔立ちではあるまいか。つまり、このシンフォニアのイメージの中には、どこか和風な雰囲気があるのである。

ふくよかで雅やかなこのシンフォニアは、どこか、日本の平安朝の源氏物語絵巻にも似た王朝の雅びを感じさせてならない。古今和歌集の和歌のような、まろやかで明朗な美しさがある。琴の音色も王朝の雅びを感じさせるが、このシンフォニアの方が、もっと明るくふくよかである。


                          醍醐寺の桜     ©京都フォトギャラリー

                                  

京都の桜は、華やかな王朝の雅びを現在に伝えている。私は、京都の東山などの風景をみると、どうしてもクリスチャン・バッハのシンフォニアを思いだしていまう。なぜか、平安朝の都の面影が、ふくよかで和風なクリチャンバッハの音楽とクロスしてくるのである。最後に桜にまつわる「源氏物語」の和歌を添えておこう。

                    おほかたに 花の姿を みましかば 
              露も心の おかれましやは

        
 (なんとはなく桜の花のように美しいあなたの姿を見たならば
                    ひとときも、心の落ち着きがなくなってしまいそうです) 


シンフォニア作品18−6♪♪
明快典雅で抒情的なイタリア古典派のシンフォニア(本来はイタリアオペラの序曲のことを指した)である。一曲の中にアレグロ、アンダンテ、メヌエット、ロンドの曲想が含まれている。さらにウィーン古典派により交響曲に発展していくことになる。J.クリスチャン・バッハのシンフォニアには、まろやかさと雅やかさがあり、日本の王朝文化のかなの文化に通じているように思われてなりません。

白拍子静御前



                           白拍子静御前

                         水もしたたる 稚児装束
                         散りまがひたる 花のごと
                         妙なる顔(カンバセ) 薄月の
                         満ちたるごとく なまめかし

                         清げなる声 涼しげに
                         山祇(ヤマツミ)の神 動(ユル)がしぬ
                         踊る姿の 雅びなる
                         天つ御神(アマツミカミ)に 通じんや

                         京に帰りし 義経に
                         見初められたり 白拍子
                         常(トコ)しへの人と(義経を) 誓ひたり
                         余りに短き 逢瀬かな

                         京を追われし 義経と
                         吉野の峰に 踏み入りて
                         雪の深きに (身重で)下山しぬ
                         永久(トワ)の別れと なりにける

                         頼朝の御前 踊りたり
                         静の舞ひたる 垂(シ)づる袖
                         袖振る君の 恋しきや
                         昔を今に 戻しませ

                         声龍神を 動かして
                         皆の感嘆 著(シル)きかな
                         けなげな姿 心打ち
                         静御前の 身をかばふ

                         心の清き 乙女児よ
                         良き人追ひて 奥州に
                         向かひたりしと 聞きしかな
                         たとへ死しても 名を残し
                         女の鑑と 人知らん
                         人の誠と 天知らん



短調のシンフォニア(J.C.Bach's Symphony of A Minor Key)

 クリスチャン・バッハが活躍したのは、18世紀後半で、明快な古典派音楽が発達した時代であった。ハイドンやモーツアルトにも言えることであるが、クリスチャン・バッハの音楽の多くが長調で、短調の曲は非常に少ない。その少ない短調のシンフォニアに、傑作の
シンフォニアト短調6−6♪♪(J.C.Bach's Symphony g-moll op.6 No.6)がある。短調ではあるが、悲哀感は全くなく、当時の宮廷音楽らしい雅やかさと、喜怒哀楽を越えた神韻縹渺とした詩情が漂っている。長調のシンフォニアが、春爛漫の桜であれば、ト短調のシンフォニアは、あえていえば妖艶な雰囲気をもつ夜桜といったところだろうか。

このト短調のシンフォニアは、長調のシンフォニアと同様に和風な王朝の雅び感じさせると共に、妖艶で神韻縹渺とした詩情は、エマヌエル・バッハの音楽の影響を見ることが出来る。


「秋の夜長物語」

 室町時代の京都は、禅宗の文化が興隆を極めた。禅寺では、女人禁制の戒もあり、稚児(美少年)の使いが珍重された。美少年の端正で典雅な出で立ちは、簡潔を旨とする禅宗の雰囲気に合っていたのである。このような背景から、室町時代には、僧侶と稚児との物語が、お伽草子に幾つも残されている。その中で、最も文学性が高いのが「秋の夜長物語」である。この物語を古文で読むと、王朝の雅びと仏教的な無常観が融合して、妖艶で神韻縹渺とした詩情を感じることができる。
 
叡山の律師桂海は、菩提を求める心深く、発心して修行をしていた時、夢に容姿美麗の稚児が現れた。偶然、京の三井寺で、稚児梅若を見て、夢の稚児であることを知る。二人は、和歌を交わして親しくなり、一夜を伴にする。梅若が失踪したことが分かると、三井寺では、叡山の律師桂海を疑い、ここに、叡山と三井寺の争いに発展する。

争いは、叡山の勝利に終わり、三井寺は灰燼に帰してしまう。それを知った梅若は、世の中が厭わしくなり、律師桂海に文をことづけて、近江の瀬田橋から身を投じてしまった。律師桂海は、世の無常を想い、梅若の遺骨を首につけて行脚した後、西山岩倉に庵室を結んで仏道に専修した。これが、西山の胆西上人の前生涯であると物語を結んでいる。


水干姿の稚児装束


律師桂海が、修行中のある夜、麗しい水干姿の稚児の夢を見る場面を、古文で紹介しよう。

・・・七日満じける夜、礼盤を枕にして、ちと、まどろみたる夢に、仏殿の錦の帳の内より、容色美麗なる稚児の、いうばかりなく、あでやかなるが、立ちい出て、散りまがひたる花の木陰に、立ちやすらいたれば、青葉勝ちに縫ひしたる水干の、遠山桜に、花二度咲きたるかと疑われて、雪のごとくふりかかりたるを、袖につつみながら、いず方へ行くとも覚えぬに、暮れゆく景色に消え、さて、見えずなりぬとみえて、夢は、すなはち覚めにけり。・・・

「水干姿の稚児装束」をご覧頂ければ、古文の雰囲気が一層よく分かるのではあるまいか。王朝の雅びと妖艶で幻想的な雰囲気が漂っている。このような雰囲気にト短調のシンフォニアはよく合っていると思う。



ファゴット協奏曲変ロ長調♪♪

 このような曲を聞いていると、ザルツブルグ時代のモーツアルトを連想してしまう。J.C.バッハが似ているのではなく、モーツアルト方が似ているのである。第1主題のアレグロも歌うようであり、モーツアルトのアレグロ・カンタービレはJ.C.バッハから受け継いだものである。

どの楽章も詩情が溢れており、日本的であると言っていいような優しい雰囲気が心に浸みてくる。何かを語ろうとしているような気がしてくるくらいである。第二楽章の歌うようなアダージョは限りなく美しい。


                       ネルロとパトラッシュ

                    労役に 酷使されしパトラッシュよ
                    汝を救ひしは 老人ならざるや
                    ネルロの愛しき老人は 天に召されたり
                    少年と犬のみ 残されたり
                    ミルク運びにて けなげに稼ぎたり

                    汝み使ひのごとき ネルロよ
                    地主の娘(コ)アロア 恋したれど
                    家人に うとんじられたりや
                    アロアの誕生日 にぎやかな楽の音を
                    家の窓辺で 独りで聞きしや

                    村人に 嫌はれしため 
                    生業(ナリワイ)も 失ひしか
                    汝み使ひのごとき ネルロよ
                    地主の全財産の財布 拾ひたり
                    アロアの父に 渡したりや

                    パトラッシュと 伴に
                    アントワープの 聖堂に入り
                    ルーベンスのイエス 眺めたり
                    パトラッシュ 抱きて
                    み使いの国に永遠(トワ)に 召されたり 


少年イエス

祈る少年像であるが、後輪があるので少年イエスと思われる。ネルロ少年もこのような天使のような少年であるように思われる。


二つのオーケストラのシンフォニア作品18-1

 すでに、ヨハン・クリスチャン・バッハの作品18のシンフォニアについては取り上げているが、ここでもう少しふれておきたい。元来シンフォニアは、17・8世紀のイタリアオペラの序曲をさす言葉であった。イタリアオペラの序曲は、急緩急の三部構成で書かれることが多かった。J.C.バッハが「六曲の大序曲集」として出版したのが、傑作の誉れ高い作品18のシンフォニアである。この内の二曲は実際のオペラの序曲である。また、三曲は二つのオーケストラの為のものになっている。

シンフォニアは、次第にオペラとは独立して演奏されるようになる。ドイツのマンハイム楽派により、シンフォニアは純粋なオーケストラ曲として作曲され、第3楽章にメヌエットを加えて、第4楽章からなるシンフォニーに変貌していく。さらにハイドンが本格的なシンフォニー(交響曲)の原型を作り上げ、ベートーヴェン以降の浪漫派の作曲家に受け継がれていくことはご存じの通りである。

二つのオーケストラのシンフォニア作品18-1♪♪ も傑作であり、第1楽章はアレグロカンタービレともいうべき歌うような詩情豊かな楽章である。モーツアルトといえども、これ以上付け加える楽譜は考えられなかったであろう。第2楽章もやはり歌うような雅やかな楽章である。若きモーツアルトに最も大きな影響を与えたのは、このようなJ.C.バッハの緩徐楽章であった。第3楽章もオペラの序曲のようでもあり、やはり詩情ゆたかなアレグロである。
                                                             
Passe Compose   ©竹宮恵子



                                     人形の館

                              花咲き乱る 初夏の日に
                              薔薇の館を 訪ねたり
                              三時の午後の お茶会に

                              あまたの人形 ましませり
                              翼広げし 妖精の
                              シャボン吹きたる 少年の
                              華やかなりや 貴婦人の
                              ウェディングドレス 花嫁の

                              いと閑かなる 部屋の中
                              出窓の光 やはらかに
                              湯の沸く音色 ことことと
                              いつしか吾は 眠りしや

                              ふと気づきたり ざはめきに
                              お茶の香りも こうばしく
                              ゆらめく湯気の かげろうに
                              笑ひさざめき 楽しげに
                              生きて語りぬ 人形の
                              妖精のごと 動きたり

                              目覚めてみれば 人形か
                              午後の仮寝の 夢なりや
                              帰へりし後も 館では
                              夜の帳(トバリ)の 降りたれば
                              伴に手を取り 見つめ合ひ
                              夜のふけるまで 踊るらん



ヴァイオリンとチェロのための交響協奏曲イ長調T284/4

 ヨハン・クリスチャン・バッハの傑作のジャンルには、シンフォニアともう一つ協奏交響曲(サンフォニー・コンサルタンテ仏語)がある。協奏交響曲は、18世紀後半のロココスタイルの華やかなりし頃に流行った楽曲で、二つ以上の独奏楽器(弦楽器と管楽器)とオーケストラによる協奏曲風のシンフォニアで、第1楽章はソナタ形式、第2楽章はロンド形式になるものが多い。全体的に踊るような明朗快活な雰囲気に満ちている。

マンハイム樂派のカール・シュターミッツやロンドンのヨハン・クリスチャン・バッハなどが代表的な作曲家である。この時代にパリ、マンハイム、北イタリア、ロンドンなどで盛んに演奏された宮廷音楽である。J.C.バッハのこの曲は、1770年頃、パリのシベール社から出版されたものである。モーツアルトもパリ旅行で恩師J.C.バッハに再会し(1778)、
ヴァイオリンとヴィオラの協奏交響曲K364を作曲している。

第1楽章♪♪
明朗典雅な宮廷音楽であり、ヴァイオリンとチェロの掛け合いが限りなく美しい。イタリア的な古典派音楽で、ほのかな抒情性に詩情があり音楽性の高い楽章である。フィナーレの独奏楽器のカンデンツァも見事である。

                                            AUTUMN                ©いがらしゆみこ

                              


                    紅葉(モミジ)散るなり 秋の日の
                    明るき日ざし 照らすれど
                    なじかは知らね 淋しさよ
                    そよ風と伴 吹き込みぬ

                    空は碧しと 想へども
                    花は紅しと 想へども
                    風は清(サヤ)かと 想へども
                    貴方を想ふ 真心は
                    何にもまして 深きかな

                    ひとり泣きし 幼き日
                    優しき言葉 かけ給ふ
                    御使ひのごと 清らなり

                    薔薇のみ園で めぐり逢ひ
                    心の人と 誓ひたり
                    優しき笑顔 何処(イヅコ)にて
                    常に私を 見つめ給ふ

                    心でいつも 呼びかけん
                    空より澄んだ まなざしの
                    天にまします 御姿に
                    瞳開ければ こなたにぞ
                    あの日のごとく 立ち給ふ


第2楽章♪♪
ロンド形式で、幾分テンポが早めで舞曲になっている。中間部は短調に変わり陰影のある雰囲気を含んでいる。

ジョージィ         ©いがらしゆみこ


                              花嫁

                            花かざしたる 乙女子よ
                            花もはじらう 美しさ
                            華燭の典に 臨みたる
                            祝福されし 花嫁よ

                            深きまなこは 湖の
                            砂に舞ふごと 燦(キラ)めきて
                            深き想ひは 紺碧の
                            空の如くに 清らなり

                            華やかなりき 舞台にも
                            月の如くに 奥ゆかし
                            清楚なりける プロフィール
                            初恋のごと 初々(ウイウイ)し

                            聖母の如く 慎ましく
                            天使の如く しとやかに
                            ニンフの如く ふくよかに
                            アモールのごと 愛らしき

                            年端(トシハ)もゆかぬ 乙女子よ
                            社交界にて 現れて
                            人も羨む 貴公子に
                            一目惚れにて 口説かれぬ

                            余りに早き 引退に
                            世間は大ひに 驚きぬ
                            されども誰も 妨げず
                            悪しき噂の ひとつなし

                            その余りにも 純真に
                            誰もが打たれ 息をのみ
                            天のみ使ひの 永遠(トコシエ)の
                            活きたる姿 みたりけり


二つのヴァイオリンとチェロのための協奏交響曲ト長調T284/1

 J.C.バッハには全部で13曲くらいの協奏交響曲がある。特徴は複数の楽器の協奏曲になることで、二楽章か三楽章になり、舞踏的な楽章が含まれることが多い。協奏交響曲はフランスのロココスタイルの音楽で盛んになった。フランスではカール・シュターミッツがパリで大成功を収めている。ロンドンではJ.C.バッハが活躍した。モーツアルトもマンハイム・パリ旅行で知り、一曲作曲している。

第一楽章 RP♪♪
弦楽合奏の後に二つのヴァイオリンとチェロの独奏が入ってくる。フルートも参加して花を添えるフランス式の楽曲である。

第二楽章 RP♪♪
歌うようなアンダンテ・カンタービレである。弦楽合奏の後ヴァイオリンとチェロの独奏が入ってくる。

第三楽章 RP♪♪
優雅なメヌエットの楽章である。明朗で舞踏的な楽章になっている。ヴァイオリンとチェロの独奏が入ってくる。華やかなイメージが主要である。


ディアドゥメネ      エドワード・ポインター
             


                              ディアデゥメネ

                            彼のラティウムに 名をはせた
                            踊り子なりし ディアデゥメネ
                            女神の如く 美はしき
                            天使の如く 清らなり

                            その愛らしき 顔(カンバセ)は
                            少年のごと 純真なり
                            清らなること み手足は
                            天使の如く 豊かなり

                            胸から丘への み姿は
                            美はしきこと 限りなし
                            女神の如く 美はしと
                            諸人こぞりて 讃えんや

                            エスクリナなる ヴィーナス(の社)は
                            彼女に模して 彫られたり
                            されどディアデゥメネ 神々を
                            冒涜せんと 誹謗(ヒボウ)さる

                            召還されたり 法廷に
                            ディアデゥメネ助く 弁護士は
                            無罪説くため 法廷で
                            彼女の衣 はぎ取らん

                            その余りにも 高貴なる
                            美はしさゆゑ 感嘆の
                            波法廷に 満ち渡り
                            一部は既に 肯(ウナズ)きぬ

                            遂に法廷 赦したり
                            穢れなき女(ヒト) ディアデゥメネ
                            汝を救へり 汝の美
                            永遠(トワ)を語らん 汝の美


ピアノフォルテ、オーボエ、ヴァイオリン、チェロの為の協奏交響曲変ロ長調T289/7

  
J.C.バッハの傑作の一つである。この協奏交響曲の独奏曲にはピアノフォルテが入っており、オーボエ、ヴァイオリン、チェロと独奏楽器が多く、華やかなロココスタイルの雰囲気をよく伝えている。J.C.バッハには全部で13曲の協奏交響曲がどれも素晴らしく音楽史上第一級の作品群であると思う。コレギウム・アウレウムの様な優れたオリジナル楽器で演奏されれば、そのどれもが傑作であると判るはずである。

J.C.バッハは、J.S.バッハの末子であるが、大バッハがなくなった後、ベルリンのC.P.E.バッハの元に預けられる。しかし、J.C.バッハはベルリン楽派に飽きたらず、兄の反対を押し切ってイタリアのミラノに身を寄せ、イタリアの最新の古典派の音楽を身につける。モーツルトと作風が似ていて、J.C.バッハがモーツアルトの唯一の師匠であったことを実感させられる。イタリアでもオペラを発表して好評であった。

ミラノのバッハの名声が広まり、ロンドンのキングス・シスターと契約し、王妃の音楽教師になる約束でロンドンに渡り、20年間に渡り音楽活動をつづけた。すでにロンドンにいたアーベルと演奏会シリーズを初め、J.C.バッハの亡くなる歳までつづけられる。そのどれもがロココスタイルの粋をいっているため、当時から大変な人気で、ロンドンのバッハとしてヨーロッパ中で有名であった。シンフォニアの楽譜も生前に出版され、時代の寵児であったころもあった。協奏交響曲もパリやロンドンで盛んで、J.C.バッハは協奏交響曲に於いて天才的な才能をみせている。

第一楽章♪♪
独奏楽器のピアノフォルテ、オーボエ、ヴァイオリン、チェロが立ち替わり、華やかな如何にも協奏交響曲らしい楽章である。センス、音楽性も高い。

第二楽章♪♪
極めて美しい緩徐楽章である。モーツアルトの音楽を聞いているようでもある。

ポンペイのヴィーナス


第三楽章♪♪
優雅なアレグロであり、独奏楽器にピアノフォルテが含まれており、珍しい協奏交響曲である。



二つのヴァイオリンと二つフルートとオーボエの為の協奏交響曲ホ長調T284/6♪♪

筆者が持っているブダペスト・ストリングスのJ.C.バッハの協奏交響曲(Sinfonia Concertante)作品集には13曲載っている。後二曲はオーボエ協奏曲で、後一曲はフランス語で「より器楽的なコンチェルト」で二つのヴィオリンの為の協奏曲が含まれいる。協奏交響曲の先鞭(センベン)をつけるのは、マンハイム楽派の音楽一家の長男であったカール・シュターミッツで、パリで大成功を収める。それから、パリ、ロンドン、ミラノなどで大流行する。18世紀後半でモーツアルトの時代と重なっている。カール・シュターミッツの協奏交響曲は、LP時代に大活躍したオリジナル楽器のコレギウム・アウレウムが二曲ほど入れている。そのどれもが素晴らしく、筆者はすっかり夢中になってしまった。

しかし、カール・シュターミッツの協奏交響曲は、それ以来どのディスクでも聞いた事はない。カール・シュターミッツはフルート協奏曲とかクラリネット協奏曲では知られているようだ。ヴァイオリンとフルート等の室内楽もある。ロンドンはパリに近く、J.C.バッハがかなりの協奏交響曲を残している。モーツアルトはマンハイム・パリ旅行で協奏交響曲の存在を知ったようだ。一曲の名作を残している。フルート協奏曲もマンハイム・パリ旅行で一曲ほど作曲しているが(後もう一曲あるが、それはオーボエ協奏曲をフルートで吹いている)、ハイドンなどは一曲あったが、それは今では偽作とされている。モーツアルトのフルートとハープの協奏曲も複数の独奏からなるので協奏交響曲と言えないわけではない。この曲が、ザルツブルク時代の最高の協奏曲であり、ロココスタイの最高傑作である。

フランスではバロック時代からフルートが好まれて、テレマンなんかは、フランスに傾倒していたので、「ターフェル・ムジーク」でかなりのフルートの作品を書いている。フランスではロココスタイルになるとより一層フルートが好まれて、管楽器でもピアノと楽譜が同じなので、フルートソナタがかなり作曲された。しかし、ウィーンを中心にした音楽圏ではフルートソナタはほとんど作曲されなかった。ハイドンもモーツアルトも弦楽四重奏には拘りを持ったが、フルートソナタの存在は無視されている。やはり、パリとウィーンでは音楽の趣味も幾らか違っていたと思われる。

モーツアルトの室内楽にフルートが入るのは、セレナードやディヴェルティメントだけで、この二つがモーツアルトの最もよく聞かれる室内楽である。
ハイドンやモーツアルトにフルートソナタがあれば、彼らの室内楽ももっと聞かれたのではないかと思う。やはり、フルートの音には華があり、それを最も好んだのがフランスのロココスタイルであった。話題が逸れてしまったが、J.C.バッハの協奏交響曲でも、フルートも時々使用されている。

第一楽章アレグロ
二つのヴァイオリンが曲を主導している。しかし、フルートも時々装飾程度には華を飾っている。舞曲のように弾むのは協奏交響曲の特色である。ヴァイオリンのカデンツァは即興になっている。

第二楽章アンダンテ
ここに来て、オーボエが主旋律を奏いている。ロココスタイルらしい牧歌的で美しい曲である。オーボエは古代の響きが有り、バロック時代に最も活躍した楽器である。

第三楽章メヌエット
ここでは、初めてフルートがヴァイオリンとが主旋律を交代交代に奏いている。舞踏曲で終わるのも協奏交響曲によくある特徴の一つである。


二つの、オーボエ、ホルン、ヴァイオリン、ヴィオラ、一つのチェロの為の協奏交響曲(夜想曲)T288/7♪♪

第一楽章アンダンテ
第一楽章がアンダンテといのは、これが初めてである。夜想曲なのでこのような楽章が選ばれたかも知れない。しかし、演奏を聞くと余りアンダンテのようには聞こえない。やはり舞曲風の調子の良い音楽である。ヴィオリンとオーボエが主旋律をだいたい奏いている。途中にホルンの音も出てくる。

第二楽章メヌエット
最初出てくる弾みのいい音楽がメヌエットである。そしてABACAというロンド形式を取っている。多分夜の舞踏会用に作曲されたのであろう。



フルート、二つのヴァイオリン、チェロの為の協奏交響曲変ホ長調T286/8♪♪

第一楽章アレグロ
流れのメロディーが初めから現れる。そして独奏楽器に引き継がれていく。全体的にメロディーが美しく、アレグロカンタービレといっても良いような楽章だ。モーツアルトが学んだのは、この様なJ.C.バッハの歌うようなメロディーであった。

第二楽章ラルゲット
珍しい短調の楽章である。しかし、深刻さはなく、直ぐさまフルートの美しい音色にとって変わる。第二主題はフルートが受け持っている。しかし、短調であっても蔭りの様なイメージである。

第三楽章アレグロ
この楽章も良く出来ていて、無用な繰り返しはなく音楽は発展的で音楽性の高い楽章である。ベートーヴェンでも音符を書き換えることは出来ないのでないだろうか。




二つのフルート、二つのヴァイオリン、チェロの為の協奏交響曲ニ長調T290/2♪♪

第一楽章アレグロ
最初に弦楽器とフルートが緊張感のある演奏をする。その後独奏楽器群に受け継がれていく。多数の独奏楽器がありながら、J.C.バッハの腕は冴えている。その内に独奏楽器と弦楽合奏が交互に演奏して華やかになっていく。フルートのカデンツァがあって終了する。

第二楽章メヌエット
弦楽合奏でメヌエットのメロディーが演奏される。引き続きフルート、チェロ、ヴァイオリンがメヌエットを受け継ぐ。弦楽合奏と独奏楽器が交互に演奏される。再び最初のメヌエットのメロディーに戻る。フルートのカデンツァがあり終了する。



クラヴサン協奏曲イ長調

 この協奏曲は、J.C.バッハが、ベルリンで兄C.P.E.バッハの作品を習作していたころの作品であると考えられている。第1楽章、第3楽章はC.P.E.バッハの作品に似ているが、第2楽章♪♪ は、J.C.バッハの特色がすでに現れている。雅やかで歌うような曲想は、後のロンドン時代の彼の作品に共通したものである。やはり詩情豊かなアダージョである。

                                             
©萩尾望都の世界



                            まだ少女とは 思はれど
                            優しき人を 夢にみん
                            孤独な秋の 長き夜を
                            涙ぬらさん 夜枕に

                            清き社(ヤシロ)に 願ひこめ
                            友の木立に 語りかけ
                            飛びゆく鳥に 望み懸け
                            昇る明星に 祈らんや

                            白馬に乗りて あの方は
                            薔薇の館に ましませり
                            光るまなこに 剣おさめ
                            後ろ姿に 孤独秘め

                            一目みし時 憧れん
                            深紅の服に 剣をとり
                            尊きみ顔 輝きて
                            優しき瞳 限りなし

                            美はしき髪 なけれども
                            アモールのごと 愛らしき
                            優雅なドレス なけれども
                            水仙のごと 清らなり
                            大人のころに あらねども
                            木(コ)の実はすでに 熟したり

                            熱き想ひを 届けたし
                            一言でよきや 話したし
                            一目でよきや 見つめたし
                            花壇に立てる アモールよ
                            汝の矢をば 放てかし
                            己(オノ)が願ひを 叶へかし
                            二人を永遠(トワ)に 結べかし


オーボエ協奏曲ヘ長調♪♪

 J.C.バッハの傑作の協奏曲である。モーツアルトのサルツブルク時代の協奏曲と遜色はない。抒情的な美しい曲であり、前古典派にみられがちなフレーズの繰り返しは、余りみられない。J.C.バッハのメロディーの甘美さは、何度聞いても飽きることがない。第二楽章は時めくようなラルゴである。各楽章の中間部に幾分メランコリックな部分を置き、曲に陰影を与えている。、モーツアルトがJ.C.バッハを唯一の師匠として尊敬していたのも十分に肯ける。アレグロも歌うようであり、モーツアルトのアレグロ・カンタービレの手本となっている。

ダナエ               コレッジオ



ダナエはルネサンスから近代におけるまで数多くの画家が手がけたが、16世紀のコレッジオの作品は最初のものであり、しかも最も甘美な作品である。コレッジオのギリシア神話にまつわる作品は幾つもあるが、その美しさは群を抜いており、既に究極的な神話画を打ち立てている。ヴェネチア派の作品もよく引き合いに出されるが、美しさにおいては到底コレッジオの作品には敵わない。構図も甘美の究極にあると言ってもよい。コレッジオはラファエロと並んで、典雅な古典主義美術の模範とされてきた。

ユピテル(ジュピター)の使者としてアモールが訪れ、ユピテルが雨雲になって黄金の雨を降らせようとしているのを見つめている。ダナエは、喜悦の表情をしておりユピテルを待ちかねているようである。腰布をアモールが下げようとしているもユピテルの到来に備えているのであろう。アモールは少年の、ダナエは乙女の体型の美しさを見事に表現している。これ以上の古典美術の構図はあり得ないだろう。コレッジオは希有の天才である。これ以上の作品は、近代世紀末のクリムトを待つしかなかったのである。

                              ユピテルとダナエ

                            アルゴス王に 一人娘ダナエありき
                            顔(カンバセ)の甘きこと ニンフの如く
                            美はしきこと み使ひの如く
                            可憐なること 野の菫の如し
                            男子の世継 求めたる王
                            信託に 問ふたれど
                            信託の曰く 子息生まれず
                            孫(ダナエの子)に 殺(アヤ)められんと
                            王 ダナエを恐れ
                            塔に 幽閉す
                            年頃のダナエ 悲嘆して
                            斯くの如く 歌ひたりけり

                            父なる神よ 畏(カシコ)くも
                            全能の神 ユピテルよ
                            呪はれし女 あはれみて
                            差し伸べ給へ 救ひの手

                            景色みへども 歩めずや
                            声聞こえども 語れずや
                            ひとりのベッドの 淋しさよ
                            愛ある日々を 与へませ

                            若き身体(カラダ)は 渇きたり
                            恋することも あたはざる
                            年端(トシハ)もゆかぬ 乙女児に
                            何ぞ悲しき 定めかな

                            まなこに流る 悲しみに
                            星も瞬(ママタ)き 答へたり
                            愛なき日々の 悲しみに
                            小川もささやき 答へたり

                            翼持ちたる アモールよ
                            汝の翼を 与へかし
                            父なる神の ユピテルよ
                            姿を変へて 救ひませ

                            アモール ダナエに現れ
                            ユピテル ダナエを愛し
                            ユピテルの愛に 備へることを
                            伝へ 祝福す
                            ダナエ 知らせに
                            悦べること 限りなし

                            天で ユピテルの
                            ダナエの姿を 眺めたり
                            その美はしきに 魅了され
                            その祈り 聞き入れ給ふ
                            視よ ユピテル
                            雨雲に 変身し
                            塔の 隙間より入(イ)りたりて
                            黄金の 雨降らしたり
                            ユピテル 姿現し
                            ダナエを 慰め愛撫し
                            ダナエ 女の歓び 
                            初めて 知りにけり
                            それより 喜悦して 
                            ユピテル 迎へたり

                            間もなく ダナエ
                            子を 生みにけり
                            名を ペルセウスと命名す
                            アルゴス王の 驚き
                            尋常にあらず
                            ユピテル ダナエ救はんがため
                            箱船 造りて
                            母子(ハハコ)を セリポス島に運びたり

                            母子 漁師の 
                            ディクテュスに 救はれ
                            幸ひなる日々 過ごさんや
                            されども 島の領主 
                            ダナエに 惚れたりて
                            ダナエ 奪はんとす
                            ダナエの 逃げ込みたる
                            神殿 包囲し
                            抵抗する ペルセウス
                            魔物の島に 追放す
                            英雄ペルセウス 
                            魔物メデューサの 首を取り
                            島に 舞い戻り
                            メデューサの 呪ひかけ
                            領主を 石に変へにけり
                            
                            ダナエ 愛するディクテュス
                            取り戻し 幸(サチ)多き 
                            日々 送りたりけり
                            英雄ペルセウス 亡き領主の王女
                            アンドロメダ 娶(メト)り
                            国民の 慶びの中にて
                            婚礼の儀 挙げたりき
                            式典に 知らずして参加したる
                            アルゴス王 ペルセウスにて
                            石に 変へらるるなり


フルート協奏曲ニ長調♪♪

この協奏曲を聞くと、モーツアルトのザルツブルク時代の音楽のスタイルは、J.C.バッハにより出来上がっていたことが肯ける。イタリア古典派風の明快典雅な流れ、ロココスタイルを思わせる時めき、第二楽章の歌うようなメロディーなど、すべて若き日のモーツアルトの特長を示している。

ダフニスとクロエ         フランソワ・ブーシェ


                              ダフニスとクロエ

                            地中海の島 レスボス島に住む
                            山羊飼(ヤギカイ)ラモン 森で
                            山羊の乳(チチ)を 飲みたる
                            男子の幼子(オサナゴ) みつけたり
                            身元には 高価な
                            品 置かれたりき
                            不憫に思ひ 連れて帰り
                            ダフニスと名づけて 育てたり

                            しかして 二年後に
                            ニンフを祭る 祠(ホコラ)にて
                            羊の乳(チチ)を 飲む
                            玉の如く 美しき
                            女子の 幼子(オサナゴ)を
                            羊飼ドリュアース みつけたり
                            身元には 高価な
                            装飾品 添へられたりき
                            ドリュアース クロエと名づけて
                            大切に 育てたり

                            二人は すくすくと成長したりき
                            ある日のこと
                            狼を 捕らへる穴に
                            ダフニス 落ちにけり
                            それをみた クロエ 
                            ダフニス 助けんとすが
                            力 なかりけり
                            牛飼ドルコン ダフニス助けたり
                            ある日 ニンフ祭る
                            祠(ホコラ)にある 泉で
                            クロエ 身体(カラダ)洗へり
                            その美(ウル)はしき 素肌みたりける
                            ダフニス クロエ恋したり
                            同じくドルコンも クロエ恋したり

                            ダフニスと ドルコン
                            クロエをめぐりて 争ひたり
                            クロエの前で 踊りにて
                            勝負することに なりにけり
                            ドルコン グロテスクな踊りをす
                            ダフニス 軽快な踊りをす
                            クロエ ダフニスに接吻し 
                            勝敗は 決まりたり
                            ダフニス 胸高まり頬紅潮す
                            さらに クロエ抱きしめ
                            その感触に 恍惚となりたり

                            秋になり 葡萄の季節になりたりき
                            遠くより 海賊来たりて
                            街襲ひ ドルコン倒し
                            ダフニス 捕らへてゆきたり
                            クロエ 知りて 
                            ドルコンの笛 強く吹きたれば
                            海賊船に 奪はれたる牛ら
                            ドルコンの 笛聞きて
                            一目散に 走り出し
                            船バランス失ひ 沈没す
                            ダフニスと牛らは 泳ぎ着きて
                            助かりたりけり

                            島の 彼の地から
                            若者ら 船に乗り 
                            狩りに 来たりき
                            綱をつないで 船を止め
                            狩りに ゆきたり
                            何者かに 綱盗まれて
                            船 沖に流さるるなり
                            若者ら 怒りて
                            この地の ダフニスらと
                            戦(イクサ)に なりにけり
                            若者ら 美女クロエと
                            家畜や 葡萄酒
                            奪ひたりき

                            閑かなる島に 育ちたる
                            清らなりける 乙女児よ
                            美(ウル)はしきこと ニンフのごと
                            ふくよかなりし 乙女児よ

                            天使の如き 可憐なる
                            アモールのごと 愛らしき
                            菫の如き 慎ましき
                            薔薇の顔(カンバセ)の 美(ウル)はしき

                            その柔肌(ヤワハダ)を 一目みて
                            好きにならざる 人はなし
                            澄みたるまなこ 遙かなる
                            わだつみ(海)のごと 深きかな

                            クロエ無くした ダフニスよ
                            凡(スベ)て失ふ 如きかな
                            歓びなきや ふれあひの
                            希望の光 沈みたり

                            島守りたる ニンフらよ
                            心の清き 乙女児を
                            高貴なりける 家の子を
                            災難よりぞ 救ひませ

                            牧人の神 パーン様
                            クロエの命 救ひませ
                            恋の神たる アモールよ
                            クロエの行方 守りませ

                            ダフニス ニンフを祭る
                            祠(ホコラ)に ゆき
                            クロエの 帰還
                            一心に 祈願す
                            夢に 三人のニンフ現れ
                            パーン(牧神) クロエを救ひ
                            ダフニスと クロエのゆく末を
                            アモール(恋の神)の 取り計らふこと
                            告げたりき

                            敵の 陣地 
                            突然 炎に包まれ
                            パーンの神 現れて
                            アモールの 加護ある
                            クロエと 家畜や葡萄酒
                            返還すること 命じたり
                            敵の主(ヌシ) すぐさま返還し
                            戦(イクサ) 終はりたりけり

                            ダフニスと クロエ 
                            ますます 愛し合ひたり
                            接吻し 抱(イダ)き合ひ
                            着物を脱ぎて 伴に寝たりける
                            されど それ以上を知らじ
                            同じ街に 
                            リュカイニオンと言う女 ありたり
                            豊かな農夫の 女房なり
                            年若く 豊満な女なり
                            かねてより 
                            ダフニスに好意 寄せたりき
                            思ひ 遂げるため
                            ニンフのお告げと 偽りて
                            ダフニス 巧みに誘ひ
                            愛の行為 教へたり

                            クロエ 年頃になりたれば
                            縁談 多く来たりけり
                            ダフニス クロエに求婚すれども
                            山羊飼の 身分の 
                            低きことに 悩みたり
                            秋になり 葡萄の実りたれば
                            この地の領主 来たりけり
                            ラモン 領主にダフニスの 
                            実の子にあらざるを 話し
                            証拠の品 みせにけり
                            すると 領主夫妻の若い頃に 
                            迷子になりたる 子なること
                            判りたりけり
                            ラモンと 領主大ひに喜び
                            ダフニスと クロエの 
                            華やかなる披露宴 開催され
                            二人 皆に祝福され
                            永遠(トワ)に 結ばれん


フルートとオーボエによる五重奏曲 作品11

 この曲集は、J.C.バッハの室内楽でも、よく知られた作品である。全部で六曲あるが、そのすべてが傑作であり、密度の高い作品集である。最近のオリジナル楽器の演奏で、真価が明らかになったのは喜ばしいことであると思う。フルートとオーボエが含まれ、華やかで優美であり、当時のロココスタイルをよく表している。モーツアルトのフルート四重奏曲などよく似ており、モーツアルトへの影響もありそうである。
第一曲ハ長調♪♪は、特にロココスタイルが濃厚で時めくような美しいフレーズが多くみられて、明快で典雅である。

コリンヌとアンナ   ©細川智栄子


                              コリンヌとアンナ

                            ころは フランス
                            十九世紀末の 古き良き時代
                            エッフェル塔の 立ち
                            着飾った 貴婦人の
                            恋と浪漫 求めて
                            巴里(パリ)の街を 彩(イロド)りたりしころ

                            フランスの西部 ブリュターニュ半島の
                            ある孤児院で 育ちたるコリンヌよ
                            明るきこと アモールの如し
                            美はしきこと 天使の如し
                            正義感の つよけれど
                            常に子供たちの 姉の如く
                            優しきこと 聖母の如し

                            ある日 館(ヤカタ)の馬車が近づきて
                            ひかれたる 寸前なり
                            コリンヌ 抗議すれども
                            その後、館から呼び出しあり
                            孤児院への 寄付を
                            一切やめるとの 返事あり
                            先日の 馬車に乗りたる 
                            リシャールも ゐたり
                            コリンヌ リシャールの頬をたたきたり
                            されども 視よ! 
                            リシャールは 盲目なり
                            馬車の 暴走も  
                            実は悪意 無かりけり
                            コリンヌ ショックを受け
                            心から 悔ひたりけり

                            ある雪の 積もりたる日
                            コリンヌ リシャールの母との
                            会話を 聞きたり
                            母の冷酷な態度に
                            優しき言葉の一つもなかりけり
                            リシャール 雪の中に走り去り
                            雪に姿を 消さんとす
                            コリンヌ 追ひかけて
                            リシャールの 背中抱(イダ)きたり
                            されども リシャール反発して
                            コリンヌを 信用せず

                            それから 幾度も
                            コリンヌ リシャールの
                            窓辺に 優しき声をかけたりき
                            ある時 突然に
                            リシャール コリンヌに 
                            愛を 告白す

                            優しき言葉 願ひても
                            誰ひとりして かけざらん
                            母と言へども 父さへも
                            愛の言葉も なかりけり

                            母(自分を)生みたれど 盲目(メクラ)とて
                            父(自分を)疎(ウト)んじて 去りにけり
                            母もまた(自分から)去り 社交界に
                            うつつをぬかし (自分を)顧みず

                            愛求めぬ者 誰あらん
                            心渇きて 如何せん
                            命の水を 求めても
                            盲目(メクラ)に誰か 与へんや

                            天使のごとき コリンヌよ
                            幾度も窓辺に 声かけん
                            窓辺に聞ゆ セレナード
                            君の真(マコト)を 信じたり

                            暗き心に 一筋の
                            炎の明かり 灯りたり
                            凍(イ)てつく心 融けたりて
                            心の春よ 来たれかし

                            春の女神の フローラよ
                            二人に恵み 与へかし
                            赤き糸にて 結びつけ
                            永遠(トワ)の幸ひ 与へかし

                            巴里の 実業家アラン 
                            孤児院の 援助すると伴に
                            美貌で素朴な コリンヌに
                            婚約 迫りたり
                            リシャールと アランの間で
                            コリンヌ 悩みけり
                            遂に孤児院を 救ふ為に
                            リシャールと 別れる決意す
                            リシャールに 別れを告げると
                            盲目の リシャール 
                            コリンヌの 嘘に感ずきたり
                            リシャール 真実をたださんとせば
                            コリンヌ 過ちて
                            崖から 河に落ちにけり
                            盲目のリシャール 飛び込めば
                            盲導犬のジョンが コリンヌをつきとめ
                            ようやく一命を 取り留める
                            リシャールと 救はれしコリンヌとは
                            互ひの愛を強く 確かめたり
                            コリンヌ リシャールと愛を誓ひたり

                            その後 リシャールは
                            目の手術 受ける為
                            アランと 巴里へ出立(シュッタツ)する

                            ある日 上品な紳士訪れ
                            コリンヌが 伯爵家の
                            令嬢であることを 告げにけり
                            実の母親と祖父に 会う為に
                            リシャールと 再会する為に
                            孤児院の 皆と別れ 
                            船で巴里に 出立する

                            船の中にて コリンヌの部屋に
                            アンナらの 賊入りけり
                            アンナの 孤児なることを知ると
                            コリンヌ 同情して赦し
                            身の上話をして 親しくなりたり
                            ある夜 霧深くして
                            船 貨物船と正面衝突す
                            船 沈没せんとす
                            コリンヌ 泳ぎの上手(ウマ)き
                            アンナと 海に飛び込みぬ

                            されども アンナ
                            自ら伯爵令嬢に なりすます為
                            コリンヌ 見捨てたり
                            奇跡的に コリンヌ救はれしが
                            記憶喪失し 自らの名さへ
                            忘れたりける

                            アラン 情報を知り
                            コリンヌ 探しだし
                            婚約者(コリンヌが)であると 説得して
                            邸宅に 引き取りたるが・・・


天の女王様♪♪

 天の女王様とは聖母マリアのことである。J.C.バッハの特徴のよく現れた、メロディーの美しい優雅で清純な曲である。モーツアルトが師匠にした作曲家だけあり、ザルツブルク時代のモーツアルトの宗教曲にも反映されている。

©いがらし ゆみこ


                              少女の祈り

                            谷間の 百合よ
                            野の 菫よ
                            人皆 花壇をみれども
                            汝を 顧みる者あらじ

                            乙女のころに あらねども
                            木の実は すでに熟したり
                            頬に 白き花
                            手足は ニンフの如く豊かなり

                            天の女王様
                            兄の如く 優しき人を
                            誰よりも深く 愛し給ふ人を
                            年頃の欲求の 満たされんことを

                            日々聖母に 祈りたり
                            夜枕を 何度も濡らしたり
                            眩しき朝を 何度も迎えたり
                            夜の長きこと 耐えざらんとす

                            ユピテル大神様
                            汝の目に 適ふなら
                            吾を 愛の国に連れゆけよ
                            汝の手管で くどき給へ

                            天使の如く おとなしく
                            羊の如く 素直なり
                            愛は 濃やかにして
                            反応は 過敏なり

                            耐え忍びしこと 幾千秋
                            祈りしこと 数知れず
                            求めしこと 常ならず
                            呼びたること 幾年か

                            赤き糸にて 結ばれたる人よ
                            永遠(トワ)の 誓ひをする人よ
                            雲のしとねで 愛する人よ
                            現れ給へ 願はくは


                              初恋の人

                            どうして 行ってしまったの
                            ひとりだけ置いて
                            あれから 淋しい日々ばかり
                            枕に目をこすり 涙ばかり流しているわ
                            朝の花々は 優しく慰めてくれるわ
                            なじみの小川は 悲しんで泣いてくれるの
                            友だちの木々は ざわめいて同情してくれるわ
                            でもお兄さんは 遠くに行って帰ってはこない

                            お兄さんは いつもそばにいて
                            みつめて 気の遠くなるようなキスをしてくれたわ
                            腰に手を回し 抱きかかえてくれたわ
                            可愛いねと 優しい言葉をかけてくれたわ
                            二人だけの時は ふくらみかけた胸をさわり
                            秘密の花園にも 手を入れてくれたわ
                            その時 天国に行ったような幸せを感じたわ
                            一緒に 遊んでくれたわ
                            二人はいつも一緒だったの

                            どうして 行ってしまったの
                            天国の 神様のところに帰ったの
                            夜寝る前に 目を閉じると
                            星空に お兄さんの面影がみえるわ
                            もう 二度と逢えないの
                            もう お兄さんのような優しい人は
                            何処にもいない
                            マリア様にも 何度も祈ったわ
                            花壇のアモール様にも 祈ったわ
                            でも もう二度と逢えないの

                            もう 幾年(イクトシ)にもなるけど
                            お兄さんの姿は 心の中にあるだけ
                            寝るときも 起きる時も
                            お兄さんに 話しかけるの
                            心の中に 優しい姿だけがみえるわ
                            でも もう逢えないの
                            もう お兄さんのような優しい人は
                            何処にもいない
                            もう 遊んでくれない
                            一緒に お話も出来ない

                            内気な 性格になったわ
                            もう 一人で生きてゆくしかないわ
                            ふと 振り返ると
                            お兄さんが いるように想うけど
                            愛(イト)しい 幻(マボロシ)なの
                            神様の国に帰り
                            見守ってくれているのかしら
                            守護の天使様に なったのかしら
                            
                            寝るときも 起きる時も
                            お兄さんに 話しかけるの
                            何処でも いつも話しかけるの
                            天にまします お兄さんへ

©ねぐら☆なお



歌劇「エンデミオン」♪♪

 この歌劇は二幕物で、正確に言えばセレナータ「エンデミオン」である。モーツアルトの中期のオペラ「羊飼いの王様」などと同じように、ロココスタイルの横溢した傑作のオペラである。物語は有名な月の女神ダイアナとエンデミオンの恋をテーマにしている。序曲は堂々としたイタリア風の急緩急三楽章からなっており、この序曲だけ演奏されることもある。オペラは明快典雅で、口ずさみたくなるような美しいソプラノアリアが多い。モーツアルトのロココスタイルのように、時めくような愛情豊かなオペラである。誰もがモーツアルトのオペラだと思うほど作風が似ている。



レコーディングは、三楽章のよくできた序曲の後、レスタティーヴォを挟んで、時めくようなニーチェ(ダイアナに使えるニュンフ)のアリア、牧歌的なダイアナのアリア、そして合唱までお送りします。特に冒頭のレスタティーボを挟んで、ニュンフ・ニーチェのアリアとフルート序奏のついたダイアナのアリアは筆舌に尽くしがたいほど美しい。

アウロラとケファロス          ゲラン


ここではイメージ画を、何度も載せたエンデミオンの絵画ではなく、オヴィディウスの転身物語を題材にした「アウロラとケファロス」の絵画を用いてみた。ゲランは「アウロラとケファロス」を描いた最も素晴らしい画家である。当時の新古典主義に基づき、極めて写実的で理想的なスタイルで描かれている。アウロラの姿のみならず、ケファロスは古今東西の男性像で最も美しいものだと思う。つい鑑賞者はアウロラよりケファロスの美しさに目がいってしまうほどである。アウロラがケファロスに夢中になった心理が分かりそうな気がする。


                              アウロラとケファロス

                            暁(アカツキ)の女神 アウロラよ
                            朝駆け巡り 麗(ウルワ)しき
                            美青年を 捜したり

                            狩りしたりける ケファロスを
                            大喜びで みつけたり
                            連れ込みたりや 宮殿に

                            妻を連れたる ケファロスは
                            女神の望み 拒みたり
                            家に帰らんと 欲したり

                            妻のことしか 口にせず
                            疲れ果てて アウロラは
                            家に帰したり ケファロスを

                            恋に落ちたり アウロラは
                            暁の女神 忘れたり
                            世の朝(アシタ) 来たらずや

                            ユピテル大神 驚きて
                            アモール呼びたり 弓矢もて
                            ケファロス目がけ 放ちたり

                            恋に目覚めたる ケファロス
                            暁の女神 アウロラと
                            相思相愛に なりにけり

                            雲の上にて ケファロス
                            眠りにけりや 安らかに
                            その美(ウル)はしさ 限りなし

                            甘きマスクは 天使のごと
                            抱(イダ)かれたしや 広き胸
                            逞しくして 美はしき

                            魅惑されたり 下半身
                            含みたること そそられん
                            女神アウロラも 耐へきれず

                            歓びの余り アウロラは
                            曙光(ショコウ暁)のベール 振り上げて
                            無数の花を まき散らす



Top page