初期浪漫派

18世紀後期から19世紀前期の時代の音楽は、日本ではベートーヴェンとシューベルトで占められているが、古典派を超えて初期浪漫派には、実際は多数の作曲家がいて活躍をしている。日本ではほとんど知られていないが、欧州では次第に詳しく研究され、豊かな実態が明らかにされている。ここでは、当時著名だった五人の作曲家のピアノ五重奏曲を通して、その素晴らしさを味わって貰いたい。ピアノ五重奏曲というとシューベルトの「鱒」のような純粋な室内楽を連想するが、ここに載せているピアノ五重奏曲は、ピアノと弦楽による協奏曲と位置づけてもよいほど、ピアノ協奏曲に似ている。

フェルディランド・リーズ(1784-1838)

ベートーヴェンの弟子でありピアノのヴィルトオーソ(名人)として幅広く活躍している。ピアノ五重奏曲ロ短調 Op.74 を聞くと、古典派的な要素はなく、浪漫派の要素を強く感じさせ、師ベートーヴェンを超えて、ピアノのロマンチックな響きの中にはショパンのピアノ協奏曲を思わせるようなフレーズがある。交響曲を8曲、純然としたピアノ協奏曲を8曲かいている。ピアノ協奏曲は自らが演奏する為に書いたものである。ショパンのピアノ協奏曲は、ショパンの発明ではなく、1830年当時に持てはやされていたピアノ協奏曲の形式を完成した作品ということが良く分かる。

ピアノ五重奏曲ロ短調 Op.74♪♪

第一楽章
幻想曲的なで始まり、ショパンのピアノ協奏曲の第二番の出だし似た主題が現れる。ピアノ華麗な響きがその後もつづき、浪漫派の渦の中に取り込まれていく。第一主題が繰り返される。明るい第二主題がつづく。最後は第一主題の変形で締めくくられる。

第二楽章
ロマンチックなゆっくりとした主題があり、途中から、これまた、ショパンの第二楽章的な美しい主題が演奏されて、その二つの主題が繰り返し、
最初のゆっくりした主題に戻り曲を終わる。


第三楽章
空白のない状態で第三楽章に入る。明るいアレグロのメロディーが流れてくる。次第に浪漫派風な情熱的な音楽に変わっていく。中間部にアンダンテの緩やかな部分がある。また冒頭に戻り繰り返して終了する。




フランツ・リマー(1808-1857)

詳しい伝記は分からないが、小さい頃からヴァイオリンを習い、クラリネットとチェロを音楽院で習う。リマーは、ドイツの教会で聖歌隊の指揮者として任命される。その翌年にはドイツのある劇場の音楽監督として任命される。その他のことは資料がないため詳しいことは分からない。このピアノ五重奏曲は大変な名曲で、4楽章からなり、シューベルトの「鱒」を上回るような傑作だと思う。今後の研究に委ねたい。

ピアノ五重奏曲ニ短調 Op.13 ♪♪

第一楽章
極めてロマンチックな出だしで始まる。ピアノが盛んに打たれている。第一主題が様々に変容していく。実に華麗な楽章である。浪漫派の手本の様な第一楽章である。時に美しい第二主題が現れる。また、最初の演奏に戻る。第二主題が美しくつづく。第一主題と第二主題がこもごも現れて、大きな展開になる。再び第一主題に戻り第二主題になり、終末部へと流れて堂々と終了する。

第二楽章
スケルツォ。第一楽章の余韻は冷めず、スケルツォとして踊るように先に進む。

第三楽章
アダージョ 安らぎのある音楽がつづく。高音部のピアノ美しい。中間部で華麗なピアノの部分がある。まるで、ショパンの曲の様である。最初の音楽に戻る。

第四楽章
フィナーレ。しばらくしてハッキリとした主題が現れる。始めに戻る。例の主題が現れる。初めの主題が変化していく。スピードが速くなり終了する。




ヨハン・ラディスラウス・ドゥシェック(1760-1812)

ボヘミアの音楽の名門の家にうまれた。早期の学習を終えると、ドイツからロシアへ楽旅し、カテリーナ二世の寵臣になり、その後パリへ楽旅して、マリー・アントワネットの寵臣となったが革命が勃発するとロンドンに向かった。ロンドンではハイドンに絶賛され、フランスでナポレオンが失脚すると、パリに戻り、タレーランに召し抱えられ、後のリストを予告するような美男のピアニストであった。1760年生まれにしては先進的で、浪漫派の性格がはっきり出ていること。34曲のピアノソナタ、ピアノ協奏曲、ピアノ含む室内楽が比較的多い。モーツアルトが生まれて4年後に生まれながら、浪漫派の特徴を持つ作曲家は多くはない。浪漫派の先駆者と言えるかも知れない。

ピアノ五重奏曲ヘ短調 Op.41♪♪

第一楽章
出だしはベートーヴェン的で、その後のピアノ流れもメンデルスゾーン的で浪漫派の性格をはっきり打ち出している。ロマンチシズムも浪漫派的である。よどみながら流れて美しい楽章である。

第二楽章
アダージョ。浪漫派的な緩徐楽章である。ベートーヴェンのピアノ協奏曲の第二番に似ている。メロディーは優雅でモーツアルトを感じさせるところはあるようである。

第三楽章
これが最終楽章で、ピアノ協奏曲的である。情熱的な浪漫派の協奏曲をより強く感じさせる。ロマン主義の予感を感じていたハイドンが絶賛するのも無理もない。




クラーマー(1771-1858)

クラーマーの父は有名なヴァイオリニストであった。3才でロンドンに移住した。クレメンティにピアノの指導を受けた。大陸旅行ではベートヴェンと知り合った。ピアノ協奏曲は第8番まであり、自分が弾くために作曲した。ロンドン・フィルハーモニーの共同設立者であった。ヴィクトリア女王は、彼のピアノに熱狂したと言われている。

ピアノ五重奏曲ロ短調 Op.76♪♪

第一楽章
流暢な流れの中にも、浪漫派的なロマンチシズムを感じさせる。演奏は間の取り方などが難しく、ただ力強く弾けば良いのとは違うようだ。

第二楽章
モーツアルト的な優雅さが感じられる楽章である。情感の表現がデリケートである。モーツアルトの弟子であるフンメルの影響もあるようだ。

第三楽章
優雅な終楽章である。しかし、ロココ的な優雅さとは違い、ヴィクトリア朝風の古代ローマ風の洗練された趣味があるようだ。




フンメル(1778-1837)

旧オーストリア領のスロバニアに生まれる。父が劇場の指揮者に就任してウィーンに移住し、8才の頃モーツアルトの家に住み込みで2年間に渡ってピアノを学んだ。11才頃からヨーロッパ各地に巡演して神童と喝采を浴びた。サリエリに声楽作品をハイドンにオルガンを学び、ベートーヴェンと親交を結ぶ。ハイドンの後エステルハージー侯の宮廷楽長になり、1811年までこの地位にあった。ウィーンに戻り、ピアノの作品、オペラの創作に専念するが、ピアノ奏者として復帰して成功を収める。特にオペラのメロディーを主題による即興演奏を得意としていた。作品は交響曲を除いて、ピアノ曲が多数を占めるが、バレー曲、オペラも幾つも創作している。

ピアノ五重奏曲ニ短調 Op.74♪♪

第一楽章
ロマン性の濃い出だしで始まる。明るい第二主題が現れる。スケールの大きなピアノ音楽が繰り広げられる。ベートーヴェンの影響があるようだ。長い楽章である。

第二楽章
メヌエット。古典派のような優雅なメヌエットではない。妖精が跳ねているようなメヌエットである。中間部に長閑な部分がある。

第三楽章
アンダンテ。優雅なモーツアルト風のアンダンテである。ピアノはよく動いて浪漫派的なイメージを作っている。

第四楽章
アップテンポの浪漫派的な終楽章である。フーガを使い曲に変化を付けたりしている。



オンスロー(1784-1853)

父はイングランドの貴族であったが、フランスに亡命中だった。ピアノはロンドンで学び、作曲はパリで学んだ。交響曲、ピアノ曲、幅の広い室内楽がある。フランスではなかなか認識されなかったが、メンデルスゾーンやシューマンに賞賛された。

ピアノ五重奏曲変ロ長調 Op.70♪♪

第一楽章
ロマン性の濃い出だしで始まる。優美な第二主題がある。音楽の緊張感が高まり、浪漫派的なイメージを醸し出している。再び冒頭に戻ってくる。ロマン主義的なロマンチシズムに溢れており、曲に飽きない。

第二楽章
緩徐楽章。ロマンチックで美しい音楽で始まる。中間部に怒濤のような部分が入ってくる。再び冒頭に戻って終了です。

第三楽章
浪漫派的に進展していく。舞踏的になり、リズミックな軽快さがある。最後は渦を巻くようになって不意に終わる。