フランス古典派

 フランス前古典派には、特に知られた作曲家がなく非常にマイナーなジャンルである。昔学生時代にフランス前古典派と称するLPを買ったことがあるが、ほとんど聞かず何処かへいってしまった。しかし、フランスは18世紀の文芸の主役国である。フランス前古典派の音楽は、ラモーやテレマンの晩年の作品に既に含まれている。

特にロココスタイルの推進国であったフランスは、18世紀の音楽に深く関わっている。モーツアルトの中期のギャラントスタイルといわれる雅びな様式(ロココスタイル)は、フランスが発祥地である。それは、フランス18世紀半ばを風靡したポンパドール夫人の時代に最高潮に達する。ポンパドール夫人に寵愛されたフランソワ・ブーシェこそフランス・ロココスタイルの完成者である。ブーシェはポンパドール夫人の望み応じて、ロココスタイルの結晶のような作品を描きつづけた。そのほとんどは傑作であり、モーツアルトに匹敵する天才芸術家であると言ってさしつかえない。未だにフランソワ・ブーシェと名を打った画集が日本で制作されていないのは残念なことだと思う。ワトーやフラゴナールも重要だが、明朗典雅で可憐な雰囲気をもつフランソワ・ブーシェこそロココスタイルの粋である。

フランソワ・ブーシェを風俗画のようにみなすのは誤解だと思う。裸体画や恋人達の絵画が多いが、モーツアルトのザイルツブルク時代の音楽のように明朗優雅であり、純情可憐な洗練した趣味が横溢しており低俗とはおよそかけ離れた世界である。さらに古典的な題材が多く、ヨーロッパの神話的な絵画の総集編とも言える厚みがあり、澄み切った世界へ飛翔するような気高さは、ルネサンスやバロックの画家を通り越している。

「忠実な羊飼い」ニコレ・シェドヴィル(1705〜1782)

 このフルートソナタ集は、以前はヴィヴァルディの作品とされていたが、偽作であることは演奏スタイルから明らかであるが、正確な実証がなされないまま200年以上も疑いをかけられたままであった。1989年にパリの出版社の文書が見つかりニコレ・シュドヴィルであることが証明された。筆者がフランスの前古典派の音楽でよく聞いている音楽は、この曲集くらいであろうか。

「忠実な羊飼い」という題名は、18世紀の田園趣味をよく物語っている。ワトーやフランソワ・ブーシェの絵画は、ほとんど田園の中に人物が憩っている。ロココスタイルを連想させる題名である。ヘンデルにも同名のオペラがあるし、モーツアルトにも「羊飼いの王様」がある。フランス王妃マリー・アントワネットの楽しみは、宮殿を離れた木造の質素な別荘で羊飼いの姿をすることであった。相手をするのはどんな少年であったのであろうか。

ヴィヴァルディの音楽は、和声に4度などの奇抜な音階が目立つが、この作品にはほとんどみられない。むしろ、緩急緩急というフランス的な曲順と、それぞれの楽章に舞曲が配置されており、極めてフランス的な趣味を感じさせる。さらにニコレ・シュドヴィルは、18世紀の初めに生まれた人であり、グルックやマンハイム楽派、ベルリン楽派の前古典派の作曲家と年代が等しく、作品様式も前古典派に共通した特徴を示している。今少し、この曲集にあやかりフランスの前古典派の世界を垣間見てみよう。この曲集から抜粋して取り上げてみたい。

第一番ハ長調第1楽章モデラート、第3楽章アリア♪♪
第一番全体がフランス的な緩急緩急の教会ソナタ形式である。第一番のモデラートとアリアともゆったりした格調あるフランス風の曲であり、曲の運び方は前古典派的である。フレーズを繰り返す処などにその特徴をみることが出来る。アリアでは古典派的な抒情性をみせ、グルックのフルート曲を想わせる。

エンデミオンの眠り       ジロデ


フランス新古典主義のジロデの作品である。眠れるエンデミオンと月の女神ルナ(セレネ)の題材は、ルネサンス以来幾多の画家が描いている。月の女神ルナは、恋するエンデミオンを独占するために、エンデミオンを永遠の眠りにつかせてしまった。シロデは、月の女神ルナを描かず、アモールが木の枝を脇に引っ張ることで、月光として月の女神ルナを象徴的に表現した。ジロデはこの方法に自信をもっており、題材を一層ロマンチックにしたと述べている。アモール、エンデミオン伴に彫刻的な裸体画で描かれている点が、如何にも新古典主義的である。


                           眠れるエンデミオン

                         牧場に育つ エンデミオン
                         逞しきこと 虎(トラ)のごと
                         やさしきこと 御使ひのごと
                         美はしきごと 神のごとし

                         好かれる乙女 数知らず
                         オリンポスにも 聞こえたり
                         年甲斐もなき 月の女神
                         エンデミオンを 愛したり

                         若き乙女に 嫉妬せる
                         月の女神よ ゼウスに乞ひ
                         エンデミオンを 眠らせん
                         女神ひとりで 接吻す

                         アモール知りて 矢を放ち
                         月光浴びせ (エンデミオンを)起こさんや
                         ルナの光に (エンデミオンが)目醒めれば
                         ルナを烈しく 愛さんや

                         ルナの光を 恋願ひ
                         ルナの明かりに 花をみん
                         ルナの光に 導かれ
                         ルナを伴に 愛さんや

                         父なるゼウス 憐れんで
                         オリンポスにて ふたり呼び
                         永遠(トワ)の命を 与へんや
                         愛の宴は 今もつづかん


第二番ハ長調第1楽章プレルーディオ、第3楽章サラバンド♪♪
プルーディオとサラバンド伴にメロディーの美しい前古典派風の楽曲である。抒情的な雰囲気はロココスタイルの絵画を連想しそうである。

ポモナとウェルトゥムヌス    ブーシェ


フランソワ・ブーシェの作品である。18世紀の文芸を語るときブーシェなしでは不可能であろう。この作品も彼の神話的な題材の一つである。男を近づけようとしなかったポモナに、ウェルトゥムヌス(園芸の守護神)は老婆の格好に変装して、ポモナに接近することに成功した。


                         ポモナとウェルトゥムヌス

                         ニンフ・ポモナよ ラティウムで
                         美はしきとこ 比類なし
                         果実を愛し 園芸に
                         命を捧げ 奉る

                         肌の優しさ 綿のごと
                         花の顔(カンバセ) 望月の
                         紅をさしたる ごとくして
                         菫のごとく 可憐なり

                         水仙のごと 慎ましく
                         林檎のごとく はじらいて
                         梨花のごとくに 清らなり
                         園に籠もりて 暮らしたり

                         神の好意も 避けがちに
                         愛の求めも 遠ざけて
                         園芸の神 ウェルトゥムヌス
                         老婆に化けて (ポモナに)近づきぬ

                         老婆は常に (ポモナに)愛勧め
                         ウェルトゥムヌスの 誠意説き
                         園芸の神の 自在説き
                         (ウェルトゥムヌスの)ポモナを望む 愛を説く

                         ウェルトゥムヌス 若者にて
                         ポモナの前に 現れぬ
                         力ずくにて 成さんとすが
                         その必要は なかりけり
                         (ポモナが)心奪われ 時めきて
                         ウェルトゥムヌスを 受け入れぬ


第三番ト長調第1楽章プレルーディオ、第3楽章サラバンド、第4楽章クーラント♪♪
プルーディオ、サラバンド伴に明朗典雅で牧歌的な曲である。特に第1楽章は抒情的で可憐な雰囲気がある。サラバンントはゆったりとしたフランス風の気品のある三拍子の舞曲である。クーラントは三拍子の活気のある舞曲である。

花神フローラ  カリエラ




18世紀の前半のイタリアの画家の作品である。既にロココスタイルに近い優美さを備えている。胸の豊かさは真迫している。フィレンツェのウフィーツィ美術館蔵

                           花神フローラ

                         花園住みし フローラよ
                         汝の美貌 際だちて
                         風の神なる ゼフュロスに
                         相見て後に 慕われて
                         ローマの園に 運ばれぬ

                         百花繚乱 常春(トコハル)の
                         花の女神に 成り給ふ
                         命の水を ふりまきて
                         なべての花を 育みて
                         新種の花を 産み出しぬ

                         ナルキッソスの 亡き後に
                         咲かせ給へり 水仙を
                         ヒュアキントスの 亡き後に
                         咲かせ給へり ヒアシンス
                         アドニスゆきて 亡き後に
                         咲かせ給へり アネモネを

                         花のかんざし 髪にさし
                         可憐なること 限りなく
                         舞曲に乗りて 天に舞ひ
                         花から花へ 渡りたり
                         薄き衣を 身につけて
                         胸の谷間 あらはにて
                         豊かなること 密やかに
                         朝の露にて 濡れんとす

                         豊饒(ホウジョウ)祈る フローリア(祭)
                         ニンフも女(ヒト)も 入り乱れ
                         遊女混じりて 踊らんや
                         ヒポクレネスの 泉(霊泉)飲み
                         女の歓喜 極まりて
                         花粉飛び散り 受粉して
                         豊かに実れ 果物よ
                         豊かに育て 子宝よ


第五番ハ長調第1楽章ヴィーヴァーチェ、第3楽章メヌエット、第5楽章アダージョ♪♪
第1楽章は、天に昇るような晴朗な楽章であり、ブーシェの神話的な絵画を連想させる。第3楽章三拍子のメヌエットである。第5楽章は如何にもフランス風の抑制のきいた典雅な楽章である。

エウロパの略奪     ブーシェ


エウロパは、フェニキアの王家の姫であったが、人目惚れしたゼウスは、白い美しい牛になりエウロパに近寄り、ついにエウロパを乗せると海を渡り、クレタ島に連れ去った。クレタでゼウスの妃になり、後のミノス王を生んだ。ブーシェの筆はこのような神話的な題材になると冴え渡っている。エウロパは森と海の間にゼウスの化けた牛に座り、天にも昇らん勢いである。エウロペは均整のとれた可憐な女神に描かれ、ニンフやトリトンに取り巻かれている。


ゴセック(1734〜1829)
 
 古典派のフランスの代表的な作曲家である。出身はベルギーのフランス領に近い処に生まれ、17歳の時ラモーへの紹介状を貰ってパリに出る。貴人の宮廷の楽長を歴任して名声を得て、「コンセール・スピリチュアル」を再建した。その後、オペラ座やコンセルヴァトアール(音楽院)に関係した。音楽史的にみればマイナーな存在である。古典派にフランスの大作曲家が出ていないのは、フランス大革命(1789〜)と関係があるのかも知れない。この動乱はフランスの文芸にも大きな影響を与えており、フランスの18世紀後半の古典派の衰退につながっていることをジャン・フランソワ・パイヤールも述べている。そして、フランスが音楽の先頭を切るのは、1830年代の浪漫派のベルリオーズを待たなければいけない。

二台のハープと管弦楽のための協奏交響曲ニ長調♪♪

 ゴセックの最もよく知られた楽曲である。この時代、フランスでは協奏交響曲(サンフォニー・コンサルタンテ)が主要な楽曲であり、ドイツやイタリアなどよりも遥に多く作曲されている。二つの主に弦楽器のソロによる協奏曲で、二楽章か三楽章を採る。明快優雅なロココスタイルで、踊るような華やかさが特徴である。マンハイム派のカール・シュターミッツもパリに出て、協奏交響曲で大成功している。J.C.バッハもやはり協奏交響曲に傑作がある。モーツアルトもマンハイム・パリ旅行で影響を受け、「ヴァイオリンとヴィオラの協奏交響曲 K.364」を作曲している。

この協奏交響曲は三楽章よりなっているが、第一楽章はイントロぐらいの規模でしかない。しかし、何故かモーツアルトのフルートとハープのための協奏曲の冒頭によく似ているのは不思議である。モーツアルトがパリで聞いていたのかも知れない。第二楽章はロココスタイルの美しい緩徐楽章であり、モーツアルトの緩徐楽章と似ており、時めくような典雅なロココスタイルである。この第二楽章だけを聞けばゴセックは天才と思ってしまうだろう。第三楽章はモーツアルトのようなひらめきはないが、それでもフランス風な典雅な楽章であると思う。リリー・ラスキーヌのハープが演奏が見事である。

バッコスの誕生(マーキュリーがニンフに預ける幼児バッコス)  フランソワ・ブーシェ


                              バッコスの誕生

                            主神ユピテル 可憐なる
                            テバイの王女 愛したり
                            子を授かれど (ユピテルの)妻のユノ
                            子を迫害し 嫉妬する

                            伝令の神 ヘルメス(マーキュリー)に
                            我が子を託し 隠したり(ユピテルが)
                            ヘルメス森の ニンフらに
                            玉の男子(オノコ)を 預けんや

                            男子(オノコ)を山羊に 変身し
                            洞窟の中で 育てたり(ニンフが)
                            神より授かる 御子として
                            ニンフ崇めて 接したり

                            育ちたりける バッコスは
                            美はしきこと 神のごと
                            逞しきこと 虎のごと
                            み使ひのごと 優しきや

                            ニンフやパーン(牧神) 連れ添ひて
                            女の信者 多かりき
                            ワインを広め またたく間
                            絶大なりける 人気得る

                            バッコス酔ひて 陽気なり
                            あまたの女 選びたり
                            永遠(トワ)の愛にて 合一す
                            秘密の儀式 伝へたり

                            瞼にキスして 手を握り
                            愛の永遠(トワ)なる 想ひする
                            気の遠くなる 口づけし
                            とろけたりける 想ひする

                            葡萄の房と 球(タマ)任せ
                            深く愛さる 心地する
                            背中をくすぐり 癒やされて
                            愛の翼よ 生えよかし

                            綿のごと腕 握られて
                            愛の歓び 湧き上がり
                            み足のライン さすらひて
                            潤んで来たる 心地する

                            ウェヌスの丘に 近づけば
                            甘き歓び 襲はんや
                            めしべに花粉 飛び散れば
                            愛の実りの 生まれんや

                            ワインを飲みて 試みよ
                            二人の愛の 儀式なら
                            不純なからん 恋ならば
                            二人はすでに 天にあり


サン・ジョルジュ(1739〜1799)

生まれはカリブ海のフランス領の島である。22歳のころルクレールの門下になり、ヴァイオリンのヴィルトゥオーゾになり、ゴセックの楽団のコンサートマスターになる。18世紀の末にはハイドンのパリ交響曲の初演に立ち会い、パリ楽壇に欠かせない人物であった。

二つのヴァイオリンのための協奏交響曲ト長調♪♪は、二楽章からなる協奏交響曲で、当時のパリの雰囲気を示している。第一楽章の冒頭の主題の後にくる抒情的な第二主題は、J.C.バッハやモーツアルトの時めくようなロココスタイルを感じさせる。ヴァイオリンの動きが華やかである。

キューピットに魅せられるニンフ  ブーシェ


                              キューピット

                            ヴィーナスの子の キューピット
                            女神に仕へ 付き添はん
                            天にも昇る 勢ひよ
                            愛を讃へる 幼子(オナサゴ)よ

                            成長すれば アモールに
                            少年神と 成り給ふ
                            弓矢を持ちて 現れて
                            恋を取り持つ 神なりや

                            心の清き 乙女子を
                            守り給ひて 導かん
                            弓を放ちて 甘き矢で
                            乙女の願ひ 叶へんや

                            ハートに矢もて 射抜ければ
                            甘き快楽 恍惚と
                            身を心をも 燃やしたり
                            相手を愛の 虜(トリコ)にす

                            神に仕える ニンフをも
                            人を愛する 乙女をも
                            心を満たす 歓びに
                            導きたりて 祝福す

                            若きニンフを 虜にす
                            愛らしきこと 限りなき
                            恋の使ひたる キューピット
                            永遠の歓び 与へかし


ヨハン・ショーベルト「仏ジャン・ショーベール」(1740〜1767)

ポーランドの西部シュレージェン地方の出身と言われているが、はっきりしたことは判っていない。1760年頃にパリに出て貴人の楽団のクラヴサン(チェンバロ)を勤めていた。そのころからクラヴサンの名手として有名であり、クラヴサン曲がすでにパリで出版されるほどの人気があった。彼のオペラ・コミックも上演されている。

この時代のパリは、フランス人の大音楽家は出ていないが、外国人でパリで活躍した人が大きな功績を残している。例えばグルックやヨハン・シュターミッツなどがそうである。グルックはマリー・アントワネットの支持を受けて、パリのオペラの中心人物であった。ヨハン・シュターミッツは、協奏交響曲で大成功を収めている。

ショーベルトもその一人であり、相当の才能の持ち主であった。残念ながら毒キノコを食べて若死してしまった。ベルリン楽派の詩情性とフランス風の雅びとを兼ね備えていた。モーツアルトの第一回のパリ滞在の時にショーベルトに会い決定的な影響を受けたことが伝記を読むと判る。彼のクラヴサン曲は、雅びに深い詩情が込められていて、少年モーツアルトにとって音楽の芸術性を考える上での重要な人物である。

クラヴサン協奏曲第四番ト長調♪♪は、堂々とした協奏曲である。アレグロの楽章は、オーケストラの部分はこのころの協奏交響曲と同じような明快な雰囲気であるが、クラヴサンのソロが入ってくると、詩情豊かな深みを現してくる。第二楽章のアダージョは、フランス音楽ではなくC.P.E.バッハのクラヴサン協奏曲を聞いているようであり、蔭りの深い幻想的な雰囲気になっている。この時代のパリが案外ドイツ的な要素を受け入れていたことを証明している。そこには、フランソワ・クープランのような上品な雅びとは異なる世界である。しかし、フランスの画家ワトーにも、深い蔭りと宮廷文化とが見事に混じり合っているので、見方によるのかもしれない。今風のオリジナル楽器で雅やかに奏くと印象が変わってくる場合もあるだろう。

フォスティーヌ   ©原ちえこ


                              フォスティーヌ

                            こなたに佇む 乙女児フォリーよ
                            ジプシーの中にて 白一点なり
                            金髪に 風そよぎ 
                            白き透けたる肌 真珠の如し
                            湖に砂の舞ふまなこは サファイアの如し
                            天真爛漫なること アモールの如く
                            想ふ姿は さながら天使の如し
                            温かき家族に 育ちたる
                            素直にして 素朴なる乙女児よ

                            命狙はれて 逃げのびたる
                            貴婦人の母に 連れられて
                            五歳の時に ジプシーに預けられき
                            間もなく 母は命運尽きて亡くなりたりけり
                            フォリー 少年モーツアルトの如く
                            すでに ピアノの演奏流暢なり
                            母の天才の素質 受け継ぎたり
                            ウィーンの都に 流行りたる
                            木蔭のワルツを 奏きたる姿
                            楽の音の天使の 
                            あたかも 翼の広げんが如し
                            ジプシーの 踊りの伴奏にて
                            日々笑顔で 送りたり
                            古き楽器も 名器の如く
                            人々の拍手も 盛んなり

                            夏ウィーンの都の 館にゆきし時
                            フォリー 母より貰ひしペンダント落としたり
                            かしこにて 若きブランシェ伯と出逢ひけり
                            ブランシェ伯 ペンダントに
                            フォスティーヌと 
                            刻まれたるを見て 驚愕す
                            この館で父が暗殺した 貴婦人の娘(コ)の名なり
                            ブランシェ伯 父はぬれぎぬと信じたりき
                            されども 策略により父に罪をきせられたりや
                            貴婦人の娘(コ) 生きたりけることを確信し
                            真実を明かすことを 決意したりき
                            館でピアノ奏きし フォリーをみたブランシェ伯 
                            フォリーに ピアノを習ふことを勧めたり
                            フォリー 日頃の夢叶ひて
                            ブランシェ伯の元で 習ふこと決意したりき

                            ハプスブルク家の大公(国王) 演奏会を主催したりき
                            フォリー 出(イズ)ることに決まりたり
                            フォリーの 木蔭のワルツを聞きて
                            その美はしき 楽の音に
                            人々息を のみたり
                            大公 暗殺されたる愛人マリアを想起したりけり
                            人々も 十一年前にゐたりしマリアを想起したり
                            愛人マリアも 同じ木蔭のワルツをよく奏きたりき
                            大公 愛人マリアの娘(コ)なる
                            フォスティーヌと 直感したりけり
                            愛人マリアの 亡くなりし時より 
                            病ひがちになりし大公 心臓悪化して
                            娘フォスティーヌの名を呼びて 崩御したりき
                            フォリー 父君の大公と逢ひたしと思へども
                            時すでに 遅し
                            大公の母君 クリスティーナ夫人
                            フォリー 母マリアの部屋を 
                            覚えたること 知りて
                            実の孫であると 確信したりき

                            ブランシュ伯の 父のぬれぎぬ晴れたりけり
                            大公の正妻に 子なきゆゑ
                            フォリー フォスティーヌとして
                            ハプスブルク家の 王女となりにけり
                            ブランシュ伯 フォリーを愛したれども
                            断念し フォリーを見送りたりけり
                            すでに ハプスブルク家の後継は
                            血筋引くウォルフと 決まりたりけり
                            それゆゑ フォリーはウォルフの
                            妃殿下に 決まりたり
                            ウォルフ 人も羨む貴公子なり
                            ウォルフも フォスティーヌを望みたりけり
                            されども フォリー 
                            ブランシェ伯フレデリックと 別れし時
                            初めて フレデリックを
                            なくてはならぬ人と 悟りけり
                            フォリー 心揺れども
                            すでに 式典の準備始まりたり
                            ウィーンの 教会の鐘は 
                            婚礼の儀の 始まりを告げたりけり

                            婚礼の儀 始まりて
                            二人 ヴァージンロードを
                            粛々と 歩みたり
                            けたたましき馬の蹄(ヒズメ)聞こえたり
                            フレデリック 教会の前で馬より降り
                            扉を開けて フォリーと叫びたり
                            視よ フォリー 
                            フレデリックの元に 走り寄りて
                            二人 抱(イダ)き逢ひにけり
                            人々 ざはめきて
                            亡き大公の母君 クリスティーナ夫人
                            フォスティーヌに 戻ることを命じたり
                            フレデリック クリスティーナ夫人に跪(ヒザマズ)きて
                            国外追放の刑を 望みたり
                            また フォリーも伴に望まんや
                            愛する孫(フォリー)をみた クリスティーナ夫人沈黙す
                            そをみたるウォルフも 俯(ウツム)きたり
                            それより 数日たちて三日以内に
                            ウィーンより立ち去る命 出でたり
                            フレデリック 母に別れを告げて
                            二人 馬車にて 
                            ウィーンより 立ち去りにけり
                            丘の上より ウィーンの街見下ろしたり
                            二人 しっかり手を握りて
                            スイスの チューリッヒに向かへりや
                            二人の顔に安堵の情 みえたりけり

                            初めてみたる 館にて
                            瞳を閉じて ピアノ奏く
                            君の姿は 翼ある
                            天使の姿に みえにけり

                            眉から肩へ 金髪の
                            なびきたること 限りなく
                            真珠の如き 顔(カンバセ)は
                            古代のニンフに みえんかな

                            天に昇らん 楽の音よ
                            愛を語らう 恋人に
                            ドナウの河の せせらぎに
                            古きよき日の 幸ひよ

                            木蔭のワルツ 聞こえたる
                            華やかなりし 舞踏会
                            君の名をみて 確信す
                            父に着せらる ぬれぎぬを

                            次第につのる 想ひかな
                            抑ふることの 出来ぬまで
                            笑顔にみゆる 素直さと
                            ピアノの前の 濃やかさ

                            館に消えし 面影よ
                            無くてはならぬ 愛しさよ
                            君の憂へる 横顔が
                            吾を呼ぶ声 聞こえたり

                            君幸ひに せんが為
                            勇気を奮ひ 決断す
                            二度と君をぞ 離さぬや
                            永遠(トコシエ)の愛 誓ひたり

                            二人の想ひ 通じたり
                            伴に走りて 抱きしめん
                            二人はもはや ひとりなり
                            地の果てまでも 伴にあり


ジャック・デュフリ(1715-1789)

 フランスで高名であった18世紀のクラヴサン(チェンバロ)奏者である。フランソワ・クープランの古典的な奏法を受け継いでおり、初期の曲では、見分けがつかないほど似ている。在世中にクラヴサン曲集を第四巻まで出しており、人気の程がうかがえる。ここでは、クラヴサン第三巻と第四巻から、傑作を紹介したい。どれも香るような詩情を含んでいる。

メヌエットニ長調♪♪
フランスの伝統的な古典的で雅びな曲であり、 ジャック・デュフリが如何にフランソワ・クープランの奏法を受け継いでいることを認識出来る。二人のクラヴサン曲は区別がつかないほどであり、ドイツのベルリン楽派的な深遠な蔭りを持つ奏法とは異なっている。明朗典雅という言葉が似合う曲である。ジャック・デュフリのクラヴサン曲はメロディーの美しく詩情豊かなのも特徴の一つである。

少女画報より



                                初恋      島崎藤村

                            まだあげ初(ソ)めし 前髪の
                            林檎のもとに 見えしとき
                            前にさしたる 花櫛の
                            花ある君と 思ひけり

                            優しく白き 手をのべて
                            林檎を吾に 与へしは
                            薄紅の 秋の実に
                            人恋初めし 初めなり

                            吾が心なき ためいきの
                            その髪の毛に かかるとき
                            楽しき恋の 盃を
                            君が情けに 酌みしかな

                            林檎畑の 樹(コ)の下に
                            自ずからなる 細道は
                            誰(タ)がふみ初めし かたみとぞ
                            問ひ給ふこそ 恋しけれ


「ドゥ・ブロムブル」ニ短調
♪♪

ドゥ・ブロムブルとは人名らしい。この時代に流行ったポルトレであり、名称でその性格を表す一種の標題音楽である。短調であり切ない詩情が漂う傑作である。

「時の少年」 より           竹宮恵子



                              一言でよき

                            一言でよき 声かけよ
                            一時でよき みつめかし
                            一目でよきや 眺めかし
                            一度でよきや キス給へ

                            ただの遊びと 想へども
                            君の情熱 烈しくて
                            君の愛情 濃やかに
                            君の手管の 巧みにて

                            心に花の 咲きたりて
                            葡萄のつるの からまりて
                            薔薇の棘をも さわりたり
                            愛の奴隷に なりたりき

                            甘美な愛の 奴隷にて
                            君の待つ身の 苦しくて
                            君の手管に 縛られて
                            愛の歓び 求めんや

                            離れることの 虚しきや
                            一つしとねに 伴に寝て
                            愛の歓び 尽きずして
                            常に手をとり あゆみたし

                            ユピテル神よ 奪へかし
                            君の国へと 運べかし
                            愛する者の ひとつにて
                            愛の翼で 守られて

                            永遠(トワ)への愛を 誓ひてぞ
                            永遠の歓び 尽きずして
                            永遠の触れ合ひ 尽きずして
                            身も心をも 満たしたし


三美神ニ長調♪♪

如何にもフランス古典音楽らしい調和と雅びが一つになった名曲である。やはり仄かな詩情が漂っている。中野振一郎の演奏はフランス古典主義を知り尽くした理想的な演奏である。

三美神      グレイル


                                      三美神

                            ユピテル神と ニンフとの
                            間に出来た 三姉妹
                            ペガサス(の蹄)により 湧き出る
                            泉のもとに 佇めり

                            アテナみつけて 誉め讃へ
                            三美神とは なりにけり
                            泉の前に 衣脱ぎ
                            優雅な姿 みせにけり

                            二重(フタエ)笛吹く エオプロシュネ
                            性愛の神で 裸体なり
                            美は性愛を もたらせば
                            愛の根源 なりたりき

                            タレイア操(ミサオ)の 神ならば
                            純愛をもぞ もたらして
                            性的愛を 純化して
                            唯一の愛に 変へたりき

                            調和の神の アグライア
                            二つの愛を 調和させ
                            天の恵みを 頂いて
                            永遠の愛とぞ なしにける

                            竪琴持ちて 奏きたれば
                            笛の音色を 浄めたり
                            アポロの楽器 清らかに
                            天的愛に 高めんや


「ドゥ・デュルモン」イ短調♪♪

これはジャック・デュフリの第四巻からの作品で、右手でメロディーを奏き、左手で伴奏するという典型的な古典派の特徴を持っている。儚い悲しさのある曲である。

小鳥を嘆く少女  グルーズ


                               孤独

                          窓眺むれど 面影なく
                          花咲けれども 言葉なく
                          星まばたけど 手に取れじ

                          詩を詠むごとく クラヴィア奏き
                          ロマンの夢に 酔へれども
                          誰も知らじや 君の曲

                          恋に恋する 年ごろよ
                          花紅の かんばせは
                          花木もはじる 愛らしさ

                          林檎のごと はじらひて
                          み使いのごと ふくよかに
                          水仙のごと 清らなり

                          舞曲の調べ 遠くより
                          窓辺によりて 聞こゆれば
                          切なき想ひ 限りなし

                          瞳を閉じて キス想ひ
                          胸をはだけて 恋想ひ
                          鏡をみつめて 春想ふ

                          吾が愛しき ほととぎす
                          あゝなにゆゑに 死に給ふ
                          如何にぞ生きん この先を

                          神秘の鳥よ 天にゆき
                          青き鳥にぞ 姿変へ
                          導き給へ 幸ひに


フルート・ソナタ

前田りり子さんのバロック・フルート(横笛)でお送りします。前田リリ子さんはバロック・フルートの女王としてご活躍です。有田正広さんからバロック・フルートを学び、オランダに留学してクイケンに師事されました。ブルージュの国際古楽コンクールでフルート部門で第一位を取られました。鈴木雅明氏のバッハ・コレギウム・ジャパンのメンバーでもあります。フルートのオリジナル楽器の音色の美しさと暖かさが見事で、抒情的な演奏は抑揚が素晴らしく、洗練された完璧なフルートを楽しむことが出来ます。

名フルーティストといえば、ニコレやブラーフ、ハンス・マルティン・リンデ、フランス・ブルッヒェン、クイケンなど思い出すが、前田りり子さんの演奏は抒情性と音色の美しさが合致しており、ニコレの表現力とハンス・マルティン・リンデの透明な音色を一体にしたような演奏で、さらに全体的に洗練されていてほとんど完璧な演奏だと思う。ピアニストでいえば田部京子、クラヴサン(チェンバロ)では中野振一郎、ヴァイオリンでは五嶋みどりなどと同等の世界的なフルート・トラヴェルソの演奏家である。若いだけあって、今後の期待がどんどん膨らんでいく。






ルクレール 

ソナタ第4巻第7番♪♪
ルクレール(1697-1764)は18世紀フランス最大のヴァイオリン奏者である。フルート・ソナタも当時人気の楽曲であり幾多の曲を残している。ソナタ第4巻第7番は、緩急緩急の構成を持ち、フランス風の落ち着きを持ったソナタである。第一曲から第三曲までお送りします。

アドリーヌの肖像     フラゴナール


ボワモルティエ 

フルートとクラヴサンのためのソナタ第一番♪♪
ボワモルティエ(1689-1755)はフランスのテレマンのような作曲家であらゆるジャンルで名曲を残している。フルートの作品も多く、沢山のフルート・ソナタを作曲して出版した音楽家でもある。このフルート・ソナタは明快でロココスタイルを反映している美しい曲である。

忠節         グルーズ








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