メンデルスゾーン(Mendelssohn)

メンデルスゾーンの少年時代
 メンデルスゾーン(1809〜1847)は、ユダヤ人の富裕な銀行家の子息と生まれる。母親も、名門出の教養ある女性で、メンデルスゾーンは、人文主義的な教育と、音楽を幼い頃から学び、音楽は、少年時代から天才的な才能を発揮する。10代に、すでに10曲ぐらいの交響曲の試作をしている。彼の音楽教師ツェルターは、ワイマールの老境のゲーテと親交があり、少年メンデルスゾーンは、ゲーテの前でピアノを弾くという栄光を味わうことが出来た。16歳の時にパリを訪れ、若きリストの演奏やロッシーニやマイヤーベーアなどの初期ロマン派のオペラを見ている。この多感な少年が、この時代のロマン主義の影響を受けないはずがない。

メンデルスゾーンは、17歳の時、シェイクスピアの「真夏の夜の夢」を読んで感動し、即興的に序曲を作曲する。この曲こそ、メンデルスゾーンのロマン派としての作曲家の始まりであった。

シェークスピアとロマン主義

 メンデルスゾーンが、シェイクスピアに関心をもったということは、彼の精神がロマン主義者であったことを証明している。シェイクスピアこそロマン主義者のバイブルであったからである。17.8世紀は、古典主義の時代で、何よりも、古代ギリシア・ローマの文芸が尊重された。古典主義者のバイブルは、古代ローマの詩人、ヴェルギリウス、ホラチウス、オヴィディウスの作品であり、特にオヴィディウス「転身物語」は、古代ギリシア・ローマの神話の集大成で、ルネサンスから、18世紀に至るまで絶大な影響を与えた。例えば、ヘンデルやモーツアルトのオペラの台本は、ほとんど全て、イタリア語の古代ギリシアやローマの逸話を基にしている。ルネサンスの北欧の作家シェイクスピアはほとんど顧みられることはなかった。

ところが、18世紀の終わり頃から、イギリスで、シャイクスピアの再評価が興ってくる。イギリスの詩人コールリッジは、シェイクスピア魅力をヨーロッパの各地で説いて回り、ドイツでは、ヘルダーが、熱心なシェィクスピアの信奉者で、若きゲーテは、その影響であの有名な「若きウェルテル悩み」を発表する。18世紀後半にドイツで起きた若きゲーテやシラーによるドイツ語による情熱的な文学運動を「シュトルム・ウント・ドランク」(疾風怒濤)とよんでいる。この運動は、シェイクスピアの興隆と伴ってロマン主義運動に大きく発展していく。

では、ロマン主義者は、シェイクスピアの何に惹かれたのか。シェイクスピアは、人間の愛や苦悩や葛藤の心理を、ドラマチックに表現した。また、シェイクスピアは、北欧の伝説的な妖精や神秘的な物語を各所に散りばめている。ドラマチックな物語に惹かれ、ゲルマンの神秘主義に惹かれたロマン主義者にとって、シェークスピアは、まさに神のごとき存在であった。このようにして、シェイクスピアはロマン派のバイブルになっていくのである。

「真夏の夜の夢」序曲             


 半音階的な分散和音で始まるが、これが、見事で、神秘的な妖精の国へ我々を誘ってくれる。ヴァイオリンの擦れるような音が続くが、これは、妖精の羽の羽ばたく音である。ドラマチックなオーケストラになるが、やがて「ロマン派の風」が吹いている濃厚な弦楽合奏になる。そして、妖精が飛び跳ねるようなダイナミックな音楽になる。展開部になり、以前の様々な主題が現れては消え、最後にあの神秘的な分散和音で曲を終わる。この序曲は、妖精の世界を見事に表したロマン派音楽の傑作である。

図は、シェイクスピアに出て来そうな悪戯好きな夜の妖精である。あの神秘的な分散和音自体が夜の妖精の世界に誘ってくれる。
「真夏の夜の夢」序曲♪♪をお送りします。

小澤征爾と劇音楽

 メンデルスゾーンは、プロイセン国王の要請で、「真夏の夜の夢」の劇場音楽を後に作曲している。その劇場音楽を、小澤征爾は、吉永小百合をセリフのナレーションに起用して、日本語で見事に甦らせている。このCDを聞くと、小澤征爾の演出は見事に成功しており、シェイクスピアのセリフと音楽がいかに合っているかが実感として分かる。 

私の小澤征爾のレコードを見てみると、R・シュトラウスの「英雄の生涯」、マーラーの「1千人の交響曲」、ベルリオーズの「ロミオとジュリエット」、ストラヴィンスキーの「火の鳥全曲」などであるが、全て、ドラマチックな作品ばかりである。なぜか、ブラームスやブルックナー、ハイドンといった瞑想型の作品のレコードは余り見かけたことがないような気がする。

小澤征爾にとってオペラは、たぶん得意なジャンルではないかと思う。こうしてみると、小澤征爾が、あの伝統あるウィーン歌劇場の音楽監督に抜擢されたというのは、日本のクラシック界にとっては、最高の栄誉であるが、うなずける気がする。オペラファンならなおのことかも知れない。今後の活躍を心より期待したい。


交響曲第3番「スコットランド」

 メンデルスゾーンが、19歳の時にスコットランドに旅行するが、その時の印象がこの交響曲をつくるきっかけになっている。完成されるのはずっと後のことであるが、メンデルスゾーンは、旅行すると丹念なスケッチと日記を残しており、後にまで、印象は鮮明に残っていたと思われる。

スコットランドの荒涼とした風景、そして、彼に一番大きな印象を与えたのは、エディンバラのスチュアート王家の礼拝堂であった。ここで、かつてメアリー女王の愛人が、家臣の妬みで暗殺されるという事件があった。手紙の中で、メンデルスゾーンは、ここを訪れたとき、交響曲の出だしの旋律を思いついたと記している。

     棲み家   ©JUNKO KITANO

第1楽章♪♪

メンデルスゾーンは、女王メアリーの恋愛に想いを馳せながらこの曲を書いている。悲恋であっても、哀愁を秘めた愛の感情をロマン派の作曲家らしく、センチメンタルにではなく、情熱的に時には激しく描いている。

メンデルスゾーンは女王メアリーが住み愛した宮殿にまでいって、女王を追憶している。JUNKO KITANOの「棲み家」は、そのまま、女王の面影に想えないだろうか。何となく薄暗い霧がかかったような情景も、曲の雰囲気に似ている。

哀愁を秘めたメロディーから、情熱的で上昇的なドラマチックな音楽に発展していく。「ロマン派の風」が吹いている。最後は、嵐のような激しい音楽になるが、あの美しいメロディーが顔をのぞかせる。愛と悲劇が共に描かれている。

第2楽章 スコットランドのバッグパイプの音を連想させる管楽器の音で始まる。一転して、スコットランドのお祭りを思わせる明るく賑やかな楽章である。 

第3楽章 再び、女王メアリーの追憶になる。そして、葬送行進曲になる。愛人の死を悼んで。間に女王メアリーの追憶が繰り返される。追憶から情熱的な「ロマン派の風」にまで高まり曲を終わる。

第4楽章 一転して、メンデルゾーンの得意技である妖精の舞うような軽快な音楽になる。バレー音楽にしても良さそうである。最後は賛歌である。この曲は、イギリスの王室に捧げられたため、王室を賛美したのであろうか。それとも、信仰の厚かったメンデルスゾーンの神への祈りであろうか。

交響曲第4番「イタリア」

 メンデルスゾーンは、20歳の時、今度は南欧のイタリアに旅行する。イタリアの光に満ちた明るさ、古代ローマの遺跡、絵画や博物館や教会がメンデルスゾーンに感興を与えて、ひときわ明るい交響曲を生み出すインスピレーションを与えた。作品の完成はずっと後になり、作品番号では、最後の交響曲になっている。

第1楽章♪♪
光がさんさんと降り注ぐような明るい楽章である。ナポリで、この交響曲の筆をとったことが記されているが、まさに、南国の港から地中海を見たときの感動のようなものが感じられる。「スコットランド」の北欧的な第1楽章とは対照的である。展開部で、妖精が踊るようなリズミカルな部分があり、生き生きとした印象を与えている。そのまま、フィナーレに向かう。

ナポリ港



第2楽章 低弦の通奏低音支えられて、古典的なメロディーが流れるが、古代遺跡を散策しているような情景を感じさせる。中間部に、「ロマン派の風」が吹くような美しい音楽の時めきがある。

第3楽章♪♪
流れるようなメロディーの本当に美しい楽章である。愛する二人を祝福しているような楽章である。「ロマン派の風」が頬を撫でるように吹いている。しかも、かつて、二人の幸福にドラマがあったような追憶を感じさせながら。

            永遠の愛

          君のシルエット 眩しく
          海原と 紺碧の空
          頬をなでる 潮風よ
          船は 未知の世界へ運ばん
          何をか 二人を離さんや(何か二人を引き離すことがあるだろうか)
          限りなき水平線
          新たなるランド
          伴に 歩み
          伴に 生み
          伴に 築かんや
          永遠(トワ)の愛は 今ここにあり



第4楽章 ナポリの民族舞踊サルタレロの楽章。一転して、夜の妖精の踊りを思わせる。このように軽快で踊るような音楽は、メンデルスゾーンの最大の特長である。


ヴァイオリン協奏曲 vn.アナスタシア

 メンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲」は、古今の名曲の一つである。後年の作品で浪漫派的な傾向が濃厚に出ている。第一楽章♪♪の第1主題が出ると、既にそこにドラマチックな恋愛を思ってしまう。しかもシチュエーションは舞踏会のような気がする。若い男女の時めきが感じられる。同様なシチュエーションで書かれたシュトルムの美しい詩があるので載せておきます。

アナスタシア

1994年にチャイコフスキー国際コンクールヴァイオリン部門最高位受賞した新進気鋭のヴァイオリニストである。2000年から倉敷作陽音楽大学のモスクワ音楽院コース特任教授として招かれている。今世紀になりロシアやフランスなどの名曲を積極的にレコーディングしている。協奏曲としてはこれが初めてのレコーディングであるが、独奏楽器ヴァイオリンの音色の明確な録音で、彼女の透明かつロマンチックな演奏を満喫することが出来る。

ヴァイオリン協奏曲というと、大きな演奏会場のフルオーケストラの中でヴァイオリンの音色が沈んでしまいがちであるが、このレコーディングでは当時の初演の頃の小ホールで、ヴァイオリンとオーケストラの関係が巧く録音されていると思う。ちなみに彼女のヴァイオリンは、ロシア国家コレクションから特別貸与されたストラディヴァリである。



                           ヒヤシンス       シュトルム

                         かしこの楽の音 聞こゆれば
                         想ひつもりて 恋となる
                         木々は放つなり まどろみたる甘き香を
                         君を 想ふことなからんや
                         永遠(トワ)に 眠りたし
                         されど君は 踊らざるを得ず

                         踊りくるひて 休むいとまもなし
                         灯火は燃へ ヴィオリンはかん高く
                         踊る環 閉じたり開きたりすれど
                         みな顔熱きを 君のみは青しか

                         されど君は 踊らざるを得ず
                         男の腕(カイナ) 交はされんとしても
                         美しくもしなやかなる 君の姿見えん
                         白き服着て 飛びゆかん

                         夜の香り 甘やかに
                         夢見るごとく 木々の花香りたり
                         何ぞ君を 想ふことなからんや
                         永遠に 眠りたし
                         されど君は 踊らざるを得ず

第二楽章♪♪
舞踏会の庭の花園が見える。

                          一目みしとき

                         白きドレスの 似合ふ君
                         み使ひのごと まるき頬
                         羽毛のごとき 金髪よ

                         ひときは著(シル)き 姿かな
                         心にひびく ヴィオロンの
                         妙なる調べ 熱くして

                         庭に歩めば 花園の
                         甘き香りに 誘われて
                         誰の姿を 想はんや

                         一目みしとき 憧れぬ
                         月の如くに 奥ゆかし
                         真珠(シラタマ)のごと 美はしき

                         朧にみゆる 面影よ
                         霞を袖に 身にまとふ
                         春の女神の 佐保姫か

                         深くも遠き ほとりより
                         出できに給ふ 暁星(アカボシ)よ
                         消ゆこそなかれ はじらひて

                         慕ひてやまぬ 吾が心
                         一目みしとき 憧れぬ
                         愛す想ひは 永遠(トワ)なれば
                         たとひ君さへ 知らねども



第3楽章
一転して妖精たちの踊りになる。


合唱宗教曲モテット

 ユダヤー系の富裕な銀行家であったメンデルスゾーンの父親は、啓蒙主義的な教養の持ち主であり、メンデルゾーンにプロテスタントの洗礼を受けさせた。彼の音楽教師であり、ベルリンのジングアカデミーの主催者であったツェルターから、バッハ、ヘンデルの合唱曲、さらにはイタリアルネサンスのパレストリーナなどのミサを学び、宗教曲の素養を培っていった。また彼自身も敬虔なクリスチャンであり、パリを訪れて同じユダヤ系のマイヤーベーアのオペラをみて、興味本位の内容に眉をしかめている。二十歳の時、バッハのマタイ受難曲をジングアカデミーを率いて復活演奏している。

メンデルスゾーンのアカペラ(器楽伴奏のない)のモテットを聞くと、明快で美しいメロディーはパレストリーナを想わせ、天上に抜けていくような甘美さはハイドンのミサ曲に似ている。ルター派のコラールの影響もあるが、バッハのスタイルではなく、彼自身のロマンチックで明快なスタイルに則っている。ここで使用しているディスクは聖歌隊による少年合唱である。


「主を頌め讃へよ」♪♪
メンデルスゾーンは、ローマ滞在中にある女子修道院に通りがかり、その歌声の美しさに感銘して、女性(少年)合唱のために作曲した。ラテン語により歌われ、その美しさは言葉では言い尽くせないくらいである。

グランドゥカの聖母子  ラファエロ

ラファエロ初期の柔らかさのある聖母子像の傑作である。ラファエロは優しさと気品あるこの作品により、聖母を永遠にした。


                           御母マリア

                         御母(オンハハ)マリア こなたにて
                         御子(ミコ)を抱(イダ)きて 慈しみ
                         愛し給へり 諸人(モロビト)を

                         無原罪にて ましまして
                         御子と伴にて 苦しみて
                         戴冠されぬ 天に於き

                         月のごとくに 奥ゆかし
                         水仙のごと 可憐なり
                         天使のごとく 優しきや

                         古き時より 現れて
                         苦しむ者を いたはりて
                         救ひ給へり 祈る者

                         慈悲深きこと 限りなく
                         信じたる者 これまでに
                         救はれぬ者 誰もなし

                         これによりてや み前にて
                         はせ来たりてぞ 祈らんや
                         赦されぬ罪 何もなし

                         踊り喜べ 諸人よ
                         汝はすでに 救はれき
                         手に棕櫚(シュロ)もちて 歩まんや
                         天国の門 近づきぬ

「来たりませ、主よ」♪♪
「主よ頌め讃へよ」と同時に作曲された女性(少年)合唱のための曲であり、ラテン語の歌詞よりクリスマスを迎える時に歌われたものであろう。後半の部分は、幼子キリストを賛美する天使の合唱のようでもある。

世の光     フランソワ・ブーシェ

救世主イエスは「世の光」とも言われた。ブーシェは馬小屋で生まれた光景を描いているが、聖家族や天使の愛らしさは格別である。天上が開いて天使がみつめているのもブーシェらしい。


「聖なるかな」「主は御使ひに命じて」♪♪
「聖なるかな」は、ドイツ語ミサ曲の一部である。パレストリーナのミサの出だしを想わせる。次第に浪漫派風になっていく。「主は御使ひに命じて」は聖書の詩編から採られておりドイツ語で歌われる。やはり出だしはパレストリーナ風であるが、次第に民謡風になっていく。

マグニフィカトの聖母   ボッティチェリ


ボッティチェリの最も甘美な聖母子像である。マグニフィカトとは、受胎告知を受けた聖母マリアが、それを喜んで神を賛美して詠んだ詩のことである。その詩を書物に書いている光景が描かれている。周りに天使が取り囲んでいる。


無言歌集

            田部京子      

 無言歌はメンデルスゾーンの好んだピアノ曲である。メンデルスゾーンは、若い頃から晩年に至るまでに、主なもので作品19から作品67まで計8巻の無言歌集を残している。作品19の無言歌が作曲されたのが1930年であり、ショパンがピアノ協奏曲をワルシャワで発表した年でもある。音楽におけるロマン主義の成熟しつつあるころであった。浪漫派的なピアノ曲では、シューベルトの即興曲やショパンの夜想曲などと似た雰囲気をもっている。

ショパンの夜想曲は、高度なテクニックを要し、しかも晩年になるほど短調が多くなり、シリアスなムードも多くなる。それに対してメンデルスゾーンの無言歌は、曲の規模も小さく、簡潔に書かれているが、よく聞くとロマンチシズムに溢れていて美しい曲が多い。また、短調の曲もあるがあまり深刻にならず、歌をピアノで歌うような優雅な曲が多い。それは、そのままフランスの印象派の名画の世界と似ていることに最近気がついた。

ここでは、メンデスゾーンの無言歌集から珠玉の名作を六曲取り上げて、その世界を眺めてみたい。無言歌はメンデルスゾーンの趣味を反映して、優美で清々しい曲が多く、メロディーも美しい。ピアノは田部京子のアルバムで、田部京子の名を一躍天才として知らしめた無言歌集である。メンデスゾーンの無言歌集では、シフとかバレンボイムなどの知られた演奏があるが、そのロマンチシズムにおいて、田部京子には到底かなわない。メンデルスゾーンの無言歌は簡潔に書かれているので、並のピアニストが奏くと平凡に聞こえてしまう。田部京子は、簡潔な音符の中に限りない浪漫をみいだしている。

作品19の1ホ長調 甘い思い出♪♪

美しい曲であり、穏やかで甘美なロマンチシズムに溢れている。

イレーヌ嬢   ルノアール

言うまでもなく、ルノアールの最も美しい作品で、富裕な銀行家の娘の肖像であるが、古典絵画も及ばないほど丁寧に描かれており、清純な少女の面影を如何なく表している。前景の少女に光りが溢れている。その優しさは筆舌に尽くすことが出来ないほどである。

                           イレーヌ嬢

                         富裕な家の 令嬢よ
                         緑の中に 佇みて
                         清らな光 身に浴びて
                         妙なる衣 光たり

                         乙女のころに あらねども
                         優しき人を 夢にみん
                         深く澄みたる まなざしに
                         願ふ想ひよ 限りなし

                         亜麻色の髪 濃やかに
                         貴(トウト)き御顔(ミカオ) 美はしく
                         綿(ワタ)のごとく 柔らかき
                         白く透きたる 衣手(コロモデ)よ

                         天より来たる み使いよ
                         聖母を信じる 乙女児(オトメゴ)よ
                         清らな願ひ 常にして
                         叶へざること なからんや

                         白馬に乗りて 必ずや
                         汝のもとに 現れん
                         憧れたりし かの人の(が)
                         ひざまずきてぞ 手を取らん


作品19の2イ短調 後悔♪♪

儚いような悲しい印象が漂う名曲である。

小鳥を嘆く少女  グルーズ


グールズは、18世紀の半ば頃に活躍したフランスの画家である。少女の像を得意とし、奥ゆかしい少女の姿は、現代人がみても心をそそられる。

                              孤独

                          窓眺むれど 面影なく
                          花咲けれども 言葉なく
                          星まばたけど 手に取れじ

                          詩を詠むごとく ピアノ奏き
                          ロマンの夢に 酔へれども
                          誰も知らじや 君の曲

                          恋に恋する 年ごろよ
                          花紅の かんばせは
                          花木もはじる 愛らしさ

                          林檎のごと はじらひて
                          み使いのごと ふくよかに
                          水仙のごと 清らなり

                          舞曲の調べ 遠くより
                          窓辺によりて 聞こゆれば
                          切なき想ひ 限りなし

                          瞳を閉じて キス想ひ
                          胸をはだけて 恋想ひ
                          鏡をみつめて 春想ふ

                          吾が愛しき ほととぎす
                          あゝなにゆゑに 死に給ふ
                          如何にぞ生きん この先を

                          神秘の鳥よ 天にゆき
                          青き鳥にぞ 姿変へ
                          導き給へ 幸ひに


作品19の4 ないしょ話♪♪

夢見るような出だしで始まる。乙女の感傷と祈りを想わせる。

アンリオ夫人   ルノアール



若きルノアールの描く女性は清純さが目立つ。アンリオ夫人もそうである。可愛らしげな顔と最新式のドレスを身につけてみえる豊かな胸とは一体になって夫人の魅力を表している。

                           アンリオ夫人

                         社交界にて 名をはせた
                         汝をしらぬ 人ぞなき
                         数ある人の 貴公子の
                         いったひ誰ぞ 射止めしや

                         少女のごと 愛らしき
                         清らなりける 顔(カンバセ)の
                         白きドレスの 輝きて
                         み使ひのごと 面影よ

                         ニューモデルなる ドレス着て
                         豊かな胸の あらはにて
                         深き谷間に 咲く花や
                         女の香り 匂ひたり

                         愛しき人の 現れて
                         ひざまずきてぞ 手を取らん
                         夢幻の 日を過ごし
                         天国のごと 楽しみき

                         美人薄命 世に言へど
                         ユピテル神に 愛されて
                         天の御国に 往き給ふ
                         花の女神に なりにけり
                         絵に描(カ)きたる 姿にぞ
                         永遠(トワ)の姿を 留(トド)めんや


作品53の1変イ長調 浜辺で♪♪

閑かな雰囲気が占めているが、ロマンチックな感情が幾つか盛り上がる明朗な曲である。

テラスにて   ルノアール


セーヌの河畔を背景として、ルノアールの好みの女優の卵であるジャンヌ・ダルローが子供と伴に佇んでいる。モデルと言い色彩と言いルノアールの傑作である。

                           テラスにて

                         セーヌの河畔 燦(キラ)めきて
                         明るきテラス 佇みぬ
                         女優の卵の 乙女子よ
                         永遠(トワ)の姿ぞ 輝きぬ

                         天使のごとき 顔(カンバセ)よ
                         朧にみゆる まなざしよ
                         優しく白き 手をかさね
                         赤き帽子の 似合ふかな

                         午後の紅茶の ひとときに
                         母子(ハハコ)と伴に 描かれぬ
                         緑の木々の 涼しげに
                         子供の花の 著(シル)きかな

                         画家に好かれし パリジェンヌ
                         そのあまりにも 美はしき
                         遙かに眺む 顔(カンバセ)は
                         誰ぞ知らんや その心

                         とく(早く)花形の 華麗なる
                         女優となりて 知られけり
                         心の清き パリジェンヌ
                         汝の幸せ 極まりぬ
                         モデルとなりて 美はしさ
                         永遠(トワ)に留(トド)めん 絵画にて

作品53の2 浮き雲♪♪

風が頬をなでるような出だしで始まる。空はよく晴れているが幾つかの雲が眩しくみえている。

日傘をさす女   モネ

モネの愛妻のカミーユと子供のジャンが野原で佇んでいる風景は天国のようである。涼しい風が吹いている。カミーユは32歳という若さで亡くなってしまう。

                           日傘をさす女

                         頬をなでたる そよ風よ
                         明るき空の 浮き雲よ
                         野原に咲ける 夏草よ

                         野に佇める カミーユよ
                         妻子(ツマコ)の姿の 愛しさよ
                         天国のごと 景色かな

                         立ちたる妻は み使ひか
                         髪も衣も たなびきて
                         天衣無縫の 姿かな

                         画家に嫁ぎし カミーユよ
                         誰にも比さぬ モデルかな
                         自由自在に (姿)変はりたり

                         窓辺佇む 乙女かな
                         和服の似合ふ 美人かな
                         日傘もちたる み使ひよ

                         あゝ何故に 往き給ふ
                         心の宝 カミーユよ
                         若き吾をも 置き去りて

                         あまりに早き 命かな
                         暁星(アカボシ)のごと 儚しや
                         花の命は 短しか

                         ユピテル神に 愛されて
                         往き給ひしや 天の国
                         翼をもちて 生まれんや

                         汝の子供 見守りて
                         心(私の心)の中に ましまして
                         天の国へと 導びけよ

作品53の3 胸騒ぎ♪♪

左手の激しい動きは、馬車が走っているようである。右手のメロディーは、切なさを感じさせる。

風と木の詩   ©竹宮恵子


                            離別

                         馬車は走りて 去りゆかん
                         愛しき人よ 何故(ナゼ)ゆかん
                         吾ひとりのみ 置き去りて

                         広き屋敷は あると言へ
                         一人ありても 如何(イカン)せん
                         広き門扉も 格子なり

                         心は淋し 君なくば
                         慰めもなし 君なくば
                         会話も出来ず 君なくば

                         甘きとろける キスもなく
                         翼のはえる 愛撫なし
                         身体(カラダ)の求む 歓喜なし

                         窓眺れど 人気なく
                         庭歩けども 人もなく
                         郵便馬車の ベルもなし

                         朝(アシタ)の花も 眠らんや
                         友の小川も 誘はんや
                         夜空の星も 涙せん

                         姿優しき マリア様
                         辛き想ひを 顧みて
                         心の救ひ 与へんや

                         花壇に立てる アモールよ
                         心の願ひ 聞きとどけ
                         吾らの恋を 叶へかし

                         守護の天使よ 聞き入れて
                         赤き糸にて 結びつけ
                         再び伴に 逢はせかし


メンデスゾーンの室内楽

弦楽八重奏曲

 メンデルスゾーンの室内楽では、最も知られている作品である。だが十六歳の作品であることを知っている人がどれだけいるであろうか。彼の早熟を示している。しかし、作品は盛期の作品と何ら劣らない。四楽章で30分近くからなる堂々とした作品である。しかも、第一楽章は14分にもなる充実した出来である。特に第一楽章♪♪は、浪漫性の濃厚な美しい楽章で、「浪漫派の風」が吹いている素晴らしい楽章である。翌年にはあの有名な「真夏の夜の夢序曲」が作曲されている。

メンデルスゾーンの室内楽は、メローディラインが美しく、爽やかで明朗である。構えて聞かなければいけないような難解な曲はほとんど無いようだ。他楽章も優れているが、ここでは長くなるので割愛しておく。特に第二楽章は、メラコリックな楽章だが、余り感傷性はなく、如何にも浪漫派らしい音楽性の高い楽章である。第三、第四楽章は、メンデルスゾーンによくある妖精が跳ねるような勢いのある楽章である。

ジョージィ      ©いがらしゆみこ


                              限りなき夢想

                            想い初めたる ジョージィよ
                            愁い秘めたる まなこにて
                            優しき瞳 限りなく
                            夢みる想ひ 天の川

                            ロエルを慕ひて 三千里
                            ロンドンの街 ゆけれども
                            行方も知らず はかなしや
                            深き想ひに 沈みしや

                            草木の湖畔で 逢ひし日に
                            時めきたりし 愛しの君
                            初恋の人の 甘きキス
                            天にも昇る 歓びよ

                            想ふ心は 千々乱れ
                            花咲きみだる ごとくなり
                            馳せる夢想の 限りなく
                            身も心をも 燃えるごと

                            たとへ恋に身を やつしても
                            貴方と伴なら 幸ひなり
                            すべて捨てても 悔ひなきや
                            愛の歓びに かなはずや

                            夢に佇む 愛しの君
                            心慕ひて 巡り逢ひ
                            貴方の胸に 抱(イダ)かれて
                            愛の願望 叶へかし


ヴァイオリン・ソナタヘ短調

 メンデルスゾーンは、姉ファニーと伴に、ベルリン・ジングアカデミーの高名なツェルターに作曲や声楽の勉強を、9才の頃から始めていた。このヴァイオリン・ソナタは、メンデルスゾーン14歳の時の作品である。彼の中年のころのヘ長調のヴァイオリン・ソナタよりも抒情性という点では遥かに優れている。十代のメンデルスゾーンは、四才年上の音楽的な才能のあったファニーの助言を参考にしながら作曲したと言われている。

この姉弟は音楽的な一卵性双生児と言ってもよいほど音楽性と精神を共有していた。メンデルスゾーンの音楽が早熟で、温厚なのも姉の影響があったのかもしれない。ファニーも音楽家を希望していたが、当時の上流階級の習わしで父から止められ、やはり同じ芸術的な素養をもつ画家と結婚した。夫はファニーの最大の理解者であり、ファニーに歌曲の楽譜を出版することを勧め、ついにファニーは作曲家として世に出ることになった。彼女の歌曲はたちどころに有名になり、あちこちから作曲の依頼が殺到して作曲に専念していたが、41歳の時、リハーサル中に突然脳卒中で倒れ帰らぬ人になった。メンデルスゾーンも衝撃をうけ、わずか半年後同じ脳卒中で倒れ、ファニーを追いかけるようにして往ってしまった。

19世紀の作曲家には、このような女性と音楽的に密接な関係をもった作曲家が多いことはよく知られている。ベートーヴェンと不滅の恋人ヨゼフィーネ、シューマンとクララ、ブラームスと後年のクララ、ショパンとジョルジュ・サンド、リストとウィトゲンシュタイン伯爵夫人、ワーグナーとコジマ等数え上げればきりがないほどである。しかし、メンデルスゾーンの姉ファニーは天才的な音楽の素養があり、メンデルスゾーンの音楽の中に彼女の才能が溶け込んでたという点では、特筆に値すると思う。

ヘ短調のヴァイオリン・ソナタの第一楽章は、アダージョの荘重な出だしが印象的である。その後、短調ではあるが抒情的な美しいピアノで始まり、ヴァイオリンは後についていくように流れるようなメロディーを奏でていく。

第二楽章アダージョ♪♪
可憐な出だしで始まる清らかで美しい楽章である。しかし、楽想は進んで行き、愁いのような表情をみせる。しかし、深刻になることなく、可憐な出だしの主題に戻って、もう一度繰り返し曲を終了する。

風の妖精 ©JUNKO KITANO 


                              彼の人よ

                            心に秘めた 憧れを
                            誰が知るらん 乙女児よ
                            月の如くに 奥ゆかし
                            天使のごと 慎ましき

                            風は清(サヤ)かに 想へども
                            花紅に 想へども
                            空は碧しと 想へども
                            心の愁ひを 如何せん

                            彼の人想ふ 憧れは
                            ますます髪は たなびきて
                            心の翼 羽ばたきて
                            み手から花の 咲く如し

                            空飛ぶ鳥よ 伝へかし
                            友の小川よ ささやきて
                            蝶よ羽ばたき 伝へかし
                            胸に秘めたる 吾が想ひ

                            瞳閉じれば 彼の人よ
                            青き薔薇もち 佇まん
                            遠き御国(ミクニ)に 行きたりや
                            花の都に 去りにけり

                            窓辺に寄りて 佇めば
                            舞曲の調べ 流れたり
                            華やかなりし 舞踏会
                            昨日の如く 想へんや

                            一目みつめて 憧れん
                            君も愛しく みつめんや
                            み手を交わして 踊るれば
                            優しき言葉 給はんや

                            心熱くして 燃え上がり
                            頬赤くして 時めかん
                            恋の虜(トリコ)に なりたれば
                            瞳閉じれば 夢みんや

                            愛の化身に なりぬれば
                            花壇に立てる アモールに
                            恋の成就を 祈らんや
                            日々の慣(ナラ)ひに なりにけり

                            白馬に乗りて 来たりませ
                            君の言葉を 信じんや
                            男に二言の 無きゆゑに
                            必ず来たると 給ひけり

                            赤きドレス着 薔薇持ちて
                            ましませる時 待ちたりや
                            イェズスの君の 如くにて
                            美はしきこと 限りなし


第三楽章アレグロ♪♪
ソナタ形式である。メンデスゾーンの妖精が舞うような軽快な楽章である。何かをしきりに訴えていいるような面持ちがある。無駄のない優れたアレグロである。

風の妖精     ©JUNKO KITANO


                              空よ曇らね

                            君を待ちたる 永き日よ
                            夜も寝られぬ 幾日も
                            数へきれなく ありたりや
                            何度迎へん 眩しき陽(ヒ)

                            明日は貴方の まします日
                            薔薇も微笑み 迎へんや
                            風も喜び 頬撫でん
                            星も瞬き 輝やかん

                            妖精の如く 氷上の
                            煌めく如く 舞ひにけり
                            舞曲に乗りて 踊るごと
                            ステップ踏みて ジャンプせん

                            花の妖精 伴にして
                            優雅な舞を 踊らんや
                            髪の靡(ナビ)きて 裳裾揺れ
                            天にも昇る 気持せん

                            心熱くして 高揚す
                            林檎の如く 頬紅し
                            若き身体(カラダ)も 火照(ホテ)りたり
                            白き素肌も 濡れにけり

                            されども何故か 不安なり
                            永き月日が 君をして
                            心変わりを したらんや
                            鳥の声にも 驚きぬ

                            不吉に鳴かね 小鳥たち
                            友の木立よ ざわめかね
                            空を占めるな 叢雲(ムラクモ)よ
                            明るき月よ 隠るるな

                            愛しき君よ エルンスト
                            言葉に二言は なきなりと
                            迎へ来ること 約束し
                            こなたを向きて 去りにけり

                            信じたしとは 思へども
                            何故か不安に なりたりや
                            イェズスの君の 如くにて
                            貴方の誠 信じんや



二台のピアノと管弦楽のための協奏曲ホ長調

メンデルスゾーンが少年時代に過ごしたベルリンの邸宅は、ヘーゲルやフンボルトなど、当代屈指の名士の集まるサロンとなっており、コンサートなども行われていた。この協奏曲は、1824年19歳のファニーと15歳のメンデルスゾーンによって演奏された曲である。若々しい爽やかな協奏曲で、姉ファニーとメンデルスゾーンの愛の結晶というべき作品だと思う。第一楽章は、特に出だしが爽やかで素晴らしい。ピアノの展開は情熱的で浪漫派的な風が吹いている。第二楽章は、ロマンチックな抒情性を持った楽章である。第三章も、みずみずしいアレグロの楽章である。第一楽章・第二楽章♪♪をお聞き下さい。

コリンヌとリシャール    ©細川智栄子


第一部

                              コリンヌとアラン

                            ころは フランス
                            十九世紀末の 古き良き時代
                            エッフェル塔の 立ち
                            着飾った 貴婦人の
                            恋と浪漫 求めて
                            巴里(パリ)の街を 彩(イロド)りたりしころ

                            フランスの西部 ブリュターニュ半島の
                            ある孤児院で 育ちたるコリンヌよ
                            明るきこと 妖精の如し
                            美はしきこと 天使の如し
                            正義感の つよけれど
                            常に子供たちの 姉の如く
                            優しきこと 聖母の如し

                            ある日 館(ヤカタ)の馬車が近づきて
                            ひかれたる 寸前なり
                            コリンヌ 抗議したれば
                            その後、館から呼び出しあり
                            孤児院への 寄付を
                            一切やめるとの 返事あり
                            先日の 馬車に乗りたる 
                            リシャールも ゐたり
                            コリンヌ リシャールに想ひ余りて
                            頬を たたきたり
                            されども 視よ! 
                            リシャールは 盲目なり
                            馬車の 暴走も  
                            実は悪意 無かりけり
                            コリンヌ ショックを受け
                            心から 悔ひたりけり

                            ある雪の 積もりたる日
                            コリンヌ リシャールの母との
                            会話を 聞きたり
                            母の 冷酷な態度に
                            優しき言葉の 一つもなかりけり
                            リシャール 雪の中に走り去り
                            雪に姿を 消さんとす
                            コリンヌ 追ひかけて
                            リシャールの 背中抱(イダ)きたり
                            されども リシャール反発して
                            コリンヌを 信用せず

                            それから 幾度も
                            コリンヌ リシャールの
                            窓辺に 優しき声をかけたりき
                            ある時 突然に
                            リシャール コリンヌに 
                            愛を 告白したりけり

                            優しき言葉 願ひても
                            誰ひとりして かけざらん
                            母と言へども 父さへも
                            愛の言葉も なかりけり

                            母(自分を)生みたれど 盲目(メクラ)とて
                            父(自分を)疎(ウト)んじて 避けにけり
                            母もまた(自分から)去り 社交界に
                            うつつをぬかし (自分を)顧みず

                            愛求めぬ者 誰あらん
                            心渇きて 如何せん
                            命の水を 求めても
                            盲目(メクラ)に誰か 与へんや

                            天使のごとき コリンヌよ
                            幾度も窓辺に 声かけん
                            窓辺に聞ゆ セレナード
                            君の真(マコト)を 信じたり

                            暗き心に 一筋の
                            炎の明かり 灯りたり
                            凍(イ)てつく心 融けたりて
                            心の春よ 来たれかし

                            春の女神の フローラよ
                            二人に恵み 与へかし
                            命の水よ 花咲かせ
                            永遠(トワ)の幸ひ 与へかし

                            巴里の 実業家アラン 
                            孤児院の 援助すると伴に
                            美貌で素朴な コリンヌに
                            婚約 迫りたり
                            リシャールと アランの間で
                            コリンヌ 悩みけり
                            遂に孤児院を 救ふ為に
                            リシャールと 別れる決意す
                            リシャールに 別れを告げると
                            盲目の リシャール 
                            コリンヌの 嘘に感ずきたり
                            リシャール 真実をたださんとせば
                            コリンヌ 過ちて
                            崖から 河に落ちにけり
                            盲目のリシャール 飛び込めば
                            盲導犬のジョンが コリンヌをつきとめ
                            ようやく一命を 取り留める
                            リシャールと 救はれしコリンヌとは
                            互ひの愛を強く 確かめたり
                            コリンヌ リシャールと愛を誓ひたり

                            その後 リシャールは
                            目の手術 受ける為
                            アランと 巴里へ出立(シュッタツ)する

                            ある日 上品な紳士訪れ
                            コリンヌが 伯爵家の
                            令嬢であることを 告げにけり
                            実の母親と祖父に 会う為に
                            リシャールと 再会する為に
                            孤児院の 皆と別れ 
                            船で巴里に 出立する

                            船の中にて コリンヌの部屋に
                            アンナらの 賊入りけり
                            アンナの 孤児なることを知ると
                            コリンヌ 同情して赦し
                            身の上話をして 親しくなりたり
                            ある夜 霧深くして
                            船 貨物船と正面衝突す
                            船 沈没せんとす
                            コリンヌ 泳ぎの巧(ウマ)き
                            アンナと 海に飛び込みぬ

                            されども アンナ
                            自ら伯爵令嬢に なりすます為
                            コリンヌ 見捨てたり
                            奇跡的に コリンヌ救はれしが
                            記憶喪失し 自らの名さへ
                            忘れたりける

                            アラン 情報を知り
                            コリンヌ 探しだし
                            婚約者であると(コリンヌが) 説得して
                            邸宅に 引き取りたるが・・・



第二部

                             コリンヌとリシャール

                            コリンヌ 凡ての記憶を失ひたり
                            アランに婚約者と 呼ばれても
                            抵抗を感ずこと なからずや
                            アランの熱意に 動かされん
                            コリンヌ 失はれし記憶をたどる為に
                            西フランスの ブリュターニュの孤児院に訪れたり
                            されども 焼け跡だけが残されき

                            リシャール 視力を回復し
                            コリンヌを ブリュターニュで探し求めたり
                            リシャール コリンヌの名を聞いて
                            コリンヌに 迫りたり
                            されども 記憶を失ひしコリンヌ
                            リシャールを 思い出すことあたはずや
                            リシャール その声、髪型、体型など
                            コリンヌと 思ひたるが
                            人違いと 諦めたり

                            アラン 社会正義を求める若き新聞王と
                            人々から 尊敬を集めたり
                            コリンヌも 次第にアランを敬愛す
                            遂にアラン コリンヌとの結婚を発表す

                            ニースで 世界の自動車レースありたり
                            新聞王アランとコリンヌも 来賓として呼ばれたり
                            優勝者は リシャールらの学生なり
                            セーラー服を着た 美少年リシャール
                            優勝カップを コリンヌ嬢から賜りたり
                            リシャール コリンヌを再び目前にして
                            かつての 恋を約束したるコリンヌと確信す
                            噂でコリンヌ 海難事故にて
                            記憶を失ひしを 知ればなり
                            その夜夢にて コリンヌ河で溺れる夢をみて
                            リシャールと介助犬 かすかに思ひ出したり

                            パリに 戻りたりて
                            リシャール コリンヌを電話で呼びだしたり
                            無理に自動車に乗せて 自宅へ連れてゆかんとす
                            コリンヌ 欺されたと怒りたり
                            自宅に 着くと 
                            コリンヌ リシャールを非難して去らんとす
                            リシャール 介助犬ジョンを追はせたり
                            コリンヌ 足を滑らして河に落ちたり
                            リシャールも 飛び込みたり
                            コリンヌ 遂にリシャールを思ひ出したりけり
                            リシャール 自宅でコリンヌを手厚く看護して
                            無謀を 深く詫びたりき
                            コリンヌ リシャールと施設の子供たち
                            思ひ出したるを 告げたりけり
                            感動し伴に 抱きしめたりけり
                            二人伴 愛を誓ひけり

                            昨日(キノウ)の如く 想ひ出す
                            天使の如き コリンヌよ
                            見放されたる 己が身に
                            優しき言葉 かけたりや

                            暗闇の中 生まれてぞ
                            初めてみたる 光明よ
                            愛の告白(リシャールの) 受け入れて
                            恋人のごと なし給ふ(コリンヌが)

                            河落ちたりて ジョンを呼び
                            吾も飛び込み 奇跡的に
                            助かりし時 奇(クス)しくも
                            愛の約束を し給へり

                            巴里へゆきても 君のこと
                            忘れぬ日々の 無かりけり
                            目の見えてより 探せども
                            愛しき人は 消え去りき

                            アランと伴に ゐたりけり
                            されども呼べど 答へずや
                            心の悲嘆 如何ばかり
                            欺かれしと 思ひしか

                            君の真実 判りたり
                            夢見たりける 如くなり
                            再び愛を 誓ひたり
                            二度と別れ あらざらん

                            アランとの結婚式 明日に迫りたり
                            コリンヌ リシャールとの誓ひ変はらずや
                            アランの婚約者なりしことに
                            戸惑ひを 感じつつ
                            若きリシャールの情熱に 打たれたり
                            アモールの神のごと 美はしき
                            リシャールこそ 永遠(トワ)の人なりき
                            夜館を 抜け出して 
                            リシャールの車に 乗りたりけり
                            アラン コリンヌの不在を知りて
                            リシャール 疑ひき
                            すぐさま 警察に手配して
                            周囲を 検問して包囲す

                            リシャール 大通りから逃れること諦めき
                            フォンテンブローの森に 身を隠し
                            裏道を通り 知人の街へ逃れんとす
                            季節は 真冬にして
                            フォンテンブローは雪景色にして
                            道険しく 凍りたり
                            車 滑りて
                            湖に 飛び込みたり
                            凍りたる湖の クレパスにはまりたり
                            コリンヌ・リシャール クレパスの中で
                            逃れること 出来ず
                            抱(イダ)き合ひ 遂に氷の中で眠りたりけり

                            翌朝誰か 湖の中の二人みつけたり
                            二人は 透明に凍りて離すこと出来ず
                            朝日に 二人の顔白く輝きて
                            あたかも 眠れる天使の如し
                            二人の唇 微かに笑み浮かべたりけり
                            アラン 飛んで来たりて
                            二人の 姿見て
                            悔悟の念 湧き起こりたり
                            コリンヌを欺きて 結婚を迫りたる
                            己の罪を 悔ひて泣きたりけり
                            リシャールと言ふ 恋人ありたるを知りながら

                            二人は 一つの棺(ヒツギ)に収められ
                            巴里の大聖堂で 葬られたり
                            巴里中の鐘の 鳴る中にて
                            巴里の人々も 二人の冥福を祈りたり

                            常に語らん 人ありや
                            眠らんとする しとねにて
                            記憶喪失 なりたれば
                            誰とも知れず 不思議なり

                            西フランスで 逢ひしとき
                            素敵な人と 想へども
                            何処かでみしと 想へども
                            貴方であると 気づかぬや

                            ニースのカップ 渡すとき
                            晴れがましきや 美はしき
                            君の姿は アモールの
                            神の姿に みえたりや

                            夢で面影 だんだんと
                            濃くなるうちに はっきりと
                            愛の誓ひを なした人
                            リシャールなりと 思ひ出す

                            心の求む 大切な
                            最愛の人 アモールよ
                            記憶喪失 なりぬれど
                            貴方に遭へて 幸ひなり

                            君の情熱 烈しくて
                            アランの厚意に 勝りたり
                            君の純愛 一筋に
                            甘き虜に なりたりや

                            愛の歓び 知りぬれば
                            他に何をか 求めんや
                            たとへ命を 冒しても
                            貴方の他に 何もなき

                            たとへこの世で 幸ひを
                            報はれずとも かの世にて
                            天は報ひん 純愛を
                            永遠(トワ)の幸ひ 与へんや



ピアノ六重奏曲ニ長調

この作品も前述した曲と同様1924年15歳の時の作品であり、爽やかなロマン主義的な曲想があふれてる。夢見る少年メンデルスゾーンと姉ファニーによる愛の結晶とも言える作品でもある。小さいこら教養豊かな母よりピアノを学び、このころから作曲理論ツェルターから学んでいた。音楽に天才的な才能があった姉からも手ほどきを受けながら、明るい浪漫派の風の吹く作品を生み出していった。ここでは第一楽章と第二楽章♪♪をお聞き下さい。


虹の伝説      ©原ちえこ


                              虹の谷

                            白樺の梢
                            雨上がりの径(ミチ)
                            湖水を渡りたる 風の音(ネ)
                            遠く フィヨルドより
                            流れるたる河のせせらぎ
                            北国の 遅き春
                            雨上がりの日の
                            小さき湖にかかる
                            七色の 虹の谷

                            深き森に 邸宅を持つ
                            スワン伯爵の姫 フィンニーよ
                            湖の妖精の如き 高フまなこかな
                            虹の 懸かりたる夜に
                            七種類の草を 枕辺に置きて
                            眠りたれば
                            未来の恋人に 逢ゆることを信ず
                            恋に恋する フィンニーよ
                            近くの少年たちと
                            毎日の如く 虹の谷で遊ぶファインニーよ
                            明朗快活なること アモールの如く
                            想ふ姿は 天使の如く
                            優しき心は 白妙の天使の如し
                            金髪の 流れたる髪は
                            何処までも 風に靡く如し

                            ある日 栗毛色の少年に出逢ひたり
                            引き締まりたる容姿
                            何処か 孤独を秘めたまなざし
                            されども 誠意と持つ
                            限りなき優しき面影
                            フィンニー 夢でみた
                            少年を 思ひ出したり
                            永く 待ち望みたる
                            恋人と 閃きたり
                            ロー伯父の後見する
                            グレン公爵の血を引く 少年なりたり

                            地元の少年たちと ケンカをすれども
                            虹の谷を 去らざりき
                            少年アドリアンも フィンニーを深く愛したり

                            ロー伯父は アドリアンを
                            グレン伯爵家へ 戻さんとすれども
                            異母兄弟のゐる館へ
                            帰らざらんとす
                            ロー伯父 フィンニーを学友として
                            伴にグレン公爵家へ
                            ゆかせることによりて
                            アドリアンを 説得したりけり

                            フィンニー グレン家にゆけども
                            いじめられて
                            館の 高き階段から
                            足を 滑らしたり
                            アドリアン 全身で受け止めて
                            頭を 強く打ちたり
                            フィンニーは 無事なりたれど
                            アドリアン 倒れて死線を彷徨えど
                            目を覚まして甦(ヨミガエ)りたり
                            フィンニー この時より
                            アドリアンを 永遠(トワ)の人とぞ想ひたりける

                            されども 運命の定めかな
                            ロー伯父は 
                            田舎貴族の娘フィンニーを
                            グレン家から 去らせんとす
                            アドリアンを グレン公爵家の
                            跡継ぎとせんが為なり
                            フィンニー アドリアンの為だけを想ひ
                            自ら グレン公爵家を後にす

                            永遠(トワ)の人なる アドリアン
                            孤独で物を 言へじとも
                            夜寝ることも 出来なくも
                            祈りの日々に なろうとも

                            貴方の幸を 想ふれば
                            愛するゆゑに 想ふれば
                            吾去ることが 道理なり
                            涙ぬぐひて 去らんとす

                            今生にては 添へねども
                            天命ならば 仕方なし
                            来生こそは 添へ遂げし
                            天も今度は 許したり

                            面影想ひ 生きたしや
                            聖母様を 信じては
                            天で君とも 逢ひたしや
                            心の操(ミサオ) 守りては

                            フィンニー 時たちて
                            少女より 乙女になりにけり
                            心の操 守りては 
                            聖母に 日々に祈りたり
                            み髪(グシ)は さらに豊かに靡きたり
                            羊の如く 素直にて
                            天使の如く 奧ゆかし

                            アドリアン クレン公爵家の後を継ぎたり
                            ある日 グレン公爵より
                            フィンニーに 
                            園遊会の招待状 来たりたり

                            地元の青年ニルスの馬車運転で
                            懐かしき グレン家へゆきたり
                            青年アドリアンと 再開す
                            二人は馬にて 虹の谷へゆきたり
                            フィンニー 昔日(セキジツ)を今の如く想ひ出したり
                            されども アドリアン 
                            フィンニーの 己を置きて去りしこと
                            裏切られたことと 誤解したりけり
                            フィンニー涙ぬぐいて ニルスと帰途に着く

                            途中 落馬した青年に出会いたり
                            リンドグレン公国の 大公(国王)なり
                            一目で フィンニーに気に入り
                            怪我を治す為 スワン伯爵邸に行幸す
                            フィンニーと 虹の谷に訪問し
                            病弱なれども 健康を回復し
                            大公 フィンニーを伴ひて
                            都に 帰還す

                            フィンニー アドリアンと再開し
                            誤解解け 二人で虹の谷に
                            帰ることを 誓ひたり
                            されども大公 フィンニーを所望して
                            我が物にせんとす
                            フィンニーにて 大公とグレン公と対立す
                            大公の後見人たる ベリウス公の
                            令嬢と成婚することを
                            大公 拒否して
                            フィンニーを 所望せんとす

                            ベリウス公の子息 ウィード
                            大公を 見捨てて
                            クレン公の妹 ローデと結婚し
                            グレン公を 支持して
                            大公カールフェルトを
                            退位させんとす
                            ローデ ウィードとの婚約を認めたれども
                            フィンニーの説得にて
                            愛するニルスと 結ばれることを決意して
                            ウィードとの婚約を 破棄す

                            ウィード グレン家のローデと結ばざることより
                            大公を 毒殺する罪を
                            グレン公アドリアンに 着せて
                            大公とグレン公を 消し去りて
                            ベリウス公ウィード 天下を取らんとす
                            グレン公アドリアン 疑はれて
                            後見人ロー伯父 自害す
                            アドリアンの罪を かぶらんが為なり

                            フィンニー 怪しきメイドを追いかけ
                            ウィードの策略 見抜きたり
                            ウィードの策略 明白になりぬれば
                            自ら毒を飲み 自害す

                            アドリアンの冤罪(エンザイ)晴れて
                            大公カールフェルトの
                            補佐役に なりたりけり
                            アドリアン 大公に一時の休暇を申し出て
                            フィンニーと伴に
                            虹の谷に戻りたり

                            天使の如き フィンニーよ
                            夢にまでをも 想ひたる
                            虹の谷へと 戻らんや
                            奇跡の如き 事なりき

                            馬車駆けるなり 伴に乗り
                            フィンの手を取り 見つめ合ひ
                            時には涙 こぼして
                            時には笑顔 こぼして

                            スワンの館 間近にて
                            少年のころの 懐かしさ
                            高ノ映ゆる 木漏れ日に
                            ローデとニルス 迎えたり

                            小径をゆけば 虹の谷
                            変わることなく 迎えんや
                            湖水を渡る 風の音
                            白樺の梢 そよがんや

                            七つの花を 枕辺に
                            置きて眠ると みた人と
                            永遠に結ばれ 夢のごと
                            聖母の導き 真(マコト)なり

                            鐘はなるなり 指環はめ
                            一つしとねに ふたり寝て
                            朝迎えれば 七色の
                            祝福の虹 懸かりたり



弦楽四重奏曲ホ長調(1823)♪♪

メンデルゾーンの14才の時に書かれた最初の弦楽四重奏曲であるが、出版されなかった為に作品番号が付いていない。父アブラハムは銀行家として成功しており、別荘を持てるほど富裕であった。そして、父アブラハムは姉のファニーとメンデルスゾーンにプロテスタント教会の洗礼を受けさせ、ユダヤ人からヨーロッパ人として生きていける基盤を与えた。またゲーテと親交のある優秀な音楽教師ツェルターから、少年時代よりバッハ、ハイドン、モーツアルトなどの音楽の手ほどきを受け、メンデスゾーンは姉ファニーと伴に天才的な才能を発揮して周囲の人々を感嘆させていた。既に交響曲を作曲する前に12の弦楽シンフォニアを作曲しており、弦楽の作曲には十分な訓練がなされていた。

この弦楽四重奏曲も全く見劣りしないばかりか、メンデルゾーンの明快でロマンチックな性格を表しており、彼の作品の名曲に入れても良いほどの作品である。メロディーラインがくっきりしていて、その美しさに胸を打たれるような傑作だと思う。浪漫派の風が吹いている。決してハイドンやモーツアルトの模倣ではない。

第一楽章アレグロ
草原で恋人と手をつないで走っているような爽やかな出だしで始まる。浪漫派の風が頬を撫でるように吹いている。冒頭の出だしの主題が中心になって楽章が構成されている。

第二楽章アダージョ
短調の蔭りのある出だしで始まる。途中から長調になりロマンチックな曲想が登場する。ロマン主義的な手法が発揮される。再び冒頭の短調に戻る。

第三楽章メヌエット
優雅な舞踏曲ではなく、ロマン主義的な傾向の強い曲想で余り舞踏性は感じられない。むしろ第一楽章の出だしの延長線上にあるような気がする。冒頭に戻り繰り返される。幸福な印象のある楽章である。

第四楽章フーガ
手をつないだ二人が愛の力で天上に昇って行くような素晴らしいフーガである。浪漫派の作曲家でこんなフーガを書いたのはメンデルスゾーンの他にいるだろうか。


弦楽四重奏曲第二番イ短調作品13
♪♪

この作品は、メンデルスゾーン18才の作品で、既に有名な「弦楽八重奏曲」や「真夏の夜の夢序曲」が作曲されている。メンデスゾーンがこの弦楽四重奏曲を書いたのは、へートーヴェンの死の数ヶ月後で、巨匠ベートーヴェンの死に対する悲しみと追悼の想いにより書かれた作品である。

メンデルスゾーンは既にベートーヴェンの弦楽四重奏曲をかなり研究をしていた。最晩年のベートーヴェン弦楽四重奏曲集は、多くの人が難解で、分かりにくいことをを理由に批判的な見解が多かった。例えば当時の人気作曲家であったシュポーアはベートヴェンの最晩年の弦楽四重奏曲集を「耳の聞こえない音楽家による混乱した響きの幻想」と評していた。しかし、メンデルスゾーンは最晩年のベートーヴェン弦楽四重奏曲集を好んで深く研究して、その成果をメンデスゾーンの弦楽四重奏曲第二番に盛り込んだ。

第一楽章と第四楽章には、主要な主題にベートーヴェンの弦楽四重奏曲第15番をモデルにしている。第二楽章のフーガには弦楽四重奏曲11番の第二楽章をモデルにしている。この様にベートーヴェンの弦楽四重奏曲をモデルにすることで、巨匠ベートーヴェンを追悼する音楽を作曲しようとしたのである。

第一楽章アダージョ-アレグロ
巨匠ベートヴェンを尊敬の目で仰いでいるような序奏があり、アレグロになる。ベートヴェンの弦楽四重奏曲15番の始まりに類似している。楽譜を見なくても曲を聞いただけで類似していることが分かる。アレグロになると悲しいメロディーが流れてきて、ベートーヴェンが亡くなったことを悲しんでいることが分かってくる。まるで恋人との別れを悲しんでいるように聞こえる。まるで失恋をしたようにも思えてくる。

第二楽章アダージョ
やはり、亡くした人を思い出すような寂しさがある。少しすると弱音でフーガ(ベートーヴェンの弦楽四重奏曲11番に楽章をモデル)になり、哀しみが深さを増してくる。中間部にテンポの速い部分がある。また静かな音楽になり、冒頭のアダージョに戻って終わる。

第三楽章間奏曲
妖精がつま先立ちで歩いているような音楽から、羽を伸ばして飛んでいく。また妖精の歩いているような音楽に戻る。

第四楽章プレスト
この楽章もベートーヴェンの弦楽四重奏曲15番の終楽章の影響がある。いきなりチェロ激しい音で始まる。不吉な音である。短調で哀しみをそそるような音楽になる。弱音でフーガになり哀しみが深くなる。チェロの激しい音が繰り返される。また哀しみをそそるような音楽になる。最後に第一楽章の序奏に戻り、巨匠ベートヴェンを尊敬の目で仰ぐような音楽になり静かに終わる。



弦楽四重奏曲第一番変ホ長調作品12♪♪

先に第二番を解説したのは、この作品は第二番の後の20才の時に作曲されたからだ。近所に住んでいたベルリンの天文学者の娘であるベティ・ピストールに献呈された。ベティ・ピストールについては詳しいことは分からないが、肖像画を見ても分かるように、グラマーで相当の美女であった。メンデルスゾーンより2才年上であり、フェリックス(メンデルスゾーン)と妹のレベッカなどと親しい間柄であった。献呈したところをみるとメンデルスゾーンはベティ・ピストールに相当な思い入れがあったのだろう。最初の本格的な恋人であった可能性がある。そのせいか、前の作品に比べると明るくロマンチックである。この曲を第一番として出版したのも、そのような事情があったからかも知れない。

メンデルスゾーン一家は、ベルリン中心部に住んでいた。父アブラハムは富裕な銀行家で、メンデルゾーンの為に音楽だけではなく、人文主義的な古典主義の教養を施すことも忘れなかった。メンデルスゾーンの父は、音楽に天才的な才能があった姉ファニーやフェリックス(メンデスゾーン)の作品発表の場として楽団を雇って「日曜コンサート」を行っていた。そしてフェリックスが16才の時に住居をベルリンの郊外の邸宅に移した。そこには数百人の来客を収容する広間があり、日曜コンサートが引きつづけ行われ、メンデルゾーンの弦楽八重奏曲や「真夏の夜の夢」序曲などが初演された。ベルリン郊外の邸宅には、ベルリンや広くドイツから名士がメンデスゾーンの音楽を聞きにやって来た。

哲学者ヘーゲル、地理学者フンボルト、ドイツ浪漫派の音楽家兼文学者T.E.A.ホフマン、詩人ハイネ等々も出入りしていた。音楽学者のティボーともメンデルスゾーンと親しくなり、ルネサンスのパレスとリーナ、オルランド・ラッソー、スペインのヴィクトリアなどの音楽も知ることが出来た。その中に天文学者ピストールがいて、その娘ベティとは近所でもありフェリックスや妹レベッカなどと親しくしていた。妹レベッカも音楽の才能が相当あり、もし兄のフェリックス、姉のファニーがいなければ、私が楽団を率いていたかも知れないと後年述べている。グラマー系の美人ベティにフェリックスが惹かれていた可能性は十分にある。とにかく、弦楽四重奏曲第一番を彼女に献呈したことが、それを証明しているではないか。

第一楽章アダージョ-アレグロ
恋の心理を想わせる序奏の後に、ロマン主義的な主題が現れてくる。ロマンチックで明るい。浪漫派の風が吹いている。次第に高まっていく。落ち着いて来て終了する。

第二楽章カンツォネッタ
メンデスゾーンの音楽によくある妖精がつま先立ちで歩いてる様な音楽である。中間に盛んに翼を広げて飛ぶ様子の音楽がある。再び冒頭に戻る。

第三楽章アンダンテ
ゆっくりとした愛の賛歌のようでもある。恋の心理がゆっくり綴られる。明るくロマンチックでもある。テンポが速くなり高まりがある。またアダージョに戻って、静かに終わる。

第四楽章アレグロ-ヴィヴァーチェ
短い序奏があり、自然にロマン主義的な主題が出てくる。恋の情熱を感じさせる。浪漫派の風が吹いている。弱音で最初の主題が出てくる。次第に高まり情熱的になっていく。テンポが速くなり、精神が高揚してくる。弱音で再び最初の主題に戻り静かに終わる。

ベティ・ピストール





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