フルートとハープのための協奏曲(Mozart's Concerto for Flute and Harp) 

 二つのフルート協奏曲とフルートとハープのための協奏曲は、モーツアルトのインスピレーションの頂点に立つ曲で、爽やかさと、優美な愛の表現と、天上に舞い上がるような印象などで、ロココ様式を完璧に表している。これらの協奏曲は、フランスのロココ様式の画家ブーシェの世界と一致している。

  ヴィーナスの勝利         ブーシェ


ヴィーナスの勝利は、ブーシェの代表作で、ロココ様式の頂点を示している。中央の優美なヴィーナス像、海のしぶきのみずみずしい表現、そして、キューピット達の天上に舞い上がるような情景、これらの光景は、そのまま、
フルートとハープのための協奏曲(第2楽章・第3楽章)♪♪の風景と一致している。ブーシェとモーツアルトにより、ロココ芸術は最高潮に達するのである。


                  
ヴィーナスに捧ぐ

               汝 清らなる乙女ヴィーナスよ
               父なるゼウスとディオナの間に 生まれし乙女よ
               汝とアレスの間に 生まれしアモールは
               恋の神として 讃へられん

               清きこと 梨花の如く
               慎ましきこと 水仙の如く
               愛らしきこと マーガレットの如く
               美はしきこと 薔薇の如し

               水の妖精 セイレーンを従へ
               人魚トリトン 召し抱へ
               翼もつアモール
               汝に常に 寄り添はん

               神々の血をひく 高貴なるヴィーナスよ
               ある伝へによれば 
               汝はデロスの王家の子に 生まれけり
               されど 七歳になりし時
               アカイアに 攻められ
               ロードスのリンドス城に 監禁されたり
               十八歳になりて 
               月夜に 竪琴をひき
               救ひ来たらん人 待ちて
               次の如く 歌ひ給ひぬ

               遙かなる海を 照らす月よ
               汝は 何故に斯(カ)くも美しきや
               いつしか 月に生まれて
               この海と人を 照らしたし
               月よ 汝の舟をよこし
               迎え来たりなば
               天翔(アマガケ)る 舟に乗りて
               月に 飛んでゆかましや

               十八に なる歳に
               必ずや 恋する人現れ
               あの浜辺に 漕ぎ寄り
               愛の歌 捧げんや
               そして 彼の人 
               月夜に 救ひ出し
               祖国へ 連れて帰り給ふべし

               夢みん心は 止らずや
               胸の高鳴りは 止まらずや
               竪琴の音色は 止まらずやと

               神々の子 クレタの王子ヘルメス
               美はしきヴィーナスの噂 耳にす
               リンドス城の岩陰に 身を隠して
               竪琴をひき 斯くの如く歌ひぬ

               吾は クレタの王子なり
               汝の 愛らしきは 
               すでに 人々に知られたり
               さらに 汝の美はしき歌声には
               オルフェウスの如くに
               海の魚をも 魅了すること
               聞き及びぬ
               はるばる 海を渡り
               汝に 心中を知らせんが為に
               ここに到れり

               おお リンドスよ
               美しき浜辺よ 
               そは 月の光で夜でも青し
               何故に 青しや
               恋心の 伝はらぬが為に
               涙の水となり 海に落ちる故にか
               魂を 魅きつける女(ヒト)よ
               魅きつけて 苦しめん女(ヒト)よ
               御心ならば
               吾と伴に 来たり給へと

               ある月夜の晩
               リンドスの浜辺に 舟着き
               人影が 降り立ちぬ
               明るき 月の光
               人影の顔(カンバセ)を 映しぬ
               ヴィーナスの部屋の窓 開き
               灯りで 初めて伴にまみへたりけり
               ヘルメス 瞳輝く凛々しき青年なり
               ヴィーナス 湖水の如きまなこ 
               梨花の如き 白き肌
               流れたる 御髪(ミグシ)
               深き谷間の如き胸
               ふくよかなこと 森のニンフの如し

               ヴィーナス リンドスを抜け出し
               クレタに 渡りたり
               クレタの王子 花嫁を連れて帰りぬ
               ヘルメスの声望 ますます高まり
               クレタを 統一し
               地中海の 英雄となり
               エジプトより 高き文明を取り入れたり

               愛と美の女神 ヴィーナスよ
               汝の深き恋の 体験(タメシ)もて
               吾らの恋の願ひを 聞き入れ
               永遠(トコシエ)の愛の 
               成就せんことを 叶へ給へ

愛は風の如く   ©大川隆法



フルート協奏曲第一番ト長調(オリジナル楽器)

 マンハイム・パリ旅行で、あるフルート愛好家のためにフルート協奏曲を数曲書くことになった。一曲は作曲したが、二曲目はザルツブルクで書いていたオーボエ協奏曲をフルートに書き直した。双方とも傑作で、天にも昇らんとするロココスタイルの曲である。ここでは、フルートのオリジナル楽器で木管のフルートの演奏である。古雅な音がするが、よく聞くと柔らかで清らかな音色である。伴奏も凡てオリジナル楽器であり、清々しい演奏であり、何度聞いても飽きないような音がする。

第一楽章♪♪
天にも昇らんとするロココスタイルの曲である。

第二楽章♪♪
ロココの風の吹くアダージョである。

第三楽章♪♪
セーブル焼きの柄のように愛らしい曲である。

ヴィーナスとキューピット        フラゴナール



フルート(オーボエ)協奏曲第二番(第1楽章)♪♪

 
モーツアルトは、マンハイム・パリ旅行をはさんで、フルート協奏曲を2曲書いた。第二番はオーボエ協奏曲の編曲である。伴に名演奏家のために作曲された。この時代はザルツブルク時代でもギャラントスタイルという華やかなロココスタイルで書かれている。当時の流行に沿うものである。このころのモーツアルトの音楽は天上に抜けるような晴朗で闊達な傾向を示しており、ペガサスのように天上に昇っていくような雰囲気の曲が多い。この時代のモーツアルトの作品がなかったら、モーツアルトの魅力は半減してしまうだろう。晩年とは違った天上的な音楽である。

ヴィーナスの誕生    ブーグロー


ブーグローの「ヴィーナスの誕生」もアモールが天上に昇っていくような明朗典雅な絵画である。19世紀の作品であるが、前世紀の古典を踏まえて描かれている。


ヴァイオリンとヴィオラの協奏交響曲 K.364(320d)

 この協奏曲が作曲されたのは、マンハイム・パリ旅行から帰って来てザルツブルグで過ごした2年間である。この2年間で領主ヒエロニムスとの不和は決定的になり、モーツアルトは自由な芸術家の道を求めてウィーンに去ることになる。このころ書かれた作品を見ると、「戴冠」ミサ曲(K317)、「ポストホルン」セレナーデ(K320)などがあり、ロココ様式の面影は十分に残っている。

モーツアルトのマンハイム・パリ旅行で残した作品はロココ様式の最高潮に達している。そのころのパリやマンハイムでは、ロココ様式の申し子とも言える協奏交響曲が流行していた。複数の独奏弦楽器からなる協奏曲で、普通2つの楽章からなり、第1楽章はソナタ形式で第2楽章は舞曲になっていた。全体的に華やかで踊るような雰囲気が求められた。協奏交響曲の代表的な作曲家はマンハイム楽派のカール・シュターミッツ、ロンドンのJ.クリスチャン・バッハなどが知られている。特にカール・シュターミッツは、パリで大成功を収めて協奏交響曲を広めるのに貢献した。


                                          


モーツアルトはそのような流行に触発されて二つの協奏交響曲を残したが、もう一つは偽作の疑いがあり、これが唯一の協奏交響曲である。今では協奏交響曲はマイナーなジャンルで、この作品も目立たない存在であったが、2005年ムターのヴァイオリン協奏曲集のディスクの発売でにわかで話題を呼ぶようになった。ヴァイオリン協奏曲はよく知られているが、協奏交響曲もそれに劣らない傑作であることが再認識されたからである。ムターの演出は、この作品の魅力を巧みに表出させている。

この協奏交響曲は、三つの楽章からなり第2楽章は短調のメランコリックな楽章で、それがこの作品をより一層ロマンチックなものにしている。ムターの演出はこの楽章の魅力を充分に引き出している。第1主題は短調のメランコリックなメロディーの後の第2主題以降のときめきが素晴らしい。映画音楽に使われても不思議のない様な音楽だと思う。

第1楽章から第2楽章
♪♪までを続けてお聞き下さい。


フルート四重奏曲第一番K.285♪♪

 1777年、モーツアルト21歳の時、マンハイム・パリ旅行に出た。マンハイムは当時ドイツでは屈指の音楽都市であった。モーツアルトは異例の四ヶ月半の長きに滞在したが、それは、ウェーヴァー家の当時17.8歳のアロイジアへの恋のせいであった。アロイジアの巧みに歌を歌う姿にすっかり虜になってしまった。歌曲を贈ってモーツアルトは恋を告白した。こんな時にモーツアルトはフルート四重奏曲三曲の注文を受けた。200グルデンという高額なもので、アロイジアのためににも即座に作曲に取りかかった。そのころの心境を反映してか、清々しくロココスタイルの粋をゆく詩情豊かな作品になっている。

第一番は特に傑作で、第一楽章は明朗かつ詩情豊かな曲で、モーツアルトの室内楽の中でも有名な楽章である。第二楽章は仄かなメランコリーをみせて、作品全体の起伏を豊かにしている。第三楽章は、転じて明朗快活なロココスタイルの曲である。

アモールとプシュケ   フランソワ・エドゥアール・ピコ


この「アモールとプシュケ」は1817年にフランスで描かれたものである。二人とも美しい少年と少女に描かれているが、これはロココスタイルの絵画で好まれた題材であるが、この絵画ではアモールとプシュケは裸体であり、寝台や背景は古代ローマ風であり、当時の新古典主義に共通した特徴がみられる。

プシュケはアモールの離宮に招かれるが、夜の間だけアモールに会うことを許される。したがって、プシュケはアモールの姿をみることは出来ず、恋人が誰であるかを知ることが出来なかった。アモールは、早朝になると秘かに去って行った。



                            アモールとプシュケ

                         アカイアの王家の 末娘に生まれしプシュケよ
                         花もはじらう 美少女よ
                         愛らしきこと 天のみ使いの如く
                         可憐なること 野に咲く菫の如し

                         頬は 真珠(シラタマ)の如く
                         まなこは 湖水に舞ふ砂の如く
                         胸の谷間は 百合の咲く如く
                         手足は ふくよかなニンフの如し 

                         されど 愛と美の女神ウェヌスの妬みかひ
                         アモールをして プシュケに不幸な恋をさせんとす
                         (アモール)弓矢をもて 射んとするに
                         プシュケの顔(カンバセ)に みとれたりて 
                         過ちて 己(オノ)が手を傷つけたり
                         アモール 烈しくプシュケを愛したりけり

                         ウェヌスの愛子(イトシゴ)にて 翼もつアモールよ
                         天真爛漫なこと 空飛ぶ燕の如く
                         典雅なること アテナイの美少年の如く
                         純真なること コーラスの少年の如し

                         ウェヌスに 妬まれしプシュケよ
                         星に 願ひを託し
                         朝(アシタ)の花に 語りかけ
                         清き社にて 祈れども
                         誰も 君を知らじ

                         優しき言葉を 願へども
                         みつめられんことを 求めども
                         慰められんことを 欲せども
                         誰も 君を知らじ

                         デルフィに 信託求めしが
                         山の頂の怪物に 捧げられんとす
                         ゼフィール(西風の神)に 慕われ
                         風にて アモールの離宮に運ばれき
                         秘かに アモールの歓待受けたり

                         夜になると 優しき人(アモール)来たりて
                         姿みせず 深々と愛したり
                         朝になると 秘かに去りたり
                         プシュケ その人の顔を知らじ

                         ある夜秘かに (プシュケ)灯りもて
                         優しき人の顔を 照らしたり
                         そは 翼もつ愛の神アモールなり
                         灯りの油 落ち 
                         アモール 気づくと姿くらましたり

                         それを知りし ウェヌス怒りて
                         プシュケを 神殿に呼び寄せ
                         ウェヌス (プシュケに)黄泉(ヨミ死後の世界)の国にゆき
                         ペルセポネーに会い 美の薬の入りし箱を
                         受け取りて来ること 命じたり

                          プシュケ 遂に死す覚悟せんとす
                         すると プシュケを慕ひし大地の神
                         黄泉(ヨミ)の国にゆく通路 教えたり
                         プシュケ 無事に美の箱を受け取り
                         地上に 帰り来たりけり

                         されどプシュケ 禁じられたる 
                         美の箱 開けにけり
                         たちまち箱の中から 眠りの精現れ
                         プシュケ 永遠(トワ)の眠りに就きたりき

                         アモール 眠りに就きしプシュケに接吻す
                         (プシュケ)眠りより醒め アモールを抱きしめたり
                         もはや 二人を引き離すことあたはじ
                         アモールの離宮で 日々愛し求めたり

                         アモール 父なる神ゼウスに
                         プシュケと結ばれんこと 懇願す
                         ゼウス プシュケをオリンポスに呼び
                         神酒アンブロシアの 杯を渡せり

                         プシュケ 不老不死の神々に列せられ
                         蝶の羽を得て アモールと伴に飛翔せり
                         二人の愛 ますます深まり
                         日々 愛の歓喜を享受せん

                         可憐で慎ましきプシュケよ
                         汝の清純さ 汝を救へり
                         ウェヌスより他(ホカ)の神々は 常に汝の味方なりき
                         アモールに愛されたる 幸ひなるプシュケよ
                         天にて 愛の宴(ウタゲ)の絶えることなからんや


ロココスタイルのオペラ(Opera in Salzburg age)

 モーツアルトのオペラというと、後期のオペラが有名であるが、モーツアルトは、すでにザルツブルク時代に完成度の高いオペラを作曲している。とくに、19歳の時に作曲した「羊飼いの王様」♪♪(Morzart's "IL RE PASTORE")は、牧歌的なのどかさと、清純なアリアの美しさで、ロココ趣味の粋を行く作品になっている。モーツアルトのこのようなオペラを聞いていると、まるで天使が天国で歌っているような感じがする。イタリア語のオペラであるが、音楽を聞いているだけで、羊飼いの少年と少女の恋を想わせ、アリアとオーケストラを聞くだけで充分満足することができる。 

  図6  憩う二人の羊飼い  ブーシェ



ブーシェは、図6のような愛らしい少女と少年の絵をいくつか描いている。このような牧歌的な少女と少年の絵は、ロココ趣味に好まれた。モーツアルトの「羊飼いの王様」も、このような牧歌的なロココ趣味に沿ったものである。ソプラノの清純なアリアは、まさに、図6の美少女を想わせる。


                 何で答えてくれないの
                 さびしいから
                 呼んでいるのに

                 みつめて欲しいから
                 キスして欲しいから
                 抱きしめて欲しいから

                 一度でいいから
                 好きだって言って欲しいのに
                 可愛いって言って欲しいのに

                 瞳を閉じているのに
                 あなたを待っているのに
                 二人でいたいのに

                 何で答えてくれないの
                 こんなに
                 呼んでいるのに



ロココスタイルの宗教曲
(The Religious Music of Salzburg age)

モーツアルトが生まれたザルツブルクは、カトリック教会の大司教領で教会音楽の作曲もモーツアルトの重要な勤めであった。モーツアルトは、この時代にかなりのミサ曲を残している。モーツアルトのミサ曲は、バッハなどの敬虔な宗教音楽に比べると、オペラのようなメロディーの曲が多く、軽薄な宗教曲であるという批判があるが、これは全くの誤解である。モーツアルトの教会音楽は、この時代の優美で華やかなロココ様式の教会の雰囲気に合ったもので、モーツアルトこそ、ロココ様式の優美な教会音楽の完成者である。


戴冠ミサ

 モーツアルトの傑作のミサ曲は「戴冠ミサ」(Mozart's "Coronation Mass")である。カラヤンが、バチカンで演奏したのもこの  「戴冠ミサ」であった。戴冠ミサは独唱と合唱とも、清らかで甘美で、典型的なロココ調の教会音楽である。モーツアルトのミサ曲は、聖歌隊の演奏によって、このようなロココ様式の教会で演奏された。戴冠ミサ曲を聖歌隊の演奏♪♪で聞くと、この曲がいかにロココ様式の教会の雰囲気に合っているかが分かる。流麗なモーツアルトの音楽と、清純で甘美な少年の歌声とは、清らかで優美なロココ様式の教会の雰囲気と全く一致している。ロココ様式の教会は、人類の最もすばらしい建築物の一つであると思う。かくも、美しく清らかで天国的な建築がほかにあるだろうか。それだけ、ロココ様式は、人類の文化の中で最も洗練された文化である。

                                       ツヴィーファルテン聖堂            シュワーベン

                            



                       アヴェ マリア

                    聖寵(セイチョウ)満ちみてる 聖母マリア
                    御身(オンミ)は 母の体内に
                    無原罪にて 宿り給ふ
                    御身は 女のうちにて祝せられ
                    聖霊にて 御子を宿し給ふ


                    御子の受難を 身に受け
                    御子と伴に 苦しみ給ひ
                    天に於ひて
                    天使の前にて
                    勝利の冠を 授けられ給ふ


                    恵まれたる天の女王よ
                    くすしき薔薇の花よ
                    希望の明けの明星よ
                    清きこと百合のごとく
                    慎ましきこと月のごと


                    慈悲深き 聖母マリア
                    お取り次ぎを 願へる者の
                    救はれざりしこと
                    古(イニシエ)より 今に至るまで
                    一人として あらずや
                    これによりて
                    たのもしく はせ来たり
                    み前に 祈り奉る


                    御子の 御母(オンハハ)マリア
                    吾らの祈りを
                    憐れみをもて
                    聞き入れ給へ

                    吾らを永遠(トコシエ)に 救ひ給へ


ヴェスぺレK.339 より
「主を誉め讃えよ」「マニフィカート」♪♪

 
戴冠ミサとほぼ同じごろ、ザルツブルクのカテドラルで演奏されたヴェスペレある。ヴェスペレとはカトリック教会で行われる晩の典礼である。戴冠ミサと同様ロココスタイルの傑作の宗教曲である。その中でも五番目の「主を誉め讃えよ」は、この作品の中で最も美しい曲として知られている。最後の「マニフィカート」は、受胎告知を受けた聖母マリアが神を賛美した有名な言葉のことを指している。伴に華やかなロココ式の教会堂の雰囲気をよく伝えている。モーツアルトのザルツブルク時代の最後の宗教曲である。

かほる花々        高畠華宵

高畠華宵は大正ロマンで有名な竹久夢二とほぼ同時の画家兼イラストレイターである。当時夢二と伴に並び称せらる著名な作家で、女子学生や若者に大変な人気があり、鎌倉に洋風の館を建て少女雑誌や少年雑誌、そのほか様々のイラストレイトを多数残している。和洋折衷でそのどれもが傑作である。

この「かほる花々」は便箋用紙の挿絵である。この絵画は華宵の中でも最も清純な作品で香るような詩情を仄めかしている。華宵の女性の姿は夢二よりも遙かに西洋風で、この乙女も聖母マリアの表情に似ている。手や指はロココスタイルのニンフを想わせる処があり、華宵が如何に西洋の古典絵画を研究していたかが伺える。


                             乙女のころにはならねども

                            乙女のころには ならねども
                            心はすでに 乙女なり
                            淋しき心 積もりてぞ
                            何処(イズコ)にゐます 良き人よ

                            胸は膨らみ 春近し
                            頬も膨らみ 望月の
                            花の顔(カンバセ) 間近なり
                            まなこの想ひ 深まらん

                            かはゆき服を 身につけて
                            街を初めて 歩みたり
                            人の目ふれる 想ひせば
                            頬はますます 紅さしぬ

                            薔薇の花束 買ひたれば
                            花にはじらふ 心して
                            愛しき人の 贈りたる
                            愛の花束 夢みんや

                            み堂にゐます マリア様
                            少女の願ひ 叶へませ
                            御身(オンミ)の姿 美はしく
                            天使の姿 叶へませ

                            桃の花をも 開きたり
                            春爛漫は 間近なり
                            胸の鼓動は 高まりて
                            永遠(トコシエ)の人 願はんや



音楽劇「バスティアンとバスティエンヌ」

モーツアルト11才の時にオペラが三曲作られている。歌劇「アポロンとヒュアキントス」これは、ギムナジウムの終業作として作られた。そして、ウィーンに演奏旅行に出かけた。時の皇帝ヨーゼフ二世は、モーツアルトにオペラの作曲を勧め正歌劇「みてくれのバカ娘」を作曲するが、演奏に妨害がなされモーツアルト親子をがっかりさせた。その後、知人からドイツ語のオペラ(正確に言うと音楽劇)を作曲することを勧められ、ルソーの牧歌劇「村の占い師」に倣ったドイツ語の音楽劇「バスティアンとバスティエンヌ」が作曲された。イタリア・オペラの様式の影響を受けている。

このオペラ・コミックはウィーン少年合唱団が団員だけで発表して、大変有名になり、LPまで作られた。一幕物のシンプルな牧歌劇であるが、内容は決して低くなく、モーツアルトの純真な作風をみることが出来る。ここでは話題になったウィーン少年合唱団のLPの後半の一部をを紹介しよう。バスティアンはテノールで書かれているが、このLPではボーイソプラノで歌われている。口語の歌詞を付けておくので、内容を幾らか想像できると思う。バスティアンとバスティエンヌの声の見分けがつきがたいが、アリアの順で幾らか見当がつくようだ。


                            No.11 アリア バスティアン

                            白ひ花のある 君の頬を
                            もう一度 楽しみたい
                            君の魅力が 心を癒してくれる
                            君の為なら 黄金などどうでもよい
                            地位も富も 消え失せてしまふ
                            そんなの 何の効き目もない
                            君だけが 慰めてくれる
                            そんなのより 何倍も

                            威張り散らし 新奇なものにひかれる金貸しも
                            あの子の愛嬌に ひかれるはず
                            あの子をみたら 幸せだと思ふよ
                            あの子は 僕の為にだけ生まれてきたんだ
                            冷ややかな焼き餅を持って

                            レスタティーボ

                            あ、バスティエンヌがやってきた!
                            あの子は 本当に怒ってゐる
                            バスティエンヌ!君と話したい

                          No.12アリア バスティエンヌ

                            あの人は 忠実に身を捧げていてくれたは
                            私だけを 愛してくれていたは
                            あの人が求めたのは ただ私だけ
                            私だけが あの人の心を抱ひていたの
                            どんな娘(コ)も 無関心で
                            まなざしは 私だけに注がれてゐたの
                            私だけにひきつけられ 気に入ってくれてゐたの
                            貴婦人でさへ 目もくれなかった
                            あの人に 夢中になる貴婦人がゐても
                            貴婦人が 贈り物をくれると
                            それを そのまま私にくれたは
                            
                            でもあの人は 今他(ホカ)のものに身を捧げようとしてゐる
                            今虚しひのは 私の愛
                            離れてゆく 愛しひ人は
                            かつての甘ひ愛を 苦ひ愛にし
                            そして、浮つゐた男になったんだは

                          No.13 アリア バスティエンヌ

                            街へ行ってしまおふ
                            恋人なんか すぐみつかるは
                            そして 貴婦人のように過ごすの
                            大勢の紳士を 魅惑させるの

                            そして 素敵なひとがみつかったら
                            早く その人と一緒になるの
                            素敵なひとなら 宝石でも
                            すぐ くれるは
                            街なら すぐ手に入るは
                            宝石を 手に入れるには
                            親切にして あげればよいの

                            お金持ちの紳士と一緒になれたら
                            私でも 上品にみえるは

                          バスティアン
                            
                            行っちまへ!
                            お前が強情をいっても 恐くないぞ
                            僕は城にゆくぞ 絶対に
                            そして 貴婦人をみつけて
                            心を凡て その人に捧げるんだ
                            その女(ヒト)が 優しかったら
                            早く 一緒になりたい

                            金貨を 沢山持って
                            豪華に 着飾って
                            誇るんだ
                            僕の存在が その人の幸せになるんだ
                            その人は 僕に貢ひでくれる
                            情の深ひ男と 想って・・・


春          フランソワ・ブーシェ


ディベルトメントKV136・137・138

モーツアルトの十代のころのディヴェルトメントであるが傑作として知られている。普通ディヴェルトメントというと6曲くらいのメヌエットを含む曲が大部分であるが、このディヴェルトメントは急緩急の三楽章からなりメヌエットは含まれていない。しかし、ディヴェルトメントという名称は、楽曲の形式を表すものではなく、楽しみとか愉悦とかという意味で、そのようなイメージを持つ曲集につける一般的な名称である。特にウィーンやザルツブルクでは、祝賀的なパーティーのBGMとして、好んでディメルトメントが演奏されていた。同じような目的で戸外で演奏する曲の名称をセレナードと呼んでいる。

モーツアルトは、ディヴェルトメントやセレナードを多数作曲している。それは、そのままウィーンやザルツブルクで貴人のパーティーには音楽を不可欠とする音楽愛好の賜でもあった。急緩急の三楽章は本来イタリアオペラの序曲の形式であり、それが独立して演奏されるようになり、シンフォニアと呼ばれるようになる。シンフォニアは後に交響曲として発展していく。したがって、この三曲はシンフォニア形式のディヴェルトメントということができる。ディヴェルトメントはアンサンブルで演奏されることが多かった。

この三つのディヴェルトメントをオランダ出身のコープマンがオリジナル楽器のアンサンブルで実に見事に演奏している。このように美しいディヴェルトメントは初めて耳にすると言っていいほど素晴らしい演奏である。

ディヴェルトメントKV136♪♪
第一楽章 オリジナル楽器のヴァイオリンが限りなく優美爽快なアレグロの楽章である。
第二楽章 アンダンテのロココスタイルの時めくような楽章である。
第三楽章 プレストでロココ風のオペラの序曲の走るような優雅な楽章である。



ディヴェルトメントKV137♪♪

第一楽章 アンダンテでオペラの一部分の曲のような楽章である。
第二楽章 アレグロカンタービレと言っていいほどメロディアスな楽章である。
第三楽章 舞曲風の優雅なアレグロである。



ディヴェルトメントKV138♪♪
第一楽章 明快優雅なロココスタイルのアレグロである。
第二楽章 歌うような優雅なアンダンテである。詩的な深まりがある。
第三楽章 裸体のニュンフが舞うような舞曲風の楽章。

ニュンフ達         ブーグロー






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