リムスキー・コロサコフ(1844-1908)

 彼は貴族の家系に生まれ、海軍士官を1873年まで勤めて、1884年まで海軍軍楽隊の指揮者の地位にいた。1861年バレキレフと知り合い、ロシア五人組に加わった。その後本格的な作曲の勉強に励んだ。1871年にペテルブルク音楽院の作曲と管弦楽法の教授に就任してから、西欧の音楽理論を研究し身につけた。作風は中近東のアラビア趣味が濃厚で、管弦楽法も洗練され、教育者としても西欧理論を土台とした指導に当たり、多くの逸材を育てた。その中には、ストラヴィンスキーやプロコフィエフなども含まれる。

チャイコフスキーの音楽の中にはアラビア趣味は全く見られない。しかし、ロシアの作曲家の中にはアラビア趣味が見られることがある。その原因は、ロシア帝国の南部の大部分がイスラム圏であることだ。だから、南部のアラビア趣味がロシアには豊富に流れ込んでいる。また旅行で行ったり、南部に近い方面の出身者もいる。リムスキー・コルサコフの先生のバレキレフにもアラビア趣味があったという。その影響が多いという説もある。筆者はハチャトリアンというロシアの作曲家のフルート協奏曲をコンサートで聞いたことがあるが、かなりアラビア趣味があることに気づいた。

これはフランスでも同様なことが言える。フランスには北アフリカにアルジェリア、チュニジアというイスラム圏の植民地があった。画家ドラクロアもアルジェリアに旅行に行き、明るく色彩的なアラビアの作品を幾つも残している。ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」にはアラビア趣味があることは音程などで知られている。また、フランスではアラビアンナイトが19世紀には翻訳され象徴派の詩人などにも影響を与えている。このようにして19世紀後半には、アラビア趣味は文学や音楽の題材になることは十分にあり得たのである。

交響組曲シエラザード 作品35

言うまでもなく、リムスキー・コルサコフの代表作で、シエラザードはアラビアンナイト(千夜一夜物語)に最初に出てくる登場人物である。シエラザードはシャリアール王に夜ごと世にも不思議な物語を語り、千一夜も王を夢中にさせ、恨みを忘れさせることに成功した。

王とシエラザード

第一楽章 海とシンドバットの船♪♪

いきなりシャリアール王の主題がとどろき、ロマンチックな木管楽器の分散和音につづいて、なまめかしい魅力をそなえたシエラザードの主題がヴァイオリンの独奏で示される。物語の開始である。いくぶんテンポを速め、シンドバットが船出する様子が、波のうねりと伴に力強く描かれていく。

奴隷のいるオダリスク                   アングル


ヴァイオリンの独奏で示されるなまめかしい魅力をそなえたシエラレザードの主題を彷彿とさせる絵画である。オダリスクとはトルコの後宮の美女をさす。

第二楽章 カレンダー王子の物語♪♪

カレンダーという諸国を行脚する苦行僧は、「アラビアンナイト」の数カ所に出て来るが、どの物語を描いたかは特定出来ない。
シエラザードの主題に始まり、カレンダー王子の物語が描かれる。浪漫派の風の吹く美しい部分である。中間部は目まぐるしい動きになり、王の動機やシエラザードの動機が入り乱れながら盛り上がりをみせる。最後にシエラザードの動機で終わる。


第三楽章 若い王子と王女♪♪


抒情的なしっとりした美しさをたたえた楽章で、いかにも幸せそうな王子と王女の様子が詩的に歌い上げられている。中間部にシエラザードの主題が美しく鳴り響く。浪漫派の風の吹く素晴らしい楽章である。夢の国に行ったような感動が湧いてくる。


第四楽章 バグダッドの踊り-海-船は青銅の騎士のある岩で難破-終曲♪♪


シャリアール王の主題に始まり、シエラザードの動機がつづく。そして活気ある祭りの場面となり、生き生きとしたリズムに乗ってにぎやかな音楽が繰り広げられる。その後、第一楽章の船出の情景が再現され、難破のシーンが金管楽器などにより描かれる。終末は、消え入るようなシエラザードのメロディーにシャリアール王の主題が重なり、静かに余韻を残して終了する。

船乗りシンドバットの冒険


組曲「サルタン皇帝物語 作品57

歌劇「サルタン皇帝物語」が初演される前に三曲から組曲が演奏された。

第一曲「皇帝の出発と別れ」♪♪

サルタン皇帝は戦(イクサ)に出発して王妃と別れる。ファンファーレがなり、行進曲風の音楽が流れる。
アラビア風であると伴に、妖精風の音楽にも聞こえ、浪漫派風の陽気な音楽でもある。


第二曲 樽に乗って海を漂う王妃♪♪

王妃の生んだ王子を、王妃の姉たちが怪物を生んだと皇帝に語ったために、母子は樽に入れて流されてしまう。
海の荒れるさまや、それに不安を抱く王妃の気持ちなどが表現されている。

第三曲 三つの驚き♪♪

二人が寂しい島に流れ着いた時、王子ギドンは立派な若者に成長していた。ある日不思議にも島にレデネッツ街が現れる。その街には驚くことが三つあった。金の木の実をかじるリス、金のヘルメットをかぶった33人の兵士、そして白鳥の姿をした王女である。ギドンはある時鷹から逃れてきた白鳥を助ける。実は王女は魔法にかけられていたのだった。王子はその魔法を解くと伴に、彼女の助けを借り、蜂の姿になって皇帝のもとに戻り、敵たちを容赦なく刺し殺す。そして皇帝夫妻は再会し、王子は王女に結ばれる。

リスが金の木の実をかじる景色や金のヘルメットをかぶった兵士の光景や、ギドン王子が王女の魔法を解くところがロマンチックに描かれ、最後に皇帝夫妻が再会し、ギドン王子と王女が結ばれる様子が大団円に発展して行き終了する。






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