チャイコフスキー(1840〜1893)

 19世紀の作曲家の中で、チャイコフスキーは最も成功した作曲家である。交響曲、協奏曲、管弦楽、室内楽、オペラ、バレー音楽とあらゆるジャンルで名曲を残し、今でもこれらの曲はよく演奏される。

まず、チャイコフスキーの音楽の特徴は、すべての音楽でメロディーラインが美しく、口ずさむことができるほである。メロディーの天才であるといってよく、彼が民衆に愛し続けれてきた最大の理由だと思う。彼は民謡を愛し、音楽に取り入れることに飽かなかった、ロシア的な心情をもった人であった。

彼の音楽は、多くの場合がロシア的であり、広大なロシア平原、厳しい北国、ロシアの素朴な農民の様子などを連想させている。ロシア的な真実を彷彿させ、同時代の、トルストイ、ドストエフスキー、ツルゲーネフなどのロシアの文豪と軌を一にしていると思う。ロシアの偉大な芸術家の一人である。

彼の管弦楽は、実に多彩で雄弁である。曲想やメロディーも湧き上がるような豊かである。抒情的なものと、男性的で激しいものが、両立している。決して軟弱に流れる音楽ではない。


ピアノ協奏曲第1番

 1875年35才のとき作曲された、ピアノ協奏曲は、ワーグナー指揮者でも知られていたピアニストのハンス・フォン・ビューローの絶賛を受け、ハンス・フォン・ビューローのピアノで、アメリカ、ヨーロッパ各地で演奏され、大成功を博した。ピアノ協奏曲第1番は、チャイコフスキーの名を世界に高めるのに大変な貢献をした。ハンス・フォン・ビューローは、この協奏曲を次のように絶賛している。「高潔で力強く、独創的な曲想・・・。完璧に成熟し、気品溢れる形式・・・。あなたの作品の素晴らしさを、すべて数え上げるようとするなら、私は疲れ果ててしまうでしょう」

第1楽章♪♪

シベリア鉄道


冒頭のダイナミックな演奏は、広大なロシア平原を感じさせる。その後のピアノの演奏も力強く雄大である。ロシア的なメロディーが現れ、ロマンチックな雰囲気に変わっていく。この辺りの雰囲気は、シューマンのピアノ協奏曲に似ていて、「ロマン派の風」が流れている。力強い管弦楽が現れ、大自然の雄大さを物語る。ショパン的な華麗なフレーズが現れて盛り上がる。しばらく瞑想的なピアノが続く。やがて、次第に盛り上がりベトーヴェン的な雄大さで締めくくる。

シベリア鉄道は、ロシア平原からシベリアを縦断する雄大な距離を走る鉄道である。また、ロシア的なロマンを感じさせる乗り物でもある。

第2楽章
いかにもロマン派的な抒情的な中間楽章である。

第3楽章
いかにもロマン派的な3楽章である。ロンド形式で、ピアノの華麗なテクニックが披露させる。時に、ロシア的なメロディーが現れる。ロシア的な雄大な演奏が高まりフィーナーレとなる。


交響曲第1番「冬の日の幻想」

第1楽章
♪♪
                            ロシアのトロイカ

                                   

第1楽章は「冬の旅の夢」という標題がついている。ロシアの冬の旅は、雪景色になるので、トロイカという馬車に乗った。第1楽章の出だしは、乗り物に乗っているような律動的な低弦伴奏がついている。弦楽器や管楽器の高音が目立ち、雪景色の雰囲気を出している。温かい人間的な第2主題が出てくるが、冬の厳しい風景に圧倒されてしまう。広大な風景に発展して、再び繰り返す。

第2楽章♪♪
広大な雪景色の平原に夕日が落ちているような楽章である。前奏の後、オーボエが哀愁のあるメロディーを吹くが、平原に夕日が落ちているような風景を思わせる。フルートが、夕日に輝く雪の水滴のようだ。メロディーは弦楽器に譲られる。金管楽器になり、荘厳な雰囲気に高まってゆく。

ロシアの雪の夕暮れ



第3楽章
雪景色を引き続き感じさせる楽章。

第4楽章
ゆっくりした前奏の後、祝祭的な音楽になる。ロシアの民族舞踊などが現れる。初めから繰り返し、ロシアの民族性を賛美するような祝祭的な音楽で終わる。


交響曲第2番「小ロシア」

第1楽章♪♪

                    偉大なノーヴゴロド   ククルイニークスイ

                  

第1楽章の初めはアンダンテで、金管楽器による、ロシア的なメロディーが高らかに奏でられる。それは、崇高なまでに荘重である。真のロシア主義を唱ったものであろうか。そしてアレグロに代わり、闘争的な音楽になる。まるで、民族の解放のために戦っているかのようである。

ノーヴゴロドは、ロシアの美しい古都である。ロシア軍は、勇敢に戦い、ナチス・ドイツの侵略を食い止めた。敗北したドイツ軍が倒れている。ロシアの愛国的な画家が描いたものだが、そのような愛国的な精神は、チャイコフスキーの音楽の中にもありそうである。

第2楽章
ロシアの大地と美しい自然を感じさせる。故郷への哀愁のようなものがある。

第3楽章
妖精が飛び跳ねているような楽章である。バレー音楽になりそうである。

第4楽章♪♪
                            聖ワシリー寺院     モスクワ

                                       

荘重なロシア正教の聖歌で始まる。その後、ロシア正教の古都を思わせるような幾分賑やかな音楽になる。第2番を作曲した頃、チャイコフスキーは、モスクワ音楽院で教職をとっていた。モスクワの荘重な古都の面影が作品に反映したのだろうか。


交響曲第5番


 交響曲5番は、チャイコフスキーの交響曲では、一番成功した交響曲である。発表した翌年には、あちこちのオーケストラで演奏されて、チャイコフスキーの代表作に見なされるようになった。人気が出たのは、運命の主題による統一された構成や、大河が流れるような全体的なメロディーの美しさなどで、飽きの来るような楽章はない。また、終楽章の苦悩の後の勝利というロマン派のテーゼを打ち出したことなどが挙げられると思う。

第1楽章
メロディアスな運命の主題があらわれる。流れが合流するようにオーケストラの厚みを増していく。郷愁を誘うような第2主題が出て、ロマンチックな趣を強めてゆく。さらにオーケストラの厚みを増して展開部に入る。運命の主題は、たたみかけるように発展して、人生における試練を暗示するような感情に高まってゆく。郷愁を誘う第2主題が美しく現れる。
運命の主題でこの楽章を終わる。

第2楽章
♪♪
                                 晩鐘          ミレー

                 

ロマンチックな追憶を感じさせる楽章である。また、祈るような想いが込められている。

自然描写としては、平原に夕日が落ちて行くようなロシア的な音楽である。チャイコフスキーの音楽で一番美しい曲ではなかろうか。祈るような敬虔な想いが込められている。ミレーの「晩鐘」は、素朴な農民の姿を、敬虔に描いている。この楽章の祈るような雰囲気に合っているかも知れない。

第3楽章
明るいワルツで終楽章へ橋渡ししている。明るいが懐古的な印象もある。運命の主題が出て、終了する。

第4楽章
♪♪

勝利の女神    ボルゴグラード



冒頭から、長調に変わった運命の主題が現れる。音楽は明るく前進してゆくような雰囲気で進んでゆく。突然、激しい断絶的なフレーズが現るが、それをも飲み込んで、前進的なムードに変えていく。運命の主題が前進的な運命の動機になって明るい雰囲気に変わってゆく。ゲネラル・パウゼ(全体休止)のあと、運命の動機は、勝利の凱歌になり、祝祭的な雰囲気になり終わりを告げる。

ボルゴグラードは、第二次世界大戦最大の激戦地である。今は、巨大な勝利の女神像が建てられている。ロシアも苦戦を強いられたが、ロシア民族の団結によって、ナチス・ドイツを敗北へ追い込んだ。まさに、「闘争の後の勝利」の聖地である。


交響曲第6番「悲愴」


 人生最後の年、創作された交響曲である。この交響曲は、チャイコフスキーの人生の総括にあたる曲だと思う。

第1楽章
この章では、前半生を物語っているように思う。朧気な前奏があり、青年時代の思い出が走りすぎていくようである。懐かしい思い出が、弦楽器の美しいメロディーと伴に語られてゆく。「ロマン派の風」が吹く素晴らしいメロディーである。ところが、激しい不協和音で遮られる。チャイコフスキーに降りかかった災難であろうか。あの不幸な結婚を暗示しているのだろうか。しばらく混乱するような音楽が続く。再び、懐かしく美しいメロディーが現れる。盛り上がり、そして静かに終わる。

第2楽章
哀愁のこもったワルツの楽章である。すべてが、ワルツのように流れて過ぎてゆく。まるで、走馬燈のように過去の出来事が現れては消えてゆく。しばらく不穏な様子になるが、また、美しいワルツのメロディーが繰り返される。過去のことが何か美しい情景となってよみがえってゆく。

第3楽章
あわただしい行進曲のような楽章である。あたかも不可避のごとく運命の流れに乗せられているようだ。行進は次第に派手になり、堂々とした進行になる。チャイコフスキーの作曲家としての栄達を物語っているようだ。しかし、どこか虚しい響があるのを否定できない。

第4楽章♪♪

キリストの変容    ラファエロ



晩年になり、心を通り抜ける風のようなものがよぎっていく。明るい音楽になり、まるで高い天から、光と伴に主イエスが現れて、天に帰るように召されているかのようだ。生まれて来た時と同じように、一人になり主イエスに導かれて天に昇ってゆく。その後、にわかに濃い霧があたり包み、何も見えなくなる。

新約聖書によると、弟子達がいるとき、天に真っ白に輝く主イエスと、モーゼ、エリアが現れ、何事かを相談して、天に消えていった、と云う。「キリストの変容」は、その場面を描いたものである。天に光り輝く主イエスが現れて、チャイコフスキーを天に導いてゆく光景を、幾らかでも連想できないだろうか。


幻想序曲「ロミオとジュリエット」 ♪♪

 チャイコフスキーの作品の中でもよく知られたものである。ロミオとジュリエットだけを聞くとロマンチックなイメージが湧くが、元々原作は悲劇であり、チャイコフスキーも浪漫派の作曲家らしく、ドラマチックな管弦楽の華やかな作品に仕上げている。構成はしっかりしており、曲想のモチーフだけでシェイクスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」の推移が判るようである。

冒頭に中世からルネサンスのころの旋律が出てくると、聞く者を古き時代のヴェロナに誘っているようだ。その後、不安なモチーフが現れ、悲劇の物語を語り初めていく。そして、明るくなることもあるが、徐々に管弦楽が高まり、烈しい闘争的な音楽になる。モンターギュ家とキュピュレット家の争いを表現している。シンバルの音は、剣を交えているように聞こえる。その後、明るいモチーフが現れロミオとジュリエットの純愛を讃えている。ハープの音色がロマンチックである。しかし、それも長くつづかず、展開部に入っていく。闘争的な音楽がつづき悲劇的な物語を読み進めているようである。だが、しばらくすると明るい愛を讃える讃歌が管弦楽で高らかに歌われ最高潮に達する。だが、それも最終的には悲劇的な音楽に変わってゆく。最後に再び中世からルネサンスのころの旋律が現れて、管弦楽が静かに流れ、ヴェロナを遠く離れて行くような情景で終わる。

ロミオとジュリエット          ©いがらしゆみこ


                              ロミオとジュリエット

                            遙か昔の イタリアの
                            ヴェロナの街の 花のごと
                            二つの武門 ありにけり
                            古き伝統 持ちたりし

                            戦(イクサ)すれども 五分と五分
                            勝敗つかず 敵対す
                            争ひあまた ありたれど
                            その都度血潮 流されき

                            モンタギュー家の 御子(ミコ)ロミオ
                            貴人の娘に 恋したり
                            片想ひにて 落ち込みて
                            孤独の中に 彷徨へり

                            キュピュレット家の 夜会あり
                            ヴェロナの乙女 集ふゆゑ
                            気の進まざる ロミオ呼び
                            仮面かぶりて まぎれたり

                            数ある乙女 ありたれど
                            ロミオの視野に 入(イ)りたりし
                            乙女児なれど 美(ウル)はしき
                            天使の如き 愛らしき

                            言葉かけたり 近寄りて
                            顔(カンバセ)みると 恥じらひて
                            顔赤らめて 目をふせん
                            水仙のごと 慎ましき

                            白き手を取り 口づけす
                            賤しき手をば 謝れば
                            許し給へり 目をみつめ
                            湖に(砂の)舞ふ まなこして

                            さらに聖女に 囁(ササヤキ)きて
                            己の罪を 浄むため
                            キス乞ひたれば 瞳閉じ
                            二人初めて 接吻す

                            乳母(ウバ)姫を呼び 立ち去りき
                            ロミオ初めて 悟らんや
                            キュピュレット家の 姫なるを
                            後戻り出来ぬ 恋なるを

                            世紀の恋よ 奇(クス)しきも
                            されど両家は 仇(カタキ)なり
                            あゝ何といふ 運命の
                            悪戯なりや 如何せん

                            やんどころなき 恋ならば
                            仲良く手を取り ゆきかはし
                            祝福されて 皆よりや
                            婚礼の儀を 挙げしもの

                            恋の神なる アモールよ
                            汝の術(スベ)で とりもてよ
                            奇跡を起こし 成し遂げよ
                            幸ひならん 婚礼を

                            ジュリエット姫 想はんや
                            武門の家の 王子なら
                            凛々しきことぞ 限りなき
                            されどそれだけに あらずなり

                            御使ひのごと 優しきや
                            まなざし中 誠あり
                            親切なりし お言葉よ
                            甘き接吻 夢みたり

                            初恋の人 唯一の
                            生まれて初めて 感じたり
                            男の誠意 真心を
                            貴方の他に 誰もなし

                            ロミオもその夜 想ひたり
                            花壇の中の 花の精
                            神秘の小鳥 未(イマ)だみぬ
                            希望の星の 明星よ

                            御母(オンハハ聖母)の如く 優しきや
                            生きてまします み使ひよ
                            ニンフの如く しとやかに
                            菫の如く 可憐なり

                            身も心をも 捧げんや
                            生きる甲斐なし 君なくば
                            君抱かずして 生きられず
                            君の笑みなくば 希望なし

                            次の日の朝 教会で
                            ロレンス神父 仲立ちで
                            神の御前で 厳かに
                            永遠(トワ)の誓ひ(婚姻の)を なしたりや

                            ロミオ揉事(モメゴト) 巻き込まれ
                            ヴェロナ追放 なりにけり
                            夜ジュリエットと 伴にする
                            なごりも惜しき 別れかな

                            初めての夜 待ちに待つ
                            一つしとねに 二人寝て
                            恋の歓楽 めくるめき
                            つづけましかば 求めまし

                            衣も飾りも 凡て捨て
                            裸体の天使に なりにけり
                            言葉も何も いらざるや
                            触れあうだけで 満ち足りぬ

                            手握りたれば 酔ひしれて
                            接吻すれば とろけんや
                            抱(イダ)きしめれば 燃え上がり
                            谷間も丘も 満ち足りん

                            ヴェロナを出(イデ)た ロミオへと
                            ジュリエットの死 伝わりぬ
                            毒を手に入れ 帰りたり
                            ジュリエットと伴 死なんとす

                            (ロミオ)墓所に入ると パリス(ジュリエットの許嫁)みる
                            パリス花を持ち (ジュリエットを)追悼す
                            ロミオ、パリスを なだめるが
                            剣を交えて パリス死す

                            ロミオ毒を飲み 倒れんや
                            眠薬から 醒めたりし
                            ジュリエット姫 ロミオみて
                            驚喜すれども 息絶えた
                            ロミオに気づき 追ひたりき
                            ロレンス神父 墓所に来る
                            三者の死みて 観念す

                            ロレンス神父 経緯(イキサツ)を
                            両家の者に 話したり
                            両家の不仲(の犠牲)で なくなった
                            姫と御子みて (両家の者)深く悔ゆ

                            イェズスの犠牲 振り返り
                            二人の冥福 祈りたり
                            クロスにかけて 懺悔して
                            両家の和解 誓ひたり

                            尊き二人の 死を知りて
                            街中の人 涙せん
                            モンタギュー家は ジュリエット
                            キュピュレット家は 御子ロミオ
                            純金の像で 建立(コンリュウ)せん
                            
                            星の下にて イタリアの
                            熱き疾風 吹き去りて
                            永遠(トワ)に説かんや 物語
                            永遠の平和を 知らせたり


弦楽セレナーデ作品48♪♪

中期の傑作である。そのころ交響曲4番が作曲されている。作風は円熟しており、このように感動的な室内楽は音楽史上珍しいとも言えるほどである。ロマン派の最高傑作の一つであると思う。

この作品をどう解釈するかについてだが、始めにコラール風の音楽があり、その後弦楽合奏により展開されていく。その後にロココ風の快活な音楽に受け次がれていく。筆者には、このコラールと優雅な雰囲気から、ある美しい貴婦人の肖像が思い浮かんできた。つまり、この弦楽セレナーデ全体がある貴婦人の生涯を物語っているような気がする。

第二楽章は、美しい貴婦人の若かりし頃の舞踏会の音楽である。幸福感に満たされている。社交界の華といわれるような・・・。第三楽章はエレジーとなっている。エレジーとは哀しい歌という意味である。しかし、余り悲観的な音楽ではない。晩年のモーツアルトの方が悲観的である。貴婦人が甘きも苦きも、様々な体験を積み重ねて行く様子をデリケートに描いている。第四楽章は、静かに始まり、三楽章との橋渡しをしている。そして、一気にテンポの速い陽気な音楽が流れてくる。きっと良き人と出逢い幸福な結婚生活が実現したのだろう。最後に貴婦人の肖像の音楽が現れて、貴婦人の生涯の音楽は終了する。




三大バレー組曲

 チャイコフスキーのレパートリーの中でなくてはならぬ重要なのもがバレー音楽である。バレー関係者では、今でもチャイコフスキーは、バレーの守護神のように崇められている。バレー音楽の神様のような存在なのだ。チャイコフスキーのバレー音楽を聞くと、チャイコフスキーは、バレー音楽のために生まれてきたのではないかと思ってしまうのは、筆者だけではあるまい。

チャイコフスキーのバレー音楽を聞くと、よくもこれだけ美しいメロディーが浮かんでくるもんだと思うぐらい、その美しいメロディーに感嘆してしまう。やはり天才作曲家だと改めて思わせる。それだけではなく、バレーの台本にいかにも適した、写実的といってもよいぐらいのロマンチックな音楽が流れてくる。バレーを見ないでも、音楽を聞くだけで感銘できるぐらい素晴らしい音楽であると思う。

チャイコフスキーの音楽は、交響曲などでは、ロシア的な心情が濃く感じられるが、不思議とバレー音楽には、あまりローカル色を感じさせない。都会的といってもよいし、極めて普遍的なバレー音楽になっていると思う。帝政ロシアの時代には、バレー団は王室の直属であり、宮廷文化と深い関わりがあった。しかも、バレーは、フランス的な趣味であり、汎ヨーロッパ的なセンスをもっていた。したがって、チャイコフスキーも、フランス的な西欧的な曲を作らざるを得なかったに違いないと思う。バレー音楽だけ聞けば、チャイコフスキーをロシアの作曲家だとは思いにくいくらいである。このような洗練されたバレー音楽を書けたチャイコフスキーの天才にまた驚いてしまう。

三大バレー組曲の素晴らしさは、どなたもよくご存じなので、楽曲解説はあえてしないが、チャイコフスキーのバレー音楽は、ロマン派音楽の精華であり、永遠に不滅であることを記しておきたい。



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